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人間と人生を味わい尽くす~神山典士作品集

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音楽、スポーツ、演劇、芸能、ビジネス、料理等、あらゆるジャンルの人間ドラマを描くノンフィクション作家神山典士作品集
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#ゴーストライター

TheBazaarExpress102、『ゴーストライター論』~あとがき

チームライティングの視点

著者の戸惑い

「私の著書が出版された時、神山さんにはその設計図を見せていただきました。それは嬉しかったです」

 本書にも書いた、三重県の障害者アーティストのアトリエを主宰している画家から手紙をいただいたのは、2014年、佐村河内事件報道の中で「ゴーストライター問題」がひとしきり喧伝されたあとのことだった。

 騒動に翻弄された私の身辺が落ち着くのを見計らうように、画

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TheBazaarExpress95、残酷なるかな森達也~映画『FAKE』評

森達也監督作品、『FAKE』を試写でとても興味深く観てきた。

いうまでもなく、私にとっては懐かしくもある「佐村河内守」と「香」夫妻の事件のその後を描いたドキュメンタリー映画だ。

試写の前に、試写状に添えられた森監督のコメントを読んだ。概略すると、

「誰かが笑う。それをニコニコと書くかニヤニヤと書くかでうける印象は全く違う。(略)どちらが真実でどちらが虚偽かなどと論じても意味はない。(略)これ

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TheBazaarExpress92、『ペテン師と天才~佐村河内事件の全貌』11章、疑義まみれのNHKスペシャル

・家族として考えよう

2013年3月31日、夜9時から放送されたNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家」の内容を振り返ってみよう。

まず「交響曲第一番HIROSHIMA」が東京芸術劇場で演奏された直後、満員の観客がスタンディング・オベーションを展開し、その中を杖をついた佐村河内がステージに向かうシーンから始まる。ナレーションはこう入る。

「鳴りやまないスタンディング・オベーション、迎え

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TheBazaarExpress91、佐村河内事件、ゴーストライター問題~「売れたら勝ち(価値)でいいのか?」(2014年4月1日朝日新聞掲載コラム初稿)

 佐村河内事件について、2月の頭から何回か週刊誌で書いている。2月6日には、思いがけず200人を越える報道陣、50台のテレビカメラ、夥しい数のスチールカメラと対面し、激しいスラッシュを浴び続けるという希有な体験もした。いつもは逆の立場にいるだけに、思わぬ展開に少々戸惑っているというのが正直なところだ。 

 この事件がこれほど世間を騒がせることになった理由はいくつかあるが、当初、驚きと共に受け止め

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TheBazaarExpress90、『ペテン師と天才~佐村河内事件の全貌』~9章、二つ目の三角形の完成、障害児とのかかわり

・お仕事は作曲家です

「はじめまして。佐村河内守といいます。守さんのお仕事は作曲家です。一緒に送ったDVDを見てくださいね」

2009年の初夏のこと。千葉県某市に住む大久保家に、一通の手紙が届いた。宛て先は、小学校3年生の長女、みっくんになっている。大きな封筒には、何枚かのDVDも入っていた。手紙はこう続いていた。

「守さんはみっくんだけのピアノ曲『左手のためのピアノ曲』を作曲してみっくんに

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TheBazaarExpress89、『貉、佐村河内事件の顛末』~目次(のちに『ペテン師と天才』として上梓する本の初稿段階の目次です。当初のタイトルは「貉」。もちろん「同じ穴の貉」の意味でした。)

著・神山典士、取材協力、週刊文春取材班

第一部・奇妙な出会い 二重人格 衝撃の告白

1章、バランスの悪い会話

・新垣隆×大久保一家×神山の出会い

・私もゴーストライティングをやっている

・佐村河内守と3者の距離感

2章、2013年の軋轢、その1~不協和音

・大久保家に何があったのか

・佐村河内との確執

・レッスンが続けられなくなった

・「大人は嘘つきだ」~裸の王様を見破ったメー

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TheBazaarExpress88、『みっくん、光のヴァイオリン』電子出版に際してのまえがき

「大人は嘘つきだ――――」

 2013年の秋、この本の主人公である義手のヴァイオリニスト、この時中学校1年生だった美来さん(通称みっくん)が発信したこの一本のメールが、この時日本中を巻き込んでいた一人の大人のとある大嘘をあばく、決定的な力になりました。

 この頃大きな嘘をついていたのは、この本の後半にも登場する、当時作曲家を名乗っていた佐村河内守さんでした。佐村河内さんは、小学校4年生だったみ

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TheBazaarExpress87、佐村河内事件、第二のゴーストライターA氏への手紙

3/13/2014

A様

突然のお便り失礼します。作家の神山と申します。

ヴァイオリニストのみっくん一家からの依頼と協力を得て、週刊文春に佐村河内事件の記事を書いている者です。みっくんのおかあさんと手話通訳の人からAさんのことを伺いました。

福島県本宮市の合唱歌の制作過程について、私にお話いただけませんか?Aさんはまだ若いし、将来がある方ですから、報道には最大限の配慮をいたします。場合によ

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TheBazaarExpress85、ゴーストライター文化論~幽霊はなぜ書き続けるのか?まえがき

ゴーストライター元年

「全聾の天才作曲家」「現代のヴェートーベン」と言われていた存在が、実は全て虚構だったという事実が明らかになった「佐村河内守事件」。平成の大ペテン師のうしろには、18年間にわたってゴーストライティング(代作)をしていた作曲家・新垣隆氏の存在があった―――。

 この衝撃的な事実が明らかになった2014年は、まさに「ゴーストライター元年」といっていい状況だった。

 2月には、

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