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Vol.1 大学に寄付をするとはどういうこと⁈
寄付とは一体全体何なのか?
どんな価値があるのか?
どんな意味があるのか?
残念ながらきちんと理解している人が多いとはいえません。
皆さんは、大学に寄付をするなんてことは、社会で成功した一握りの卒業生だけがするべきもので、自分とは関係ないと思ってはいないでしょうか?
自分自身の幸福のためには、世の中が良くなることが必要です。
つまり、世の中を良くするためにお金を使うということは、実は自分のためにお金を使うということでもあるわけです。
だから私たちは、自分の代わりに世の中のためになる活動をする団体を支援するため、寄付をするべきだという論理です。
社会を良くするために教育が果たすべき役割はとても重要です。
だから私たちはもっと積極的に、大学の支援をするべきでは?
そう考えて、このnoteの連載記事をはじめることにしました。
しばらくの間、どうぞお付き合いください。
寄付をしたことはありますか?
皆さんは寄付をしたことがあるでしょうか?
子どもの頃に学校などで「赤い羽根」「緑の羽根」といった募金に、お小遣いから寄付をした人は多いかと思います。
それでは、1,000円以上の寄付ならどうでしょうか?
24時間テレビなどのテレビ局のチャリティ企画に賛同して寄付をした人、2024年の能登半島地震や2011年の東日本大震災などの震災や台風や豪雨による自然災害の被災地に対して多くの人たちが寄付をしています。
日本ファンドレイジング協会発行の『寄付白書2021』によれば、2020年の日本全体の個人寄付総額は1兆2,126億円でした。
前回の2016年の調査では個人寄付総額は7,756億円だったので、約1.5倍と大きく増加しています。
他国との比較を見てみると、アメリカの個人寄付の総額は34兆5,948億円(3,241億ドル)と桁違いで、イギリスは日本より若干多い1兆4,878億円(101億ポンド、2018年)となっています。
また、チャリティエイド財団が調査した結果(2021)から、寄付者率を比較すると、アメリカ45%、イギリス59%、韓国28%、日本12%と、日本は114か国中107位であり、寄付に対して積極的ではないという結果が示されています。(出所:『寄付白書2021』, 日本ファンドレイジング協会, 2021)
「寄付文化が根付いていない」という仮説、または思考停止
アメリカとは文化が違う。
アメリカにはもともと寄付の文化があるから。
それはそうかも知れませんが、一つの仮説に過ぎません。
寄付文化があるとはどういうことなのか、もう少しブレイクダウンしてみると、例えば「キリスト教的精神が寄付を促進している」「多文化共生の国なので言葉ではっきりと寄付をお願いするから」「大学の昔からの伝統として大学トップは寄付集めが仕事であるから」などの具体的な原因が考えられると思います。
とはいえ、それらもすべて仮説です。
「もともと文化が違うから」という仮説を変えられないものと捉えて、検証すらされないのならば、それはもはや”思考停止”です。
思考停止をしてしまったら、そこからは何も解決策は生まれてきません。
日本において寄付に関する研究論文は多いとは言えません。
特に大学の寄付に関する研究では、鎌倉女子大学の福井文威 准教授の素晴らしい研究などあるものの、論文数は圧倒的に少ないと感じています。
「寄付に対する漠然とした不信感」という仮説
なぜ寄付文化が日本で根付かないのでしょうか?
寄付を集めることは「お金をせびる」卑しい行為であるという間違ったイメージがあります。
寄付とは富のある人が貧しい人に恵んでやるという上下関係のある行為というイメージを持っている人も少なくないと思います。
また、寄付を語った詐欺まがいのことが存在し、それをマスコミが誇張して報道することによって、人々が寄付全般に不信感を抱いてしまったということもあります。
たしかに、実際に寄付に関しての不正な行為はあります。
しかし、それをすべて法律やルールによって解決しようとするので、正しい寄付活動を行なっている団体にとって不利益となることがあります。
例えば、ある大学が大学の合格を条件にした不正な寄付の要求を受験生家庭に行うということがありました。
その是正策として、「入学に関する寄付」というルールを設け、入学前後の一定期間についての寄付を抑制することがなされています。
まじめに正しく寄付募集活動を行なっている学校にとっては迷惑としか言いようがない、理不尽なルールです。
このような偏ったルールで抑制するのではなくて、リテラシー教育、寄付教育、金融教育といったことにもっと力を入れるべきなのではないでしょうか。
税額控除の優遇措置を知っていますか?
日本において金融教育がきちんと行われているかというと、とても疑問に思います。
皆さんはどのようなお金の使い方を知っていますか?
多くの人は、商品・サービスを購入する「消費」と「貯蓄」しか知りません。
それ以外に「投資」にお金を使う人がいます。
「寄付」にもある意味、投資と同じ成果があります。
投資で得られるのは直接的な個人の利益ですが、寄付の場合は間接的な利益であるという違いがあります。
自分だけが豊かになれば良いと考えるのではなく、自分の所属する地域や、国、あるいは地球市民として、みんなが一緒に幸福になろうとするならば、そのために使われるお金は、ある意味での投資ということもできるのではないでしょうか。
特別な法人として認可を受けているNPOや学校に寄付をする場合、税金が控除される制度があることを皆さんはご存知でしょうか。
控除の方式は所得控除と税額控除とがあります。
所得控除方式は寄附金の額-2千円を所得金額から控除する方式で、税率が高い高額所得者に有利な制度です。
一般的なのは税額控除方式で、寄附金の額-2千円の40%を所得税額から控除するものとなります。
具体的に計算をしてみますと、年間に2万円を寄付した場合、2千円を引いた18,000円の40%、7,200円が控除の対象となります。
つまり、実質12,800円で、支援したい団体に2万円の寄付ができるということです。
これは言ってみれば、自分が支払う税金の使い途を自分で決めるということになります。
行政を信頼して税金の使い途をお任せすることを悪いとは言いませんが、自分で決めて、自分が支援したい団体に税金で支援することが選択できるわけです。
ただし、年間の所得税の25%が上限という制限もあるので注意してください。
大学を取り巻く環境と高等教育の未来
いまさら言うまでもありませんが、少子化が加速する現在の日本は多くの大学にとって経営的にまったく厳しい状況にあります。
一般的な私立大学の収入構造をみると、学生からの学納金が70%以上を占めていて、次いで国からの補助金が10%強を占め、資産運用、事業収入などが5%程度、寄付金収入については、わずか2%程度という構成になっています。
大学の経営はほとんど学生からの学納金に依存していると言えますが、その学生が集められなくなり、定員割れしている中小規模の大学は経営破綻の危機の中にあります。
とすれば今度は補助金に頼らざるを得なくなり、その確保にはどの大学も必死になっています。
国は教育に関しての方針を示し、その方針に沿わなければ補助金は与えられないのですが、国の方向性を遵守しているだけでは、画一的な基準のもとで多様性が喪失し、公平、平準化、標準化、均質化がなされ、私立大学は個性を失ってしまうのでは、という疑問が残ります。
すでにそれは始まってしまっているのですが、本当に社会に必要とされている、価値ある大学でさえ消滅する危機にあるというのが大学の現状です。
大学に寄付をするということ
大学に寄付をするということがどういうことか考えてみてください。
大学に寄付をしたことのある個人のほとんどは、その大学の出身者、すなわち卒業生か、在学生の保護者、後援会、教職員だと思います。
そして寄付をする理由は、お世話になったからという感謝の気持ち、大学への愛着、帰属意識、誇り、そしてあまり良いことではありませんが、教職員であれば同調圧力による動機や、経営層にアピールして出世したいなどの魂胆が透けて見える場合もあるでしょう。
しかし、私たちが望むべき寄付は、大学への投資としての寄付です。
深刻な社会課題が山積みである現在、希望といえば大学にあり、教育に期待すること、教育が担うべき役割はとても重要です。
本当に価値のある教育、研究活動を行なっている大学を個人が見極め、そして税金を通してではなく、直接に寄付として応援することで大学の財政基盤の支えとなる仕組みづくりを呼びかけ、支援していきたいというのがこの記事の目的です。
大学寄付促進を持続的に
今は寄付募集を担当する私立大学職員としてこのnote記事を開始しましたが、正直言えば、自分の勤務する大学への寄付促進だけを考えているわけではありません。
日本全体への寄付文化の浸透を視野に入れなければ、寄付者の裾野は広がらないからです。
社会課題の解決を目的とするNPOは、その目的の達成によって、存在自体が不要になるので、「役目を果たして、なくなること」が究極の目標となります。
一方、会社の場合はゴーイング・コンサーンが前提となっていて、必要に応じて目的を変更しながらでも永続していくことをめざします。
私は、ゴーイング・コンサーンを前提としているわけではありませんが、本当に社会に必要な大学たちが、理解のあるたくさんの寄付者・応援者によって経済基盤を支えていける世の中になるまでは、いかに活動を続けていくべきなのかを考えています。
果たしてNPOを設立するのが良いのか、ビジネスにすべきなのか、あるいはこのまま個人の活動として地道に展開していくのか、すべての絵が描かれているわけではないのですが、まずはスタートしたというわけです。
皆さん、応援よろしくお願いします。
【参考文献】
日本ファンドレイジング協会, 2021『寄付白書2021』
日本ファンドレイジング協会「認定ファンドレイザー 必修研修テキスト」
川原淳次, 2018『大学・財団のためのミッション・ドリブン・インベストメント』東洋経済新報社