第1回「広報リーダーシップとは?」
広報リーダーシップ学って、どんな授業?
これから15回シリーズで「広報リーダーシップ学」の授業をお送りしていきたいと思います。
みなさんは「広報リーダーシップ」と聞いて、どんな授業内容を連想されるでしょうか?
どんなことを学べると思いますか?
まず「広報」とは何なのかご存知でしょうか?
広報をテーマにした「空飛ぶ広報室」という小説があります。
新垣結衣さん、綾野剛さん主演でテレビドラマにもなりました。
航空自衛隊の広報室が舞台になっている小説です。
企画書を作成してテレビ局などのメディアに企画を積極的に提案するなど、ワクワクするようなクリエイティブな業務が紹介されていて、「広報の仕事って楽しそうだな!」と思ってもらえると思います。(有川浩『空飛ぶ広報室』2016, 幻冬舎)
大学の広報部をテーマにした「今ここにある危機とぼくの好感度について」という、2021年に放映されたNHKのドラマがありました。
大学の不祥事対応の広報の役割が描かれていましたね。
これを見ると、「広報ってたいへんだな」って思うかも知れません。
企業や社団法人やNPOなどの組織には、広報部などの部署があります。
大学や行政機関にも広報部はあります。
小さな組織の場合は、広報部など広報専門の部署がないこともありますが、規模の大小、頻度の違いはあれど、広報業務は存在します。
広報専門の部署がない場合には、広報の業務と、広告・宣伝やマーケティングの業務とが混同されているというか、同時に考えられていると思うこともあります。
この授業では、広報に関する具体的な業務を学ぶことを目的とはしていません。
具体的な業務に関する学びが大事ではないとは言いませんが、それだけを学ぶ授業ではありません。
昨年(2023年)日本広報学会は、広報とは「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホ ルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を 構築・維持する経営機能である。」と定義しました。
このような、広報の定義や、広報の成り立ちなどを学ぶ授業かと言えば、それもちょっと違います。
「広報論」や「広報史」といった授業では、そうした内容の授業もあると思いますが広報リーダーシップ学の授業はそうではありません。
リーダーシップとは何?
「広報リーダーシップ」の「リーダーシップ」の部分に着目してみましょう。
リーダーシップとは何だと思いますか?
リーダーシップとはリーダーが持っている特別な資質のこと。
人を動かすことができるカリスマ性や権威、権力のこと。
そんなイメージを持っている人が多いのではないでしょうか?
リーダーシップに関しては半世紀以上も多くの研究者による様々な研究が行われています。
例えば「リーダーシップ特性理論」ではリーダーシップは生まれもっての資質であると考えて、優れたリーダーの特性が研究対象となりました。
確かに人間的魅力を備え、カリスマ性で人を率いることができるリーダーはいて、そうしたリーダーシップもあるでしょう。
しかし、現在では度を越した強いリーダーシップはパワハラとなる場合もありますし、組織メンバーのモチベーションを高めるためには、強いリーダーシップばかりが良いとは限りません。
仲間を信頼して任せるリーダーシップもありますし、ワクワクするようなビジョンを描いて導くリーダーシップや、誠実さや信頼感からくるリーダーシップなど、人によって多様なリーダーシップのスタイルがあります。
立教大学経営学部ではリーダーシップを「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーに及ぼす影響力 」と定義しています。
そしてその定義を前提として、近年のリーダーシップ研究で言われていることは「①リーダーシップは全員が発揮できるものである」「②リーダーシップは陰から支える行動も当てはまる」「③リーダーシップは学習可能である」ということです(2021, 舘野)。
誰か一人がリーダーとしてリーダーシップを発揮するのではなく、チームの中でそれぞれのメンバーが自分の得意な形でリーダーシップを発揮しているチームの状態のことを「シェアド・リーダーシップ」と言います。
つまり、リーダーシップは個人が発揮するだけでなく、チームの状態を示すこともあるのです。
だとすれば、チームや部署といった組織が発揮するリーダーシップというものがあるのではないかと考えました。
広報が発揮すべきリーダーシップとは?
ある業界の中で、業界全体にリーダーシップを示す会社があります。
世界の中で、リーダーシップを発揮する国もありますね。
同じように、会社の中で、経営意思決定に影響を与えるリーダーシップを発揮する部署もあることでしょう。
それは経営企画室かも知れませんし、営業が主体の会社であれば営業部かも知れませんし、メーカーであれば製造部や商品開発部であるかも知れませんし、IT企業等であれば、技術部かも知れません。
広報部にも、会社の中で「果たすべき役割」がありますが、それは「発揮すべきリーダーシップ」と言い換えることができます。
広報の業務として具体的にどのようなことがあるかと言えば、例えば「プレスリリースの配信」「WEBサイトの制作・運営」「SNS、オウンドメディアの運営」「社内報の制作」「イベントの企画・運営」「マスコミ、取材対応」「不祥事発生時の対応」などです。
こうした業務はもちろん意味なく実施しているわけではなく、目的が存在します。
広報は「パブリック・リレーションズ」や「コーポレート・コミュニケーション」と訳されますが、様々な人たちとのリレーションズ=関係づくりであり、コミュニケーションをとるということが業務の目的としてあります。
つまり広報とは「関係性を築くこと」であり、広報スタッフは「コミュニケーションのプロフェッショナル」にならなくてはなりません。
では、何のために関係性を築くのか? コミュニケーションを行うのか?と言えば、「会社の信頼性を高め、会社を好きになってもらうため」です。
さらに、なぜ会社の信頼性を高め、会社を好きになってもらうことが必要なのかといえば、それは会社のビジョンの実現のためであり、目的達成のためなのです。
では、会社のビジョン、目的は何か?と言えば、それはそれぞれの会社によって異なります。
しかし、そもそもビジョンが描かれていなければ広報部は広報のミッションを見つけることができません。
それは広報部に限らず、営業部や製造部、総務部や経理部など、どの部署でも同じことが言えます。
だから、会社にはビジョンが必要なのです。
リーダーシップのスタイル
リーダーシップには多様なスタイルがあると言いました。
例えば、フォロワー(リーダーシップの影響を受けるメンバーのこと)の成長やベネフィットにフォーカスして、 進むべきビジョンやゴールを示した上で、フォロワーに仕え、支援するリーダーシップのことを「サーバント・リーダーシップ」と言います。
また、高い倫理観を持ち、客観的に自分を理解し、フォロワーからの信頼を獲得することで発揮するリーダーシップスタイルがあり、それを「オーセンティック・リーダーシップ」と言います。
そして、組織や社会の倫理的問題の解決に貢献することを促すリーダーシップを「変革型リーダーシップ」と言います。
(参考:石川 淳『リーダーシップの理論』2022, 中央経済社 )
その他にも権力や報酬、罰によってメンバーを動かそうとする「取引型リーダーシップ」(リーダーシップと言えるのか?)やご存知「カリスマ型リーダーシップ」といったスタイルもあります。
リーダーシップのスタイルと広報のリーダーシップ
では、このようなリーダーシップスタイルに、広報のリーダーシップを当てはめるとどうなるでしょうか?
社内のメンバーやチームの活躍を取材して、広報誌やWEBサイトなどに記事を掲載することで、メンバーやチームを励まし、勇気づけ、モチベーションを高めることができます。
それは、広報が発揮する「サーバント・リーダーシップ」と言えます。
あるいは、会社のCSR活動を紹介したり、SDGsを推進する国連グローバル・コンパクトに署名をするなど、社会に対して、会社の意思や意見を表明することは「オーセンティック・リーダーシップ」と言えるでしょう。
また、会社が不祥事を起こしてしまったときに、広報が真摯な姿勢で対応することも「オーセンティック・リーダーシップ」と呼べると思います。
以上は広報の仕事としてとてもわかりやすいと思います。
しかし、広報にはまだまだ重要な仕事があります。
広報とは「広く報せる(しらせる)」と書くので情報発信というイメージが強いと思いますが、広く知らせる以外に、広聴(あるいは公聴)、聴く仕事、情報を集めることが重要な仕事の一つとしてあります。
会社内の良い情報を集めて社外へ発信する。
これが一番わかりやすい広報です。
さらに加えて、社内の情報を社内へ発信することもあります。
社内報などがそうで、インターナル・コミュニケーションと言います。
あるいは、社会の動向、業界のトレンド、国の政策の動き、法律の変更、社会課題、外から見た自社の評判といった社外からの情報を集めて、社内に発信することも広報の仕事です。
会社の内と外にある情報を集めて、社会の動きや流れに置いていかれないように、そこから重要な情報を取捨選択して会社の中にそれを伝える。
経営者や経営執行メンバーが最適な意思決定を行えるための貴重な資料となる情報や、場合によっては戦略提案を行うことも広報の重要な役割だと認識しています。
そしてそれが、会社をより良い変革に導く、広報が発揮すべき「変革型リーダーシップ」に他なりません。
しかし、この重要な役割を理解できていない広報部も実は少なくないと私は思っています。
記事作成などのアウトプットのない、デスクトップリサーチ、メディアクリッピング、セミナー、シンポジウム、展示会イベントなどへの参加を重要な仕事と理解してもらえず、遊んでいると捉えられてしまうという悩みを持っている広報スタッフもいることでしょう。
以上のように、単に広報の定義や歴史、具体的な広報業務に関する知識や事例などを学ぶ以上のことを学ぶのが、この授業の特色です。
なぜならば、この授業を履修する対象の学生を、「将来、広報の仕事をしたいと思っている人」「広報に興味がある人」に限定していないからです。
実際に自分が広報の仕事をしていて思うのは、組織で働くすべての人が広報について理解をし、広報マインドを持つことの重要性です。
広報という仕事は、広報部だけで行うのではなくて、他部署の多くのメンバーの協力が必要不可欠です。
またリーダーシップが必要なのは広報部だけではなく、どのような部署でもリーダーシップの発揮が求められています。
ですから、広報リーダーシップを通して学んだことは、みなさんが卒業して社会に出たときに必ず役に立つことでしょう。
15回の授業プラン
さて、これから授業がどのように展開していくのか、授業プランについてお知らせします。
それぞれの回の内容は、以下にある通りです。
授業は「講義」と、ゲストの「講演」、「演習」で構成していきます。
ゲストの「講演」は、最先端の広報現場で活躍する企業の広報担当者やオウンドメディア制作・運営担当者、PR会社スタッフをお招きする予定です。
「プレスリリース作成」「社内報記事作成」のワークショップはこの授業の⼤きな特⾊であります。
そして、不祥事発⽣をシミュレーションした「模擬記者会⾒」は授業の⽬⽟であり、ハイライトとなります。
この回は、実際のマスコミの記者をゲストに招いて模擬記者会見を実施する予定です。
大学の広報セクションのスタッフ他、学内の多くの教職員の見学者があるのではないでしょうか。
みなさんに学んでもらいたいこと
将来、広報業務の仕事をしたいと思っている人、広報業務に多少の興味・関心を持っている人には以下のような専門性を学べるようにします。
• 広報の定義、役割、機能、業務内容、重要性について理解する
• 広報戦略の事例を知る
• 広報に必要な能力やスキルを理解する
• 広報視点、広報マインドを理解する
広報にあまり興味がない人にも、広報リーダーシップを通して以下のスキル・マインドを学んでもらいます。
• 広報の、業務以上の意味、企業の目標への貢献、 リーダーシップ発揮が求められていることの理解
• 広報以外の部署・業務でも同様であることの理解
• 部分最適の視点ではなく全体を見る視点を養う
• 聴くスキル、伝えるスキルを養う
• 企業の長所を見つける視点を理解する
• 企業のリスクを察知する視点を理解する
そして結果的に、「リーダーシップ」「貢献意欲」「全体視点」「コミュニケーション能力」「好奇心」「洞察力」「情報処理能力」「読解力」といった能力を身につけてもらいたいと考えています。
本日の授業は以上となります。
みなさん、お疲れ様でした。
次回は、情報収集、デスクトップリサーチ、メディアクリッピングについて学んでいきたいと思います。