手続きの文化から、よく働きよく遊ぶ文化へ|21冊目『シンボリック・マネジャー』
T.ディール/A.ケネディー 著 城山 三郎 訳(1997 , 岩波書店)
日本マネジメント学会に出席してきました
先日、はじめて学会で報告するという経験をしてきました。
日本マネジメント学会での自由論題報告です。
私は、ビジョンやミッションが企業文化やモチベーションにどのように影響を与えるのかということに興味を持ち研究しています。
企業のビジョン・ミッションが尊重されているかどうか、そして個人のビジョン・ミッションは尊重されているのかどうかを、タテとヨコの2軸として4つのボックスをつくり、4つのそれぞれに当てはまる企業とはいったいどのような文化的特色があるのか、ということを知るためにアンケート調査を実施しました。
今回は、その結果の報告です。
司会をしていただいた金沢星稜大学の野林先生から、「ディールとケネディの4つの企業文化タイプではそれぞれに当てはまる業界まで明記していたと思いますが、萩野さんの研究結果から業界や業種について言えることはないですか?」という質問をいただきました。
ディール&ケネディは先行研究として実はノーチェックでした。
本を読んでみると、「企業の種族」として4つの会社のタイプが説明されていて、確かに当てはまる業界が明記されていました。
そうそう、自分もこういうふうに書けたらいいなと考えていたんだよな、と思いましたが、ディール&ケネディは数百社に及ぶ企業を調査していて、相当な数の従業員へのインタビューも実施しています。
私は100名ちょっとのサンプル数のアンケート調査をたった一回実施しただけですから、自信を持って言えることなんて実はありませんでした。
これからさらに調査を進めていかなくちゃなとつくづく思うのでした。
企業文化の構成要素
ディール&ケネディは成功している企業は強い文化を持つとしていて、次の4つの項目で企業文化を分析しています。
まずは会社の理念です。
やっぱり理念は企業文化にとって重要項目ですね。
そして次は英雄の存在。
ディール&ケネディは業界による文化の違いに着目していますが、業界や個別の企業によって活躍できる人、英雄となる人は異なります。
ある会社で成功をして英雄となったからといって、別の会社でも英雄になれるとは限りません。
文化が違えば能力の活かされ方が変わってくるからです。
3つめは儀礼と儀式です。
業界の作法、ルールなどもあるでしょうし、会社によってのしきたり、慣習、行動方針などがあるでしょう。
4つめは伝達です。
組織の伝達といえば、コミュニケーション手法。
会議やコミュニケーションのためのツール、制度や仕組みのことかと思いきや、まあそうした意味もあるのでしょうが、媒介となる組織内の人々のタイプを、語り役、聖職者、耳うち役、うわさ屋、秘書、スパイ、秘密結社と名前をつけてそれぞれについて説明していました。
企業の種族、会社の4つのタイプ
ディール&ケネディは会社の活動に伴うリスクの程度と意思決定や戦略の結果が現れる速さという市場の2つの要素から、企業文化を次の4つのタイプに分類しています。
企業文化のタイプの、まず1つめは、たくましい、男っぽい文化。
つねに高いリスクを負い、速やかに結果が得られる個人主義の世界です。
業界や職種としてあげられているのは、警察、外科医、建設、化粧品、経営コンサルタント、広告、テレビ、映画、スポーツなど娯楽産業のすべて。
この企業文化で英雄となるのは華やかなスター。
個人主義なのでチームの一員となることにはよろこびを感じず、みんなスターになることを目的としているのだといいます。
2つめはよく働き/よく遊ぶ文化。
陽気さと活動が支配する文化で、従業員はリスクを負わず、結果はすぐに現れます。
業界や業種としてあげられているのは、活動的な販売組織の世界で、不動産業者、コンピュータ会社、自動車の販売会社、マクドナルドなど大衆消費者向け販売会社、事務用品製造業社、そしてすべての小売業者。
この文化の英雄はベテランの販売員で、男っぽい文化が個人主義なのに対して、チームが重視されます。
3つめは会社を賭ける文化。
高リスクで結果がなかなか現れない環境です。
業界や業種は、資本財の会社、精錬業の会社、大組織企業、石油会社、投資銀行、建設会社、コンピュータの設計会社など。
英雄的人物となるのは、低姿勢で粘る人。
そして4つめは手続の文化。
結果を知ることのほとんどない、あるいはまったくない世界で、自分たちの作業を評価することができず、代わりに仕事の進め方に神経を集中します。
業界、業種は、銀行、保険会社、政府の大部分、電力会社、製薬会社など。
英雄は組織の完璧さを自分自身の完璧さ以上に守ろうとする人です。
企業文化のタイプの診断
企業文化の4タイプを読むと、血液型占いのようでもあり、あるいは心理学のエゴグラムの性格分析やコーチングのタイプ分けのようにも感じます。
そこに診断テストときたなら、まさに心理診断だなと思いますが、さすがに簡単に企業文化を診断できるチェックリストが付録についているわけではなくて、企業のどのようなところに着目して分類がなされたのかが説明されていました。
それは、例えば、建物や会社内の書類、社員のコミュニケーションスタイル、在職期間、服装、サブカルチュア(下位文化)などです。
興味深かったのは「文化の信念は主に、社員が昇進するために必要であるとみなすものによって形成される」という分析です。
例えば、すでに地位を得た人が、「スーパースターの成績をおさめたからでなくチームワークに優れていたから地位を得た」と考えていれば、その人は他人にもそうした態度を求め、他人もそれを見習うことになるといいます。
誰が昇進したのか、なぜその人が昇進したのか、もっといえば人事制度や評価の基準がその企業の文化にも大きく影響するということだと思います。
象徴的管理者ーシンボリック・マネジャー
そして、いよいよタイトルのシンボリック・マネジャーが登場します。
シンボリック・マネジャーとは強い文化の企業に存在すると想定される、いわばリーダーのペルソナです。
この本に登場する4つの企業文化は、どれが優れていてどれが劣っているという評価がなされたものではなくて、それぞれの文化にはそれぞれの強みと特徴があります。
そしてそれぞれの企業文化に適したシンボリック・マネジャーがその文化を守り、強化し、そして文化を強みとしていきます。
優劣はないようですが、個人的には好き嫌いはあります。
私、個人のことをいえば、思い起こせば、以前は男っぽい文化の企業に勤めていたこともありますし、おそらく今の勤務先は手続の文化の組織となるでしょう。
そして自分はおそらくよく働き、よく遊ぶ文化の組織に向いているタイプだと思うので、はなから居場所を間違えているのかも知れません。
いつもあまり評価されないのは、求められてもいないことに注力しているからなのでしょう。
また、こんなことも書かれていて、なるほどその通りだと思いました。
↓
企業文化の改革
冒頭に書いた、日本マネジメント学会の発表で、ある先生からこんな指摘をいただきました。
「ABCDの4つに企業を分類して、Aに該当する企業が優れていることが明白なのだとしたら、BやCの企業からどうしたらAに移行できるのか、Dの企業をどうやってBやCに移行すべきなのかを考えることが必要なのでは?」
私は、企業を4つのタイプに分類をして、その文化的特徴を探ることばかりに焦点を当てていたので、「移行させる」という観点を失っていました。
ありがたい指摘でした。
私の研究の企業の分類ではABCDに優劣がありますが、ディール&ケネディの分類は優劣をつけるものではありません。
しかし、ある文化から別の文化へ移行させるという視点はあり、改革の事例としてそれが紹介されていました。
それは手続きの文化からよく働き/よく遊ぶ文化への移行によっての改革の事例でした。
少子化で学生募集が容易ではない時代ですから、学校にもイノベーションは必要であり、これからの学校も、手続の文化、から、よく働き/よく遊ぶ文化、への移行が必要になってくるのではないかと私は思います。
とはいうものの、よほど力のあるシンボリック・マネジャーが登場しない限り、残念ながら企業文化はそうは変わらないのでしょうね。
最後までおつきあいいただきありがとうございました。
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