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おっさんの誕生日

見たくないけど奴は闇夜に紛れてやってくる
会いたくないけど押し売りみたいにやってくる

入口で何回も押し問答したけど帰らない
水になったり煙になったりしてでも帰らない

上下を着て三つ指をついて
「おめでとうございます」

もう沢山だ…
俺はちっとも嬉しくない
俺は奴が来るたびにおっさんになる

投げつけたのはケーキならぬ饅頭だ
ベタベタになりながら「おめでとう」

何がおめでとうだとっとと消え失せろ!
除けようとすれば巨岩だし
忘れようと思えば脳内に上がり込む

飯を食おうが散歩をしようがトイレに行こうが
べったし背中に張り付いている
重いし鬱陶しいし何処かへ行けよ!

こらあ!
バースディケーキの蝋燭を吹き消すな!
俺の誕生日だぞ
そりゃあ蝋燭の数がやたら多すぎるが

とことん徹底厚かましい
言葉だけは丁寧だ
何処かの誰かに似ているぞ
(誰だ!?)

時計も疲れ切ってやっと二回りした頃
闇夜に12回打ち鳴らす間際

やっと奴はおもむろに動き出す
ガラスの靴ならぬ下駄を履いて
カランカランカラン

塩ならぬ砂糖をまいて部屋に戻れば
バースデーカードがひっそりと

「追伸 来年また来ますごきげんよう」

 

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