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炉のお稽古

「はい、かなちゃん今日は炉のお稽古をしましょう」
盆略点前もまだまだなのに、えっ〜お師匠さんに急に振られる

母の祥月命日が近づいて私は激しく落ち込んでかなしさを拭えない
その思いを正直にすず先生に話していた
本当は今日だってお稽古をする気力は出なかった
ただお約束をしていたから身体を無理矢理動かして、電車に乗る

お稽古場ではタツ先生がお弟子さんのお稽古をつけ終わり、兄弟子さんが後片付けをしようとしていた

また私は頭も心も空っぽで所作があやふやになっている
大丈夫かな?
その不安を全て見通されるようにすず先生は
「炉に炭が入っているから」と初めての炉のお稽古をして下さるという

「炉ですか…」

目先を変えて、気持ちを違う方に向けて下さるのだ
やさしい方…

略盆点前はお盆の中に全てのお茶道具を入れてお運びをして、柄杓を使わず、お点前をする
炉では柄杓、水差し、建水、茶碗などを一つ一つ炉の側まで運んで行く

そして炉に対して身体を斜めにして座る
何が何やら分からぬうちに
それでも基本は変わらないと言われる

柄杓を使い、湯を汲む以外は略盆点前と同じこと

帛紗を捌き、お稽古をする
水差しの蓋の置き方は独特で立て掛ける
柄杓をカチンと鳴らしたり
何故だか面白い
何が面白いのか分からないけど
面白い

そしてわたしの後からやって来て、お稽古をする兄弟子さんも個性的
来年には芸大を受けると言う
もう定年退職の方なのに

なんだかこのお師匠さんの周りには楽しい方が集まるようだ

兄弟子さんのお客さんをわたしがやる
お点前を拝見しながら所作を観察するけれど、目で追うだけで精一杯

兄弟子さんはお点前が終わった後に自分もお茶を飲みたいと言う
お師匠さんは「そうね」といとも簡単に炉でお点前をやって見せる

兄弟子さんは美味しそうにお菓子食べて、お茶を啜っている
和やかなひと時である


さて…最近読んでいる本は

私とは意気込みが違う
でも読み進むうちに、私と同じことをしている
どちらかの空いている手はちゃんと膝の上に置いておくことを忘れて
手持ち無沙汰になっている

そしてお師匠さんに注意される

そう群ようこさんも同じことを書いていた
なんだかホッとした

図書館で借りて来て
延長してもまだ読みきれず
また借りてくる

全くもって成長しない

あゝ、これもお茶のお稽古と同じこと

考えたら私はお客さんだけ出来れば良かったのである
それがいつの間にか母の帛紗が見つかってお点前をやることに
母にはめられたのか…

息子にも言われた
「お母さんがお茶なんて絶対にやらないと思っていた」
どこからどうしたらこんなことになったのか?

また思う
私はまだまだ生きねばならぬ
そう、もう少しお点前が出来るようになるまでは

母の残した帛紗と共に
足を突っ込んだお茶のお稽古は続いてゆく


お茶よりもみなさんお菓子が好き
なんのはなしでしょう?

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ノリかな
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