たしかに生きていた

母はたしかに生きていた

昨年の暮れまでは

でも今はもういない

あの世に還ってしまった

最初のうちはショックで何にも受け入れられなかった

私も魂の抜けた存在
ただ息をしているだけ
何をしたいのか
何が出来るのか
わからない

泣いてばかりいた
自分のなかに引きこもって
どこにも出られないで

ただ十日に一度のおやさまのところだけは通っていた

最初のころは母のことを教えてくれるから
母が今どんな姿で、
どんな思いをしているのかを
丁寧に教えてくれた
「あなたよりも若くなり、ウキウキしながら天国の花園を歩いている」
それはそれは楽しいでしょう

わたしのところには出てこないくせに
メッセンジャーのお社さんの夢には早々と出てきて
「わたしの今世はお社さんとおやさまに導かれてしあわせでした」
こっちはまだまだ何にも受け止められないのに
自分だけしあわせでいいわね

それは確かにわたしの母だから
おやさまのお話しを沢山聞いて、わたしよりも理解していたと思うけど

あんまりにも早く行き過ぎでしょう

おやさまにも「あんた、ちょっとせっかちなところがある」と言われていたけれど

せっかち過ぎ

ただ覗きに来ただけのおやさまに自分から掴まる人の話しなんて
聞いたことはありません

人に迷惑をかけないであの世に還りたい思いは分かるけど
さっさと逝かれる身にもなってよ

もう少しだけそばにいたかった
あと2日でも3日だけでも
本当は年明けまで
お母さんの誕生日まで

おねがいだから
おねがいだから

あんたなら
ひとりでも生きて行けるでしょ
そんな気持ちが少しでもあったなら
それは違う

絶対に違うから

いろいろとかわいそうな思いをさせて
ごめんねと謝りたいことばかり

何が?って不満顔していたけれど

死んじゃいやだった
いつか死ぬなんて思いたくもなかった
でも肉体は朽ち果てる

洋服を脱ぐように使い古した肉体を
脱ぎ捨てる

あなたは見事にやってのけた
あっさりと

本当はお見事と言って上げないと
分かっている
分かっているよ

でも言えない
どうしても言えない

大好きだから

お社さんに言われた言葉は忘れない

「あなたがあの世に還った時にお母さんは迎えてくれる」

あの世で会えるのね
楽しみにしてるね
待っててね

大好きなお母さんへ

#創作大賞2023

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