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着物を着て初釜へ

お師匠さんに無茶振りされて
「おやしろさんの初釜には着物を着て行きましょう、全てを私が用意するから…」
「そんなんでいいんですか?」
「大丈夫、大丈夫、乗り掛かった船だから。親さまからも頼まれているしね」

わたしはそう言われてユニペット(着物の下着)と糊を落とした足袋だけ持って朝早くお師匠さんの家に向かいます

お師匠さんにクルクルと着物を着せられて、なんとか形になりました
草履まで用意していただいて、スタスタと最寄りの駅まで歩いて行くと
何故だか不思議と形になっているようです
違和感なく、何十年ぶりの着物のはずなのに…

駅まで行く途中で
「お茶会ですか」と見知らぬご夫婦に声をかけられ
「はい、湯河原まで」と明るくお返事をするお師匠さん
やっぱりこの方は人たらし

全てが順調に進んで行きます

乗り換え駅で時間があるからと温かいココアを飲むと心も身もホッコリします

最終目的地の湯河原駅に着くと
ホームで…
「落ちましたよ」とやさしい男の方にわたしの腰紐がハラリと落ちたのを教えられました

えぇ?わたしよりも着付けをしてくれたお師匠さんがビックリ
腰紐と言う名の今時のパチンとピンチで止める紐でした
「カナちゃん、痩せているからね。腰紐が落ちちゃったんだね、私が悪いのよ」
あくまでもお師匠さんが自分の着せ方がよくないと言って下さる

駅の多目的トイレに一目散に二人で駆け込みます

本当に手の掛かる子猿のわたし
それでもお師匠さんは嫌な顔ひとつしないで笑いながら着物を直して下さいました

わたしのことを心から可愛いと思ってくれています
感謝しかありません
頭が下がります
うれしいです

「あまりにもかなちゃんがかなしんで立ち上がれないから、お母さんが親さまに頼んだに違いない」
最近では時折お師匠さんはそう言って下さいます

天の上に還った母からの願いなのでしょうか…

お茶会は十人一組なのに
最初は五人ずつ、薄茶点前に呼ばれました
お師匠さんは正客だから、最初の五人の一番目

お師匠さんの社中の姉弟子さんが一番最後、わたしはその姉弟子さんの前にしてもらい

やはりまた粗相をしそうになり、姉弟子さんのお世話になりました

掛け軸、飾り物、お花、茶器、全てが本物でいいものらしい…

亭主であるおやしろさんの懐の深さを感じます
お茶道具はみんな見せてはくれないそうです
仲間内でこっそりと楽しむらしいです

干菓子を頂き、隣りのお茶室でお社さんのお弟子さんが薄茶点前をしてくれました

わたしたちが薄茶を頂くと待合には濃茶を頂くためにお師匠さんたちが待っています

藁炭わらばいの入った火鉢を囲み、談笑をしているところでした

わたしはお師匠さんの顔を見るとホッとします
やっぱりお師匠さんはパワースポットなのでしょうか…

温かいピンク色の餡が入ったお饅頭を頂き、気持ちは緩みます

お饅頭の入った漆器も波の模様が入った兎が跳ねていました

隣りのお茶室に呼ばれて亭主が濃茶をたてて下さる

お師匠さん家の初釜では濃茶の時にはまだまだ落ち着いてお点前を見る余裕すら無かったけれど

今回は少しだけど手元を見られるようになっていました

流行り病が落ち着いて濃茶は各服ではなくなり、回し飲みになっています

銀色の器に立てられた濃茶を回して飲む
とても美味しくいただきました

最後に点心を頂くとお腹がいっぱいになりました

左利きのわたしは右手でお箸を使うようにしています
お茶をするには右手でなんでも出来るようにならないと

やっぱりお隣にはお猿の妹弟子のむっちゃんが美味しそうに点心を食べていました

最後にはここでも福引きがあり
わたしは目の前にいる社中の姉弟子さんとじゃんけんをして負けました
でも「残りものには福がある」と言われるから、その通りと思っていると

わたしは最後の残りの福引き券ひとつを取ました
「恵」と書かれた紙が当たり
それはなんと抹茶茶碗でした

この間、お師匠さんのお稽古の後に茶筅を買って帰ってから次々とお茶道具がやってくるようになりました

お茶会の最後に亭主のお社さんが顔を出してくれたのでご挨拶をして
「着物を着て着ました」と言うとハイハイと当たり前でしょうと言う顔をされます

そしてお社さんはまたわたしのお師匠さんに「カナさんのことをよろしくお願いします」と頭を下げられます

「いいお師匠さんに出会って良かったね」とお社さんはわたしにも言って下さいました

お師匠さんには「家に帰ったらお母さんに頂いたお茶碗でお茶を立てなさい」と言われます

着物を着て、そのまま家に帰るわけにもいかず、お師匠さんの家に寄り、洋服に着替えて、一休みさせてもらいます

最後までお師匠さんには甘えっぱなし

やっぱり神様がわたしのために素敵なお師匠さんを用意されたのでしょう

ありがたいです

お茶会では一緒に心学びをしているみんなに囲まれて、わたしはしあわせを心の底から感じました


身体はくたびれているはずなのに、気持ちは昂って眠れません

とっても不可思議な初釜の一日でした

そしてお茶会で頂いた抹茶茶碗で母にお抹茶を立てました


最後にもう一つ、お師匠さんであるすず先生のご主人のタツ先生が炊いて下さったご飯ですず先生が朝ごはんにとおにぎりを作って出して下さいました

本当にお世話になります

これからもどうぞよろしくお願いいたします


     まだまだ子猿の弟子より

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ノリかな
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