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スペインで食糧難とポゴシプタ【ポルトガルの道#5】

歩いて旅するポルトガルの道5日目。
足が仕上がってきている。
これは、こういう巡礼旅等のロングトレイルを歩く人なら分かってもらえる感覚だと思うが、足が仕上がりまくってきている。
どういうことかと言うと、足の太ももやふくらはぎ、膝、股関節などの筋肉痛等に悩まされなくなり、スイスイと足が前に踏み出せて、足の裏も固く強くなってきて、靴擦れなどができそうなリスクを乗り越えられた頃合いがやってくる。それを「仕上がってきている」と呼ぶ。知らんけど、私はそう呼んでいる。
剥がれかけていた右足の親指の爪も、もはや死骸同然で何の感覚もなくただ一点のみでぶら下がっているだけ。セミの抜け殻がくっついてしまっているかのような変な状態になってきた。思い切って爪を剝がしてもいいのだが、剥がすときにうまくやらないと、唯一わずかにくっついている部分が傷になる可能性もあるし、裸ん坊になった爪の下の皮膚を保護するものが何もないから、今は皮膚の保護の意味合いでぶら下げていると言ってもいい状態。
とにかく清潔に保とうと毎日テーピングを替えている。そして意味なくその剥がしたテープのにおいを嗅いで確認する。
どういう話から始めるんやという内容だが、さて。
とにかく、足が仕上がってきている5日目である。

世界多分一周旅中ではあるが、私のライフワークともいえる歩き続ける旅「カミーノ」を、長旅の途中に組み込んだ。
通称「カミーノ」とは、スペインの北西にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラという町の大聖堂を目指して、そこへと繋がる巡礼路がいくつもあり、道ごとが世界遺産認定されている美しい道。2015年~2017年に「フランス人の道」というフランスから東西に延びる800㎞のメジャーなルートを歩き通し、次に2019年と2023年にフランス国内のルート「ルピュイの道」を少しずつ歩いていた後、私が選んだのは「ポルトガルの道」。
世界一周の旅の途中にポルトガルのポルトに飛び、そこから海岸沿いのルートをずっと北上して、スペインへと国境を越えて、270㎞先のサンティアゴを目指して毎日歩く。その記録。
マガジン「380km歩き旅!ポルトガルの道」にまとめています。

長すぎる前置き

足が仕上がってきているにもかかわらず、今日は20㎞も歩かない予定なので物足りない。もっともっと歩き続けていたいとすら思う。この先のポルトガルの道は、もう一つのルートと合流したりするようで、歩いている人が増えてくるらしい。
そのため、宿の争奪戦が繰り広げられることとなる。事前に予約して、いい宿をおさえるか、予約なしで早いもの順で泊まれる公営の宿にアタックするかになってくるが、歩くのが遅いので早いもの順だと泊まれない可能性も出てくるため、あまり宿がない行程の場合は、前日に予約することにした。今日は、20㎞も歩かない距離の町にある宿に予約してしまったのだが、ちょうどいいポイントに宿がなかったし、大きい街に泊まるのが私が嫌いなせいもある。20㎞弱なら5時間程度で着いてしまう。せっかくの仕上がった足がもったいないが、日の出前の海岸沿いをゆっくりと歩く。足が仕上がっていたとしても、歩くスピードが速くなるわけではないので相変わらずゆっくりノロノロ歩くのである。

歩いていて感じるが、今日は一段と潮風が強い。目が痛くなるくらい風が強くて、いい休憩ポイントがいくつかあったが、朝ごはんを座って食べるのが難しいくらいであった。チーズとろりんがうまくとろりんできないと思うから、いい休憩場所も泣く泣く立ち止まらずに足早に通り過ぎる。

海岸沿いを歩いたり、少し海岸から離れて車道を歩いたり、村を通り過ぎたり海岸に戻ったりと、今日の道はグネグネと進む。
何とか風がマシになってきた頃に、チーズとろりんタイムに入った。
相変わらず今日もチーズとろりんが美味い。そして、2日目に買ったアップルケーキの容器一つに収まるくらいしか食糧がない事に気づく。
これは大ピンチである。
食糧難過ぎる。どこかで食べ物を手に入れないと…。不安に襲われる。

これしかない涙
そういえば、ポルトガルの国境手前で、チーズとろりんを入れるためだけのタッパーを買った。


心の中で食糧難に焦っていたら、横を通り過ぎる白い車が急に止まった。
車から顔を出して私を呼んでいる。近づいてみると、「ブエンカミーノ!」と言ってオレンジをくれ、通り過ぎて行った。
オレンジを恵んでもらうのは2回目である。
私の顔に「食糧難」って書いてあったのだろうか。それともオレンジを欲しそうな顔をしているのだろうか。真相は分からないが、私はまたも、見ず知らずの人からオレンジをもらった。感謝。

猫や馬に挨拶をしながら進むと、Oiaという町に出た。

この辺は野生の馬が有名らしい。これは飼われている馬。

大きな教会があり、中に入ってみようとするも、時間外だったようで入れず。
外から外観だけを眺めていたら、1人の巡礼者がバックパックを下ろしてノートに絵を描いているようだった。
旅先で絵を描く旅人に非常に憧れを持つ、絵心がある程度ある旅人のはしくれとして、近づいて絵を見せてもらった。


ペン一本でささっとこれだけ細かな描写ができるのってすごいなと思う。
アメリカ人のデヴィッドは、巡礼路を歩きながら、気になる景色を見つけたら時々足を止めて、簡単に絵をかいて残しているとのこと。教会などの建築に興味があるらしい。色々と話を聞かせてもらい、私も実は手のひらサイズのミニ色鉛筆を持って旅をしていることを久しぶりに思い出したが、かぎ針と同じく出番がなく終わりそうである。
いいのいいの。
心が動けばその時に、と思いながらその場で礼を言って別れた。

サンタ・マリア・デ・オイア王室修道院(Monestir de Santa Maria d'Oia)
デヴィッドの絵
バロック様式とゴシック様式
剥がれかけた爪は、今日はなぜかいつもと逆で、テープを巻き付けてから絆創膏で留めている。(意味ない)

今、私の心を動かすものは食糧である。途中にあまりたくさん買い込み過ぎると荷物が増えるので、ゴール直前ぐらいに買い溜めをしたいのだが、なかなかそううまくいかない。なんせ、スペインにはシェスタという時間帯があり、14時頃から16時過ぎくらいまで、お昼寝タイムと称して小さい店などは閉めてしまうのである。その時間帯は大体いつも到着しそうな頃にかぶるので、スペインの14時~16時は巡礼者泣かせの時間帯だと思う。
「ポルトガルは開いてたのにー」と閉まっている店の前で嘆くことは、これまで数知れず。そう考えると、24時間営業しているコンビニがあんなにもたくさんある日本は異常だと思う。住人としては助かるけど。
歩き続けども今日もまた、ルート上に大型スーパーはない。田舎道だから仕方ない。
そんな中、ガソリンスタンドに併設している小さなコンビニのような店が開いているのを発見。よっしゃー!食糧を買いまくるぞ、と意気込んで入店。
なぜか店を出たときに手に入れた物は、プリングルスの生ハム味のみ。

だって、好きなんだもん。スペイン限定の生ハム味のポテチを4年ぶりに食べたかったんだもん。
自分がどうしてこれだけを買ったのか、考えても意味が分からない。欲しいものしか欲しくなくて、欲しいものがこれだった。つまりは、そういうことだ。
そして、早々に宿に到着。
今日の宿も海岸沿いで、気持ちが良い。
レストランが宿に併設されていて、安くで定食を食べさせてもらえるから、どこも出歩かずのんびりできる。
食糧の入手は、明日に勝負をかけるとして、今日は宿でゆっくりすることにした。

宿は広くて、洗濯機もあり、広い物干しスペースがあった。早く着いたので、ほとんどの衣服を洗わせてもらい、めちゃくちゃ物干しスペースを占領して干した。サブバッグも洗った。

乾くのをテラスで待っている時に、これまでよく道で会って挨拶だけ交わしていた顔見知りの韓国人の夫婦がいたので、一緒におしゃべりをすることとなった。

30代の妻チャクちゃんと夫の山P(後で説明)の夫婦は新婚3か月で、チャクちゃんが昔からどうしてもカミーノを歩きたかったらしく、休みが取れないから仕事を辞めたら、なぜか夫の山Pまで勝手に仕事を退職してきて、新婚3か月で夫婦ともども無職になった。せっかくだからと長めの新婚旅行として一緒にゆっくりヨーロッパを周遊して楽しみ、最後に「カミーノを歩こうよ」とチャクちゃんが言い出したらしい。
チャクちゃんがとても明るくて元気で、道で何度か見かけた時、いつも夫を励ましていた。そしていつも夫はうつむいてしんどそうに歩いていて、言葉は韓国語で分からないが、いつもぼやいていた。
その姿を見て不思議だったのだが、謎が解けた。
夫はゆっくりとヨーロッパで美味しいものを食べて、観光をして、いいホテルに泊まって…という普通の新婚旅行を描いていたし、妻がカミーノを歩きたいと言い出すまでは希望通りの新婚旅行だった。
それなのに、新婚旅行の最後の最後に、妻がどうしてもやりたいと言って、このポルトガルの道を毎日歩き続ける旅をする羽目になり、うんざりしているらしい。靴や装備や服などをパリのdecathlonで買ったが、夫はどうもひどい靴擦れをしているらしい。はっきり言って今のところ、全く楽しくないと山Pは言う。チャクちゃんは、「これから楽しくなってくるし、ゴールする時は感動するから」と言って笑う。
これは、もしかすると成田離婚ならぬ仁川離婚になるのではないかというくらい2人の価値観が違うが、チャクちゃんの明るさになんとか山Pが引っ張られているようだ。
その流れで楽しくなってきて、宿のレストランでビールを3人分仕入れ、唯一私が買ったプリングルスの生ハム味ポテチと、2人からはやたらと辛いスナック菓子(さすが韓国人)を3人で分け合い、テラスで宴会となった。
チャクちゃんはNetflixで日本の学園ドラマに夢中らしく、私はNetflixで見た韓国ドラマについてお互いに盛り上がった。チャクちゃんの一番の推しは「Tomohisa!」と言い、トモヒサって誰?って聞いたら、「YamaP!」と言われた。山Pの顔もキャラも演技もすべて好きだと言い、「私の選んだ山Pは、ちょっと文句が多いけどね」と言って夫を指さして笑った。「あなたの韓国人の推しは誰?」と聞かれたので、私も即答で「クォン・サンウ氏!」と答えたら2人は大笑いした。でも私にはクォン・サンウ以外ない。「BTSとかじゃなくて?」と聞かれたので、「BTSのことは一人も知らない」と言って笑われ、私の推しの韓流は20年前で止まっていること、20年前のドラマ「天国の階段」がいかに素晴らしかったかを語り、それに異論はないと2人も同意し、最終的に、3人で「天国の階段」の主題歌「ポゴシプタ」(私が唯一歌える韓国語の曲)をSpotifyで流して熱唱して、大笑いした。



洗濯ものを一緒に取り込み、3人でレストランへ移動。レストランでは、昨日の決意通り、海を見ながらの魚料理をオーダー。鮭のムニエルを美味しくいただいた。
それより何より、パンにスペインのオリーブオイルと塩をつけて食べるのがやっぱり美味しいなと思った。チーズとろりんといい勝負である。

友達から旅の餞別にもらった
travelという名のアロマオイル。
E.T.のポーチにはシルクの防虫シーツが入ってる。
あとシヴァ神のステッカーを貼ったモバイルバッテリーと。
私のベッド周りのグッズ。
行儀が悪くてすみません。

チャクちゃんは、夫の山Pに、「2日後は大きい街に着くから、調べてあるけど、そこにコリアンレストランがあるからね!楽しみだね。それまで頑張ろうね。」と言っている。山Pは相変わらず文句を言っているけど、その文句もネチネチしたタイプではない。「もーしんどい」「最悪や」「もう、嫌やー、助けて〜」と大阪弁でぼやいているような感じで、私もチャクちゃんと一緒に「キムチが山Pを待ってるやん!歩くしかないなー」「しっかりせいや」と励ましたくなる。そして山Pは決して歩くのをやめようとは言わない。妻にとことん付き合う気かも知れない。明るいチャクちゃんのためにも、山Pの靴擦れが治って、後半は、少しでも楽しいと思えるようになることを願ってやまない。
チャクちゃんと2人になった時に、女同士でいろんな話をした。「この長い新婚旅行が終わったら、子供が欲しいけど、自分の人生がガラッと変わってしまうのが怖い。」「親になる前に思いっきり好きなことをしてみたいの。」「このカミーノはきっと一生の思い出になるから、全力で楽しみたいの」「どうしても夫と一緒にゴールしたいの。子供ができたらカミーノの思い出を伝えたいの。」と言っていた。山Pを励ますチャクちゃんを、全力で応援したくなる。山P、頼むから頑張ってチャクちゃんの夢を叶えてやってくれ。

宴を終え、「また道で会おうね」と言って眠りについた。今度は忘れずに連絡先を交換した。

続く…

本日の必需品↓


本日の宿↓


もうすぐ半分かな


ポルトガルの道5日目
A guerdaからMougasまで
37,000歩、19.5km、5時間半。
ポルトから133km進んで、
サンティアゴまで残り147km。

続く…

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のりまき
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