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メコン川スローボート事件簿2日目【ラオス#2】

前回の続き。後編です。

スローボートは、1日目は6時間半ほど乗って17:30にパクベンという村に到着。
この村で1泊して、また明日も同じメンバーでボートに乗ってルアンパバーンまで進む行程である。
パクベンの船着場から近い適当な宿に泊まることにした。
船に乗っていただけで何もしていないのにえらく疲れていた私は、早速シャワーを浴びようと思ったら、毛糸くらいの細さしかお湯が出ず、しかも水圧も弱くてどうしようもなかった。
時間をかけてバケツにお湯を溜めて洗面器でお湯を浴びるインドで時々ある方法でなんとか髪を洗って、擦り傷も白い粉も綺麗に洗い流し、日本から持ってきた軟膏を塗ってケアリーブを貼った。
あまりお腹は空いていなかったが、ラオス一夜目だし、ビアラオをいっとくか、と思い適当なレストランで飲んだ。

パクベンの村ではスローボートに乗っていたメンバーにしか出会わないので、何回もパリピとすれ違ったが、すっかり出来上がっているのにまだアルコールを飲もうとしている様子で、ターボが違うなと感心してしまった。
途中で、船で一緒だったスイス人に「ダイジョブデスカ?」と日本語で足の具合を聞かれた。彼は金沢に住んでいたことがあるらしく少しだけ日本語が話せて、「ダイジョブですよ」と返事してシーユートゥモローした。
パクベンの村にたくさんパン屋があったので、明日用にパンを買った。
ベトナムもかつてフランス領だったので、仕立ての技術やパン作りの技術はアジアの中でも突出してレベルが高いなと感じたが、ラオスのパンからもそれを感じた。バゲットがとにかく美味しい。
しかしパン屋に行って少し驚いた。
チョコクロワッサンが私の知っている形ではなかった。もしかすると、パクベンの人たちはフランス人にクロワッサンの作り方を最後まで習わなかったのかも知れない。
折り方が独特の巨大な蛾のようなチョコクロワッサンを買って、さっさと宿に帰って眠った。

よう分からんフライドライス
巨大な蛾のようなチョコクロワッサン



翌朝。
スローボート2日目。
9時半に出発し、17時半頃に着く8時間の旅。昨日より少し長い。
さてさて、パーティークルーズに覚悟して乗り込もうかと思ったら、昨日と打って変わって静かな船内。
どうやらパリピの皆様は揃って二日酔いのようである。
濱田岳ですらおとなしい。
私は昨日と変わらないテンションで席に座ってバナナを食べようとした。
すると、ボートは昨日と違うようで、椅子がガタガタである。
今にも割れそうなので、椅子の下を覗いてみると大事な支えの木が折れている。
これで8時間持つのだろうか。
一気に不安になる。
すると後ろの席のロシア人の男性がいらない紙を集めて、ガタガタする部分に紙を挟んで椅子を調整してくれた。
「どう?座ってみて」
「うーん、まだ不安定かな」
「じゃこれはどう?」
こういうやりとりを繰り返し、私の納得のいく固定具合まで調整してくれ、「君がこの椅子の上で踊らなければ、問題ないよ」とロシア人が言い、無事に安心して座ることができた。
隣にもうゆうちゃみがいないから私は足も伸ばして優雅にみかんを食べながら、暇つぶしに昨日のパリピたちの様子を観察することにした。

一番はしゃいでいた世界中のチャラさを一身に集めた男は「カラマーゾフの兄弟」を熱心に読んでいる。
Yo!ってしていたノリノリボーイはスティーヴン・キングの「シャイニング」を読んでいる。
君たち、何故今それを読むの。
私はちゃんと沢木耕太郎の「深夜特急」をまた読みますよ。
しかし、パリピと一括りにしても、読書家もいるんだなと感心した。
静かに読書をしたりぼーっとする時間が流れ、昼を過ぎると元気を取り戻してきたパリピたち。
しばらくしてカラマーゾフのチャラ男が本を読むのを中断してまた私の隣に座ってきた。
彼はちょっと体がリズムを刻んでいたため、私とロシア人で「この椅子は壊れかけているから、ここで踊らない方がいい」と忠告した。
昨日腰をくっつけて踊っていた女と、昨日よりも濃密に肩を組んだりイチャイチャしたり最後尾へ消えたりした。
その間私は、昨夜パクベンで何かあったのだろうなと邪推した。
シャイニングの男は、まだ夢中に読んでいて、うっかりネックピローをメコン川に落としてしまった。
私はその瞬間を見ていて「ああ!」と叫んでしまったが、彼と周りのパリピはハイタッチして笑っていたから、パリピという人種の明るさが羨ましかった。
女といちゃつくのに飽きたチャラ男は、おもむろに私の方を向き「ビール好き?」と聞いてきたから「Sure」と答えたら、キンキンに冷えたビアラオをくれた。
それから、途中で乗ってきた子供2人を連れたラオス人のおじさんに、自分の(というかゆうちゃみの)席を譲って、チャラ男は立つことを選んだ。
なかなかいい奴だと思った。

みかん。足癖悪いけど足痛めてるからね。
メコン川でこれ読むの最高。
シャイニングを熱心に読むパリピ
置いてるだけのガタガタの椅子
今日もチキンサンドイッチを持って船に乗った。
S字フックとカラビナを駆使して自分の荷物を吊るしている技を見てほしい。
チャラ男!ごっつぁんです!
ゴミを天井に吊るすパリピ、なかなかやる。
こういう工夫をする人は好き。



しかし、ゆうちゃみ1人分の席に子供2人とおじさんが座ったから、またも私の陣地はゆうちゃみの時以上に狭くなった。
だけど、なぜかゆうちゃみの時ほど腹が立たない。あんなにゆうちゃみと小競り合いをしたのに不思議なものだと思った。
時折子供が椅子に立って飛ぼうとするから、慌てて後ろのロシア人と私で注意してこの椅子に座るならあまり動かないように伝え、なんとか椅子は7時間半持ち堪えた。

途中で何人かのパリピが船の屋根の上に登って日焼けしていることが船員にバレて、ものすごく怒られていた。
アホちゃうかと呆れていたら、それを見ていた別のパリピが「俺たちも登ろうぜ」みたいに走っていったから、穏やかだったラオス人のおばさんにものすごく怒鳴られていた。
そういうバカは怒っていいよと思いながら眺めていたら、ラオス人のおばさんは私と目が合って苦笑していたのがかわいかった。

一番後ろにトイレがあり時々行ったのだが、私のゾーンは前の方で、主に前の方のパリピはEDMミュージックをかけていて個人的には退屈だった。一方で後ろ方のパリピグループはずっとABBAをかけていた。Money,money,moneyを合唱したり楽しそうである。
できることなら私はABBAパリピと共に楽しみたいよと、トイレに行くたび思った。

また、トイレに並んでいたパリピ女子が「ティッシュ忘れた」「私も」「まあいいか」みたいな会話をしていたから、いやいや、そんなショートパンツ履いておしっこ拭かないって良くないよ、と私が勝手に慌てて、バンコクで別の旅人にトイレで恵んでもらったティッシュを、彼女たちに「良かったらどうぞ」と渡したらものすごく感謝された。
正直いけすかない女たちだと思っていたが、翌日以降にルアンパバーンで彼女らに会うたびに、陽気に挨拶してもらえたので嬉しかった。
ティッシュは世界を平和にする。

体中タトゥーだらけのマッドマックス野郎のトイレの順番を、私が知らずに抜かしてしまい、トイレから出て抜かしたことに気づいた時は、殺されるかもと思ったが、ごめんと謝って飴ちゃんをあげたら「わーお、サンキュ」と可愛く喜んでもらえて、その後も街で会うたびハーイって言ってもらえたので良かった。
飴ちゃんも世界平和に役立つ。

ちょっと二日酔いの濱田岳


そんな感じで7時間半はあっという間に(でもない。それなりに長くてメコン川に飽きた。)ルアンパバーンに到着。

パリピもぐったり疲れた状態で、グループごとに車に乗り込んで街へ消えていった。
私は、パリピじゃない仲間のロシア人カップルとスイス人カップルと5人で車をシェアして街の中心部へと向かった。
気づいたら熱い仲間意識が芽生えていて、後でナイトマーケットで一緒に晩ごはんを食べる約束をして、それぞれの宿へと散らばった。
ルアンパバーンの町は小さくてその後もしょっちゅうスローボートのメンバーと出くわした。そして同級生のように挨拶を交わした。
狭い船に2日間閉じ込められて共に時間を過ごすと、面白いことがたくさん起きるし、何となくの薄い絆が生まれる。
今思えば、なかなか有意義な時間だったと思うし、スローボートの旅を選んで本当に良かった。


それから晩ごはんを一緒に食べて、
仲良くなってルアンパバーンで
一緒に遊んだスイス人のハリーとソーニャ




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のりまき
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