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思い出のガリシア【ポルトガルの道#8】

ポルトガルの道、歩き旅8日目。
昨日あたりから、ぽつぽつと歩いている巡礼者が増えてきた。2つのルートが合流したせいである。明日にはまた分かれ道があるから、昨日と今日が、一番歩く人が多い行程かもしれない。
夜明け前に出発したが、今朝に限っては、夜明け前から歩き始めている人が私の他にも数名いた。夜明け前の静かな道を独り占めして歩く私のささやかな楽しみは、残念ながらお預けとなった。

世界多分一周旅中ではあるが、私のライフワークともいえる歩き続ける旅「カミーノ」を、長旅の途中に組み込んだ。
通称「カミーノ」とは、スペインの北西にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラという町の大聖堂を目指して、そこへと繋がる巡礼路がいくつもあり、道ごとが世界遺産認定されている美しい道。2015年~2017年に「フランス人の道」というフランスから東西に延びる800㎞のメジャーなルートを歩き通し、次に2019年と2023年にフランス国内のルート「ルピュイの道」を少しずつ歩いていた後、私が選んだのは「ポルトガルの道」。
世界一周の旅の途中にポルトガルのポルトに飛び、そこから海岸沿いのルートをずっと北上して、スペインへと国境を越えて、270㎞先のサンティアゴを目指して毎日歩く。その記録。
マガジン「380km歩き旅!ポルトガルの道」にまとめています。

長すぎる前置き
昨夜の宿
午前6時過ぎに、私の前を既に歩いている人がいてびっくりした。
レドンデラのサンティアゴ教会
寝起きの私に似ている
朝早いと寒いので、宿でホットカモミールティーをいれて出発するようにしている。
私の習慣、ささやかな楽しみ。
ゲバラはほとんど姿を消そうとしている。

昨夜、寝る前にバゲットにツナのパテとチーズを挟んで切って、サンドイッチにしておいた。前日のうちにサンドイッチを仕込んでおけば、すぐに食べられて楽ということを、今更ながら気づいた。外でバゲットを切って、具を挟んで…と太陽の下でわざわざ準備するのが好きだったが、8日目にもなると特別感はなくなり、すぐに食べたいという効率を求めるようになってしまった。急ぐ必要はないのに、空腹が私に効率を優先させる人間に戻してしまう。
その特別感がなくなった原因はもう一つある。ポルトガルで出会ったチーズとろりんが、スペインに入った途端に姿を消したことである。食べきってしまい、スペインのスーパーで買おうと探したが、どこにも売っていないのである。衝撃的すぎる事実。もう常に山崎まさよし状態で、いつでも探しているよなのだが、大きいスーパーにも小さい商店にもどこにもいない。もしや、スペインに流通していないのか。
なんでや。なんでー!
私が歩いてポルトガルに戻って仕入れてきてやりたいくらいである。いつまでも悲しんでいても仕方がない。山崎まさよし的姿勢で今後も探し続けては行こうと思うが、代わりになる美味しいものを見つけていくしかない。

巡礼者が増えたので、こういうちょっとした巡礼者の興味を引かせるコーナーが出てきた。
あと82.85㎞
こういう楽しませるモニュメントも増えてきた。

途中、美味しそうなケーキ屋さんを見つけたので、フルーツのタルトを2個購入。潰れないように手で大事に持ちながらしばらく歩き続け、休憩コーナーを見つけたので、わくわくしながら2回目の朝食タルトタイムに入ることにした。
嬉しすぎる。
早く食べたい、早く食べたい。
今からまさに食べようとしていた時に後ろからデンがやって来た。「また何か食べるの?いいね、そのタルト」と話しかけられた。
うぅっ。
3秒くらい悩んで、「デン、1個いる?」と聞いた。全くもって本心ではない。頼むから断ってくれという相反する思いでいた私を察したのか、もともと食が細いデンだからか、「No,thank you.君が2個食べるといいよ。」と言ってくれた。言ってくれたという表現は変だが、まさにそういう気持ち。
ありがとうデン。卑しい私は1個120円のタルトを2つ、1人で食べて満足した。たった120円を人に振る舞う心の広さもない人間が、240円で得られる最高のハピネス。禁断の味であった。
別れ際に「もしかすると、ここでお別れになるかも。もう会えないかも。」とデンに言われて驚いた。そうか、デンとは明日から別ルートを選んで歩くことになるため、もう道や宿泊する町で会うことはなくなるのか。急に寂しさを実感する。「別の道に進んでもサンティアゴ(ゴール地点)には行くから、サンティアゴで水曜か木曜に会おうね!」とあいさつして先を行くデンを見送った。歩いてきて8日目だが、ここから先はゴールを意識し始めることになるのだな、とこの時に思った。タルトを1個あげて、2人で食べれば良かったな、目先の空腹感を優先するなんてケチな女だよと思いながら見送った。

余談だが、デンとはその後再会し、モンテネグロでパンケーキを、大阪でお好み焼きをおごってもらった。そのたびに私はこの120円のタルトをデンにあげなかったことを後悔した。ずっと背負っていく罪悪感と後悔。人は後悔と共に生きていくんだなと感じた。これほど思い出深いタルトになるとは買った時には予想していなかったし、今後の人生でもそんなタルトに出会うことはもうないと思う。

そんな大げさなフルーツタルト。ちょっと運ぶときに揺れて崩れてるけど最高だった。

それから1時間半後に3回目の朝食をとる。チーズとろりんの代わりに買った1€のチーズがまずくてがっかりした。そして生ハムが若干傷みそうな気配。さっさと食べてしまうことにした。それにレドンデラで買ったバゲットも美味しくない。とげとげで口を切りそうだし、ぱさぱさ、ぽろぽろしている。珍しく食糧選びに失敗した。そんな中、4個入りのフラン(いわゆるプリン)が美味しい。ちょっと固めで、カラメルも濃いめで私好みの味だった。
今後も見つけたら積極的に購入し摂取していきたい。
しばらく歩いていると、森の中に出張カフェのような店に出会った。そこで温かい紅茶をゲバラマグに入れてもらい、ほっと一息タイムをとる。そんな時に、4日目に同じ宿だったイタリアーノの青年フェデリコと再会し、2人でお茶をしながらおしゃべりをした。フェデリコとはこの後の最後の日々を一緒に過ごすことになるのだが、この時はそんな仲になれるとは思っていなかった。この時は、カミーノと日本の熊野古道について質問攻めに合い、熊野古道について日本語でなら説明できるのに、英語だとちゃんと伝えられない自分の英語力の無さに少し落ち込んだりした。大好きな熊野古道を海外の人に知ってもらいたい気持ちが強いのに、英語力が追い付いていない。とりあえず英語のホームページを紹介し、自分がこれまで歩いた熊野古道の写真を見せてプレゼンをした。

色が変わってきている生ハム。ラップの巻き方が雑。
これはスペインガリシア州名物のオレオ(クッキーじゃない)。
伝統的なケルト民族も関係する建築様式の高床式倉庫で、主に穀物や食品を保存するために使われており、湿気や害虫から食品を守んる役割。ガリシア州の沿岸部は雨が多く、湿気が高いことも関係しているのかなと私の推測。
フルーツもいただいた。
サンティアゴ大聖堂のモニュメントがあるええ感じの森のカフェ。椅子がワラで味わい深い。ここでお茶をするとか、今考えると貴重な時間だった。
ワインになるブドウ畑
ワイン飲みたくなる
口が切れそうな攻撃的なバゲットで作ったボカディージョを
ブドウ畑前でいただく。
あっという間に4個なくなるフラン
こういう小さい教会に寄り道したり
ガリシア州は緑がきれいな印象。
日本の熊野古道に雰囲気が似ているガリシア州の道

3回の朝食と、1回のティータイムと、1回の軽めのランチと4つのフランを食しているうちに今日の目的地ポンテベドラに到着。
6時に出発し14時に到着したから、8時間かかった。休憩を何度もはさんだ割に早く着いたので、スピードも相当上がってきている気がする。やはり、仕上がってきているのか、私の足、そして体力。
しかし、あとで調べたら、20㎞しか歩いておらずいつもより10㎞は短いから、のんびりしすぎていたぐらいだと判明してガクッとした。

シールちゃんおすすめのアルベルゲ(宿)に到着。なるほど。かなり大型の宿泊施設で、モダンで機能的で清潔で、とにかく広い。寝床はカプセルホテルのようになっていてプライバシーも保たれて、なかなかいい。広い物干しスペースがあったので、またも一気に洗濯をして干した。ポーチやアイマスクまで洗濯できたから、潔癖人間として久しぶりに満足できた。25€(3750円)で、いつもの宿の2.5倍ほど高いがそれでも安いので良しとする。

これの何が良いって、階段を上り下りしても揺れない作りであること。2段ベッドで揺れるタイプは睡眠の質に悪影響を及ぼすが、このタイプは完全なる熟睡を得られて良い!
お洗濯日和

先に着いていて、シャワーも洗濯もとっくに済ませてまたNetflixを見ていたシールちゃんと合流し、共有のキッチンへ一緒に食糧を漁りに行った。しかし、シールちゃんの予想と反して、何もめぼしい食糧もなく、米も少ししか残り物がなかったため、シールちゃんが美味しいごはんを作ってくれる案は断念することとなった。せっかくだし、一緒に街歩きをして、スーパーで何か買って作ろうかと意気投合し、ポンテベドラの街へ繰り出した。
すると、今日は日曜日でスーパーがどこもやっていなかったためその案も断念し、2人でどこかのお店に入って何か美味しいものを食べることにした。
シールちゃんは初めてのカミーノ、初めてのガリシア州のため、「ガリシア名物のプルポを食べたい!」と言った。プルポこと、Pulpo a la gallega(プルポ・ア・ラ・ガジェダ)のことである。私は6年前にカミーノを歩いた時に、ガリシア州でプルポを食べたことがあるが、ふっくらして柔らかくて、味もシンプルだけど旨みがしっかりあって美味しかった思い出がある。ガリシア州で覚えているのは、私が以前食べたガリシア風のスープ、Caldo gallego(カルド・ガジェゴ)。あの美味しさは忘れられない。雪が降る中を歩き、寒さで凍えながら入った山の中にあった小さなバルで、何でもいいから温かいスープを…と頼んだら出てきたカルド・ガジェゴの美味しかったこと。味噌汁に似てると思って、日本の味と錯覚して余計にほっとできたのである。シールちゃんの食べたいプルポと、私の食べたいカルドガジェゴのある店を探し、いいレストランがあったのでそこに決めた。
料理が出てくるのを待ちながら、これまでのお互いの話に盛り上がった。歳が近いこともあり、同じく独身の40代の女ということで、めちゃくちゃ話が弾んだ。シールちゃんとは昨日出会ったばかりの気がしない。中学時代の同じバスケ部だった親友に、顔も雰囲気も笑い方もよく似ているからだろうか。シールちゃんのこれまでの人生に起きた壮絶な出来事を聞き、私ののこれまでの人生の話も、ついつい学生時代からの親友のように話せてしまう。色々あってアルコールを長年やめていたシールちゃんだったが、「あなたに出会ってこの話を人に話すことができた。聞いてもらえたことの記念として、1杯だけお酒を飲むわ。自分の今後の人生で何度も思い出す、特別な思い出になると思うから。」と言ってくれて、2人でビールで乾杯した。シールちゃんは半分ほど飲んで、「ここでやめておく」と言い、残りは私がもらった。(それから私はガリシア州の白ワインまで飲んで、調子に乗ったりしたけど。)
ビールを飲んで、しゃべって、カルドガジェゴを飲んで、パンを食べて、しゃべって、プルポを食べて、しゃべって、と忙しい私たち。まだまだ明るい5月のスペインの夕方だった。

ポンテベドラの街
カミーノは、泊まった宿や店や教会でスタンプをもらって進んでいく壮大なスタンプラリーなのだが、シールちゃんはリスボンから歩き始めており、巡礼手帳にもらってきたスタンプが私の2倍はあった。その中で、とても素敵なスタンプがあるのよ、と見せてくれたのがこれ。
チャームとかリボンとかシーリングワックスのとか、可愛くていい!
カルドガジェゴが味噌汁に似ていると思う理由(あくまで私の推測)
・かぶの葉と茎の見た目がわかめっぽい。
・じゃがいもがとろとろに溶けて2日目の味噌汁ぽさがある。
・煮込まれたレンズ豆の味が、大豆に近い→味噌に似てる?気がする。
プルポ!!!
このタコの美味しさはガリシアでしか味わえないと思う。
上にかかった赤い粉はパプリカパウダーだけど辛くなくて味わい深くなる。
木の皿で食べるのが良い。
大阪のたこ焼きに入っているいつまでもかみ切れないタコとは全くの別物。


食べ終わってしゃべりまくってから店を出て、ポンテベドラの街を散策。まだまだ話が尽きないし、まだまだ太陽は沈まない。シールちゃんも明日からはメインルートの方を選んで歩くらしく、スピリチュアルの道の方のルートを選ぶ私とは、サンティアゴまでお別れになる。
明日のパンを買って(余談だが、「明日のパン買わな」と言うのは、大阪人の習性らしい)、シールちゃんがアイスクリームを食べたいと言い出した。かなり高いアイスクリームの金額に尻込みをしたが、彼女と過ごしたポンテベドラの時間は、私の人生において特別な思い出になると思ったから、私もアイスクリームを買って一緒に食べた。
同じ宿に戻り、「水曜か木曜にサンティアゴで会おうね。」というあいさつとお休みのハグをした。

マンゴー味

ポルトガルの道8日目。
RedondelaからPontevedraまで。
39,000歩、20km、8時間。
ポルトから213km進んで、
サンティアゴまで残り67km。

明日からは、デンもシールも黄色い道、私は左の青い道を選んで歩く。
青い道の方が距離的には長そうである。

今日の宿↓

今日の必需品モンベルのを使ってるけど、こういうのが便利↓


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のりまき
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