ラスト・サンティアゴ!
フィステーラでのセレブレーションパーティーは夜中まで続き、せっかくのええ感じのホテルのバスタブも使わないままだった。
早起きして暗いうちから歩き始める生活は完全に終わりを告げるかのように、二日酔いの頭痛がする。
朝何とか起きて、朝のバスでサンティアゴに戻るフェデリコやクリスティーナを見送る。フェデリコはサンティアゴに戻ってすぐに空港に行き、イタリアに帰るので、ここでお別れとなった。
「この後イタリアに行くから、またその時に会おうね」と伝え、笑顔で別れた。
フェデリコは、カミーノを歩いている時に「新しい自分を探したい」と言っていた。自分探し。自分には何もないと言っていた24歳の悩める若者の旅だった。私は「もうあたしゃ新しい自分なんて探してないよ」と言ったりする冷めた大人だったが、ゆっくりのペースで進むフェデリコは、この2週間ではるかに逞しくなったように感じる。昨夜フェデリコに、「新しい自分は見つかった?」と聞いたら、「歩く前より強くなったような気がするし、ちょっとだけ自分に自信が持てるようになったかも。」と照れながら笑っていた。「強くなったしかっこよくなったと思うし、こんなにしんどい道のりを最後まで歩き通せたんだから、もっと自信を持っていいよ」と伝えた。「Positive Vibration!」と腕に入れたタトゥーを指さしながら、言い合った。
出会えて本当に良かったと言ってもらえて、私も同じことを言えた。笑顔でまたねと言い合えたので良かったと思う。
クリスティーナには、「夕方のバスでサンティアゴに着くから夜に落ち合おう」と伝えた。彼女は、「あなたがサンティアゴに来るまでの間にちょっとした用事を済ませておくね。あとで報告するから楽しみにしてて!」と言ってウキウキしていた。
私は一人で夕方までのんびり港でパンを食べたり、ブラブラしたりしながら、この後の予定を少し考えたりした。夕方のバスに一人で乗り込む。土砂降りの中サンティアゴに戻り、また修道院の部屋に戻った。受付の人に「Welcome back!」と言ってもらえてシャワーを浴びて、雨が止んだタイミングで旧市街地に向かった。
いつものようにサンティアゴ大聖堂前でなんとなくクリスティーナを待っていたらちゃんと現れて、雨上がりのサンティアゴ大聖堂の撮影を楽しみ、バルをハシゴした。
「見て見て」とクリスティーナが左腕の内側を見せてくれる。
「あなたがいない間に、あなたの教えてくれたタトゥー屋に行って、これを入れてきたの」
「わお、いいね。カミーノのシンボル!」
可愛いタトゥーがそこにあった。
「あなたが初めてのカミーノでゴールした時に足首に入れたカミーノのサインのタトゥーが可愛いなと思ってたから、私も記念に入れたの」とのこと。彼女は体中にたくさん小さいタトゥーが入っているが、新しく入れたタトゥーが一番かわいい。
二人でバルをハシゴしていたのだが、ふと気づくと、巡礼者ぽい若者が全然町にいなくて、「ねえ、みんなどこに行ったの?」と二人で言い合った。見回すとなぜか高齢者ばかり。サンティアゴのバルでは、いつでもどこでも、毎日、今日ゴールしてきた人たちが集まってお祝いをしているものなのに、巡礼者が誰もいなくなったかのように静まり返って、空気感もしっとりしている。
「そういえばストロングアイライナーもアメリカに昨夜帰ったみたい」
「そうなんだ。セクシーカフェアルヘンティーノも帰ったの?」
「そうみたい。ふふふ。あなたのネーミングセンス、好きだった」と笑い合う。
そんな話をしていたら、寂しくなってきた。
「なんか魔法が解けたみたいね」
「旅が終わったって感じが今、急にした」
「終わっちゃったね」
「もう歩かなくていいもんね」
「デイヴ今どこにいるんだろ」
「みんな帰っちゃったね」
「みんな自分の国に戻っていくね」
「会えなくなるね」
ぽつりぽつりと寂しいセリフがお互いの口から出る。
寂しさを紛らわすようにクリスティーナが「ここから先のあなたの旅の続きを教えて!メキシコには何月頃になりそう?」と元気よく言い、私もこれから先の旅について話す。
「メキシコには11月頃かな、半年後だね。」
「そっか。」
「クリスティーナは明日何時の飛行機?」
「朝10時。帰ったらパッキングしなきゃ」
また静かなモードに戻る。
「毎日毎日、楽しかったね」
「本当に」
「どうだった?45歳初めての一人旅、初めてのカミーノは」
「最高だった。また何年後かに日にちを合わせてカミーノに戻って来て、一緒に毎日過ごそうよ」
「いいね。そうしよう」
「次はどの道にしようか。プリミティボの道?北の道?色々調べないとね」
「どっちもハードな道だよ。私は体力作りを頑張らないと。あなたは走るの?」
「走ると思う。あなたは歩いて私は走るの。楽しみ。」
「私はゆっくり行くわ。」
「本当にあなたに会えて良かった。楽しかった。大好きよ。」
「私も。うわーやめて、泣きそう。ねえ、店を替えて最後に甘いものでも食べに行こうよ」
「さすがあなたね。天才」
チーズケーキを食べ終わってから、「そうだ、最後に見忘れてたものがあるから、一緒に見に行こう」と私が誘った。
噂で聞いていた影の巡礼者を確かめに二人で大聖堂のそばの広場に向かう。
「いた!」
二人で驚いた。
本当にちゃんと杖をついてバックパックを背負い帽子をかぶった巡礼者の格好をしている影がそこにひっそりとあった。二人でその不思議な光景を見てから、クリスティーナのホテルまで送り、最後にハグをして「Mi casa es tu casa.(私の家はあなたの家です)
あなたの旅はインスタで毎日追いかけるからね。そして半年後、メキシコで待ってる!」とクリスティーナが私に明るく言って、別れた。
そして私は一人旅に戻った。
終。
●おまけ その1。
次の日はたった一人で過ごすサンティアゴ最終日。
●おまけ その2。
ここから先を有料にしたのは、プライベートなアルバムとして鍵をかける意味合いです。料金分の価値はないのであしからず。
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