これからを自由に生きるスキルは、美大で学んだ
私が美大に行きたいといったとき、両親は猛反対した。
高い学費を払ってペイできるのか=お金の問題
美術を学んで仕事があるのか=働くことに関する問題
親なら当然、子どもには安定した職業に就くことを望むだろう。
その点から考えると、美大は「卒業しても就職先がない」大学という認識があるのだと思う。(学科によっても異なる)
案の定、私は突出した才能があったわけでもないので、せっかく入学できた美大なのに卒業後は路頭に迷っていた。
仕事にありつけない美大を選ぶんじゃなかった、と後悔しそうになったことが何度もあった。
私が学生だった当時から、大企業に就職することが勝ち組だという考えが一般的たっだし、私も多分に漏れずその考え方を疑わなかったからだ。
「大企業に入らなければ、自分の一生が台無しになる」
「新卒のタイミングは、自分の一生を良きものにするための戦国時代なのだ」みたいな考え方を強いられて、ものすごく窮屈な思いをしていた。
結局、最後の手段として保険にと取っておいた教員免許を使い、美術の教員をすることにした。
教員時代は安定しているしお金はあるけど、やはり心の中では納得のいかないもやもやがたまっていく、というあまり楽しくない毎日だった。
教えるためには学ばないといけない。
自分がもっと成長しないといけない。
けれど、学ぶ環境と時間があまりにもなさすぎる。
お金さえあればいいのか?という疑問が日に日に大きくなっていく。
そして、社会の中でアートがどのように役立っているのか、実際に自分もその中に身を置いて知ってみたいと思い、美術関連の仕事ができる民間の会社に転職した。
もはやこのころには、大企業に対する憧れは消えてしまっていた。
大企業だから、というのは関係なくやりたいことができる環境があるか、というのが私の働く際の指針になっていたからだ。
そんな折に見かけた記事が、ふと気になった。
今後は終身雇用制度が崩壊し、ひとつの職場に限定されない自由な働き方が主流になっていく、といったようなことがそこには書かれていた。
なんだかほっとした。
学生時代から私がずっと違和感を感じ続けていた、就職戦国時代みたいな生き方を多くの人が考え直そうとし始めたのだから。
そして思った。美大で培った力はこれからの自由な働き方を考える際の強みになるんじゃないか。
なぜなら、違和感をなくそうと模索しながら、美術を軸に2つの職業を経験してきた今、少しづつではあるけど自由に働くことができそうな気がしているから。
なにかを作ったり描いたりする時、その制作の過程で思考の幅をかなり広げていかないと作品が納得のいくものにならない。
もう少し、もう少しで発見できる!みたいな「なにか」をひたすら追い求める忍耐力も伴う。
働き始めた当初は、そんな制作の経験が何に生きるのか、さっぱり分からなかったけれど、その思考の幅を広げていく力は、表現とは関係ない場面でも生きていたんだと、社会人生活を振り返った時、あらためて実感した。
働き方が限定されない時代に向かっていくとき、どんな選択をしていくのか。
美大で培った力は私が働く際の基礎力として生きていくのだろうし、そう思うと結局、美大で学べて良かったと思う。
2020年も、既成概念に流されず自分の直観に従い、自分なりに自由に、そしてまじめに働こう。