観光とは「何かを見せる」こと。それは「何かを見せないこと」
「観光は事業である」
2021年が始まりました。
2020年は世界の風景が一変するような激動の年でした。なかでも、観光に関わる人々にとっては(特にインバウンド観光に関係している人々にとっては)、直前までの沸騰が一転して絶対零度にまで冷却してしまったかのような1年でした。
そんななか、MATCHA代表の青木優さんが中心となって立ち上がったFBグループ「今だからこそできるインバウンド観光対策」に参加させてもらいました。毎週水曜日の夜のオンラインイベントや会議を通してメンバーが持ち寄り、またブレイクアウトセッション等を通じて新たに生成されていった知見は「インバウンド観光再出発のガイドライン」という形になり、2020年12月23日にリリースされました。
6万字を超えるものとなった本ガイドラインを貫くのは、「単にコロナ前の観光に戻るのではなく、観光客にとっても住民にとってもよりよい観光を創り上げるために、どのように観光地を運営していけばよいのか」という問題意識です。
私は第10章 「人材育成と多様性は、観光でも重要テーマー観光復活に必要な「人材」多様性を実現する3つの方法」を執筆しました。この章では、地域がインバウンド観光に取り組むということは、「観光という事業ドメイン」で「外国人というカスタマー」を選ぶ、という企業の意思決定と同じだ、というところから話を始めています。「観光は事業である」ということです。
そんなの当たり前じゃないか、と言われそうですが、世の中には(というか、特に日本の人の中には)「観光なんて簡単にできる」「事業というほどのものではないのでは?」と考える人々が意外と多いのだ、とここ数年気付かされることが多かったのです。だから「観光は事業である」と言い切ることが重要なのでは、と考えました。
地域資源を再編集して商品にするという事業
第10章のテーマである観光人材育成について書くにあたって、沢山の方々に教えを乞いました。そのなかのひとりが西谷雷佐さんです。青森出身で今は仙台市在住の西谷さんは、持続可能な観光地域づくりを東北で実践している人です。西谷さんがしていることは「地域の資源を因数分解して、再編集して、商品にすること」「観光客がワンアクションでお金を払って、その商品を買うことで地域経済を回していくこと」です。「自分の子どもや孫が大人になったときに、観光以外の産業で地域が成り立っているのかどうかを想像してみる。(他の産業でやっていけるならいいけど、そうじゃない地域の場合は)観光以外にないじゃないか、と覚悟を決めることが大切」だと教えてもらいました。
西谷さんからお伺いした話が「観光は事業である」というパワーワードに繋がりました。地域の人々が生きていくためにこそ、自ら自覚をもって観光をいう事業を選ぶ(或いは選ばない)という意思決定の重みを教えられたのです。
「見せることは見せないこと」「見ることは見ないこと」
私はこれまで、どちらかというと観光の経済面以外に軸足を置いた教育研究を行ってきたので、「観光は事業である」と言い切ることには、実は若干の違和感のようなものがありました。しかし、こう言い切ることによって、自分の教育研究にも何か良い気づきがあるかもしれない、という予感のようなものがありました。
執筆を終えたあと、書いたものを何度も読み返し、観光の現場にいる人びとにとって何らかの指針となるものが書けたのでは、という小さな自負とともに、ああ、そういうことなんだな、と気づかされたことがあります。それはこういうことです。
地域資源という原材料を用いて、観光商品として編集していく過程というのは「観光客に何を見せるか」「何を体験してもらうか」を地域の側から選び取るということです。それは、裏返すと、「観光客に何を見せないか」「何を体験させないか」を決定することでもあるのです。
この意思決定を旅行会社がするのではなく、地域の観光を担う人々自身が「自分たちの事業」として、顧客を想定しつつも、自分たちが中心となって行うことに意味があるのだと思いました。「正しいプロダクト・アウト」(じゃらんリサーチセンター「とりーまかし別冊研究年鑑2020」)とはこういうことなのでしょう。
観光客側からすれば、ある場所で「何かを見る、体験する」ということは、「何かを見ていない、体験していない」ということと同じだということです。
観光の教育には、観光の提供者になるための教育と、観光客になるための教育の両方が必要だと思っています。観光とは何かを見つつ、何かを見ないことであり、何かを見せつつ、何かを見せないということ。このことは今後の私の教育研究の柱のひとつになっていくと思いました。
(次回以降に書きたいことを備忘録として貼っておきます。「見ないはずのものを見る観光の誤配」。)
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