壊れてゆく家族
最近観た映画から、離れられない。
ビジュアルだったりストーリーだったりキャラクターだったり、なにかひとつでも刺さると、そこから逃れられなくなる。その世界観に没入してしまう。思えば小さい頃からそうだった。それもあって無意識のうちに、語学学習としての、映画やドラマ視聴を避けているのかも知れない。
で、”Dune”と”Shang-Chi”だ。
今日もツラツラと、大半はTimothée Chalametとトニー・レオンを思い出しニヤニヤしながら、ふと気づいたことがある。
これって両方とも、崩壊してゆく家族の話じゃないのか。
私は心理学の専門家でもなんでもないけども、こんな視点でこれらの映画を観てる奴がいるってことで読んでいただけるとこれ幸い。もちろんネタバレしまくってます。
"Dune”
まずは家族構成のおさらい。こちらのオフィシャルサイトが引用元。
父親:Duke Leto Atreides (Oscar Isaac)
Atreides公爵家の当主であり、民を公平に扱う指導者。
お父ちゃんも普通にかっこいいね。
母親:Lady Jessica (Rebecca Ferguson)
女性のみの秘密結社the Bene Gesseritの一員。"Voice"と呼ばれる、声の調子を変えることで他人を操れる特殊能力をもつ。
息子:Paul Atreides (Timothée Chalamet)
Atreides公爵家の跡取り息子。未来が視える能力をもつ。
典型的な、母子密着型な気がする。
別にパパが仕事にのめり込み過ぎor忙し過ぎて家庭を顧みないとか、息子の未来が視える能力を忌み嫌って遠ざけているとかいう訳ではない。父親らしい威厳をもちやさしく会話する場面なり、砂の惑星Arrakisへ移住後一緒に偵察に出かける場面なり、次の当主として息子を育てようという気遣いは十分感じられる。けれど、母親の方が息子に入れ込み過ぎ感が垣間見える。もちろんそういった如何にも、な描写は出て来ないけれども、特殊能力”Voice”、彼女が属する秘密結社の掟によれば、教えてはいけないのに息子に鍛錬させているところとか。
本来であれば、Jessicaは娘を産むはずだった。Jessicaの娘のその息子が”the Kwisatz Haderach”, 人類をよりよき未来へ導く救世主となるべく、例の秘密結社が巧妙に血統を操作して来たのらしい。もしかしたらJessicaは、Paulがそうなんじゃないかと思ってるのかな?
息子に一身の期待をかける母親の姿が浮かぶ。
砂の惑星Arrakisへ移住後まもなく、敵対するHarkonnen家の奇襲攻撃に遭い、父親であるLeto公爵は命を落とす。この惑星、砂まみれなのに、ここを制するものは宇宙を制す、と言われ、全宇宙征服を目論むHarkonnen家の餌食となってしまったのだ。JessicaとPaulは、その特殊能力が故に捕虜として囚われていたが”Voice”を使って脱出を試み、母と息子、ふたりの逃避行が始まる。
これもな…母と息子の疑似恋愛的な匂いを嗅ぎ取ってしまう。実際そんな生易しいもんではなく、生きるために砂の海を渡っていかなくちゃいけないんだが。
本編最後の方で、原住民族the Fremenと出会う。Jessicaの思いとは裏腹にPaulは、惑星Arrakisへ平和をもたらすために彼ら彼女らと道行きを共にすることを決める。それが父親の目的でもあったから。それに、未来を夢で見るときに必ずといって現れる(そしてイチャイチャしている笑)Chaniに出会っちゃったからねー。
Part2制作も決定したようだが、ママはちゃんと、息子離れができるんだろうか。最愛の旦那もいなくなってからに。Part1でも何度か挿入されるPaulが視る未来の映像には、お母ちゃん出て来なかったので、どこかで別離のときが来るのか。
”Shang-Chi”
こちらも家族構成のおさらいを。引用元はこちら。
父親:Xu Wenwu (Tony Leung)
およそ1000年前、不老不死と驚異的な力をもたらす伝説の武器<ten rings>を手に入れて以降、犯罪組織”Ten Rings”を設立し歴史の裏側で暗躍して来た非情なリーダー。
母親:Ying Li (Fala Chen)
伝説の里Ta Loの守り人で、唯一<ten rings>の力を得たWenwuを倒す。その後彼と恋に落ち、彼を受け入れなかった里を出てShang-Chi&Xialing兄妹の母となるが、夫の宿敵である犯罪集団に殺されてしまう。
息子(兄):Xu Shang-Chi (Simu Liu)
母の死後、父の後継者となるべく過酷な訓練により最強の名を手に入れるも、「母を殺した組織のボスを殺せ」という父の命令を口実に組織から逃げた。今はロサンゼルスでしがないホテルマン。
娘(妹):Xu Xialing (Meng'er Zhang)
兄が組織を抜けて渡米したこと、亡くした妻を思い出すからと父にも見放されたことを恨みつつ、マカオで地下格闘場を経営する。Shang-Chiが受けた訓練は受けさせてもらえなかったため、格闘は独学。
いや~これまさに、機能不全家族なんじゃないの?!
父は父で、このしあわせな家庭を築くために伝説の武器<ten rings>と犯罪組織”Ten Rings”を一旦は捨てたのに、過去のしがらみのせいで最愛の妻を亡くしてしまう。<ten rings>が最強過ぎるが故に、めちゃくちゃ後悔したんだと思う。なんであのとき守ってやれなかったのか、と。
その後、自ら<ten rings>の封印を解き、襲撃したライバルに復讐しに行く場面があるが(それもそれでかっこよいのだ(*´ω`*))、もうね、怒りの熱量がヤバいの。しかもその場に、息子を連れていく了見って一体なんなの?
結局この父親は母親しか見てなくって、子どもは見てないのだね。
こういう心の隙間をバケモノにうまく利用され、妻は伝説の里Ta Loに囚われの身となっており助け出さねばならぬ、という妄想に取り憑かれてしまい、災厄への扉を開いてしまうのだった。
(だからこういう男を演らせたら、トニー・レオンが最強説)
息子は息子で、母が殺される場面を目撃しており、トラウマ一直線でしょうよ…リベンジの場へも連れていかれて、父親が敵をメッタメタにやっつける場面を見せつけられるのとかも(結局、襲撃を命じた頭目はその場におらず、「殺しに行け」と命が下ることになる)。
その後、父と師匠に徹底的に武術を仕込まれる…それはもう壮絶な鍛え方だ。本当はまだまだ、お母さんに甘えていたい年頃だっただろうのに。
そりゃ逃げたくもなるだろう。父親から。自分の運命から。
娘は娘で、母が殺されたこともさることながら、兄と同じように武術の訓練をさせてもらえなかったこと、兄が自分を置いて逃げたこと、父に突き放されたことがトラウマになることは想像に難くない。
作中にも、「自分の居場所が必要だった」と吐露する場面がある。だからマカオの地下格闘場をつくったんだ、と。
とは言え、見様見真似であんな優れた格闘家になれるなんて、天才以外の何物でもないと思うけど。それも心の傷の成せる技、か。
途中までは、強大な力を持つ父親を乗り越えてゆく息子の成長譚だと思って観ていたのだが最終的には、亡くした母親を忘れられない父親がしでかした過ちを息子と娘が後始末する話だと気づいた…
この一連の戦いで(最後の方は、人間の出番ではない妖怪大戦争的な展開で、トニー・レオンに魂持ってかれてた私は、「これってMarvelやったわ」と冷静になれた)、伝説の武器<ten rings>は息子へ、犯罪組織”Ten Rings”は娘へ受け継がれた。家族が崩壊してゆくトラウマを克服する契機となればいいんだろうけど。
人間関係の基本というのは、足許の家族であることを実感した2本でした。
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