戦争は「サイバー戦争」になる?
【戦争の目的と、手段】
古来から戦争の目的は「お金」である。つまり「あいつが気に食わないから」という感情的なことでは戦争は起きていない。戦争において「感情」は、戦争遂行のために、自国民を多く動員する必要があるので、大衆操作の手段の一つとして使われている。戦争の目的は「自国領土を拡張し自国の利益を得る」ことにある。対して攻撃を受けた地域や国の政府は「自国の利益を守るため」にそれに対抗する。そこで、争いが起きる。特に第二次世界大戦までは、そのための「戦い」に多くのお金を費やし、多くの犠牲を払ってきた。その争いの元となった「領土」とは、国の政府の支配の及ぶ地域(特定の国の言うことを聞く人が多い地域)のことだ。そしてそこに人の生きるために必須な「食料」や「資源」などの「自然資源」が多いことだ。それは広ければ広いほど良い、とされてきた。つまり「地域」を奪い合って、「特定の地域」の繁栄を得るのが目的だった。
【日本と朝鮮半島の例】
第二次世界大戦の前には、日本(日本政府)というアジアでの強大な「地域勢力」は、より強大になることを目指し、領土拡張を必要として、アジア大陸、朝鮮半島を一時、占領したことがあった。アジア地域勢力の中心としての日本と、欧州の勢力が「領土」の奪い合いをしているのが、アジア大陸とその周辺地域だった。とりあえず、例として朝鮮半島を見ると、そこには日本が繁栄のために必要とした食料「コメ」があった。今でも「東洋拓殖」という、かつて日本政府の作った大企業の建物が韓国にも残っているが、この企業は主に朝鮮半島で作られたコメを日本に輸入するための会社だった。東洋拓殖の非常に立派なビルは、釜山にもあって、そこに行くと、そのビルは「釜山市近代歴史資料館」として今もあり、日本語が堪能なガイドさんが迎えてくれる。そこを訪れると、その方の一人は私に「過去のことは過去のこと。歴史は変えられないから、そこからどうするかを考えるのが今の人のすること」と、語っていた。ところで、東洋拓殖は戦争終結まで残ったが、第二次世界大戦終了に至るまで、どんどん小さくなっていった。朝鮮半島で収穫され、日本に運ばれるコメは、日本本土では「朝鮮米」と呼ばれ、砂利なども交じることがあり、多くの日本人に見向きもされず、売れなかったからだ。
【そして台湾の例】
台湾は、第二次大戦後の1945年に日本が太平洋戦争の敗北を受けて手放した。そこに、1949年に大陸中国の共産党政府(中華人民共和国政府)に敗北して追われた中華民国政府(蒋介石の中国国民党政府)が逃れてきて、臨時政府を作った。台湾はそれまで、日清戦争での日本政府勝利・清の政府の敗北を受けて、50年間、日本の政府の統治下だったので、そこでの利益を得るべく、日本政府は台湾への多くの投資を行った。その投資額は膨大になり、一時は日本政府の屋台骨を脅かすほどであった、ということが、立教大学経済学部の先生方の研究で明らかにされている。台湾の繁栄は戦前の日本政府からの膨大な投資による、というのはよく言われることだ。論文を拝見すると、実際にそうであったのかどうか、は、まさに数字がそれを示している。
現代の台湾は、中華人民共和国政府は「自国の領土」と主張し、中華民国政府も「自国の領土」と主張している地域だ。世界的に見ると「領土」としては大きくなく山がちで平地が少なく、台風や地震等の自然災害も多いところなので、経済的存在感は余り大きくなかった。しかし、第二次大戦後の世界交易の発達などで「地域が小さく産物が少なくても経済的発展はあり得る」というモデルの一つとなった。「領土=利益」という時代は、台湾モデルが崩したのかもしれない。
【大量殺戮の20世紀に人類が得たもの】
第二次世界大戦が終わったら、世界各国はみなソロバンを弾き始めた。戦争の「収支決算」である。そしてわかったのは「これまでの戦争は利益にならない」ということだ。巨大な武器を使い、遠隔地まで多大なエネルギーを使って多くの兵を運んで行ってもその領土が手に入るとは限らないし、守れるとも限らない。その領土を手に入れたとしても、それをまた奪う敵が何時でも現れてくるから、戦費の支出は戦後も限りがなく、ときには大きな一国の政府でも、傾かせるほどであったことがわかってきた。加えて、戦争に負けたらその地域は奪われた土地の政府からはなくなるが、国際交易が発達すると、小さな国や地域でも生きていく糧が得られるようになってきた。また、戦争に勝ってその地域の主権を得た国の政府も、自国領土防衛のための「戦費」が、従来以上に必要になる。
【「例えば」だが。。。】
戦費だけではない。例えば、どこかの超大国が日本を占領したとしよう。そうなると、あの「福島第一原発」だって、その国の「自国の領土」になるわけだから、何百年の長い年月、福島第一原発の被害を抑え込むための莫大な支出を、日本を占領した国の政府がしなければならなくなる。その地域だけ占領を拒否しても、もしも福島第一原発で大きな事故が再び起きれば、その周辺の地域、占領した日本全土が「使えなく」なるから、福島という「いち地域だけは要らない」と言うわけにはいかない。利益を得るために大きなお金と犠牲を払ったその後、その利益が得られても、それ以上の損失が発生する。「採算が合わない」のだ。そういうことがわかってしまった。
【結局は戦争も「ビジネス」だから】
結局、戦争というのは国という大きな塊で行うので「ビジネス」としての採算性が長期に渡って問われる。そのソロバンをはじくと、これまでの戦争には勝ったにせよ、戦勝国を疲弊させていくだけにしかならないことが多いのではないか?そうならない保証はどこにもない。欧州でも、核は使われなかったが、毒ガス兵器などの集積の汚染で使えなくなった地域が未だに存在する。ビジネスとしては「大失敗」になる可能性が大きいのが、これまでの「戦争」だった。ビジネスである以上、「最小の投資」で「最大の利益」を得るのが目的であるし「投資額 > 利益額」であれば、ビジネスは失敗である。その失敗の損失は、自国の衰退、という結果となる。「本末転倒」なのだ。
【サイバー戦争はなぜ起きるか】
しかし、世界は、特に先進国はインターネットを社会インフラとして使う時代に入った。このサイバー空間での攻撃はこの「戦争の不採算性」をひっくり返してくれる可能性が高い。攻撃側はその地域の占領のために、その地域のインフラや経済を壊すことができるが、戦勝後には戦勝国は自分たちがなにをしたかがわかっているので、できるだけクリーンな形で「戦後占領」を行うことができる。言い換えれば「最小の投資額で最大の利益を得る戦争」ができる可能性が高い。今やインターネットを使って電気、水道、ガス、通信が行われるのがあたり前となった先進国では、これらのインフラを止められたら、ひとたまりもない。かつては「銃後」と言われた「前線を支えるもの」から最初の攻撃の対象となるのが「サイバー戦争」だ。前線で必要な「燃料送れ」の通信が途絶えるとどうなるか。前線で必要な水や食料を「銃後」で送る事ができなければどうなるか。「サイバー空間への攻撃」は「前線」「銃後」の区別をなくし「銃後」が最初の攻撃目標になる。そして「前線」の攻撃力を無にしていく。そして、何よりもその「攻撃のための費用」が従来の戦争に比べて「バカ安」なうえ、戦後は、その復旧と再稼働にもお金がかからないうえ、復旧も長引くことがない。一般庶民から見れば「政府のトップが変わった」程度のことになるから、国内でも争い事が減り、そのための出費も減る。
【戦争は経済だから】
結局、戦争は経済そのものだから「お金」で勝敗が決まる。そして「最小の投資」で「最大の利益」を得た人の地域の集団が、勝利者となる。
【ここからは手前味噌です】
もしも、サイバー戦争が始まるとなにが起きるか?を3年前に2冊の電子書籍にした。一冊目がこれ。二冊目がこれ。今でも売れている。毎月1冊とか、だけど。