好きと仕事の複雑な関係
「好きなことを仕事にしよう」「いや、得意なことを仕事にして好きなことは趣味でやるべき」「いやいいや、仕事に熱中していれば好きは後からついてくる」・・・いろんな人がいろんなことを言っているこのテーマ。
リーマンショックの頃に全く興味がなかった造船業界に就職した私は「仕事はつらくて当たり前」だと思っていましたが、働く中で考えが変わってきました。
そもそも仕事って?
仕事という言葉を辞書で引くとたくさんの意味が出ていますが、今回は
2 生計を立てる手段として従事する事柄。職業。「将来性のある仕事を探す」「金融関係の仕事に就く」「週の半分は自宅で仕事する」 (Weblio辞書より引用)
という意味の仕事の話。「生計を立てる」をさらに引くと「生活を送る、日々を過ごす」といった意味がでてきます。とすると、狩猟採集や自給自足の農業からプログラミングやコンサルまで、賃金が発生するかどうかに関わらずそれを成す事で生活ができる行為はすべて「仕事」と言えそうです。
仕事が生活(生存)のために必要なことなのだとすれば、好きだなんだは二の次でできることを仕事にしてプライベートを充実させるのがよさそうです。実際私も学生時代はそう思っていたクチで、なるべく休みが多くて残業が少ない会社に入りたいと思ってました。
リーマンショックの就職難でその甘い夢は崩れ去るわけですが。
仕事に没頭してみる
どうにか就職した造船所では生産管理部に配属されました。朝は早いし夜は遅く、1年目から現場と設計と上長の板挟み。精神的にも体力的にもハードな部署であったうえ、生産管理に1mmの興味もなかった私・・・今風に言うと「配属ガチャ外れ」ってとこでしょうか。
とはいえ早々に転職するような度胸もなかったので、ちょっとでもラクするためにはとにかく仕事ができるようになるしかなく・・・幸い、先輩や同僚には恵まれたのでがむしゃらにやっておりました。
当時生産現場の作業効率を改善する仕事をしていたのですが、数年が経過し自分が考えたやりかたでプロジェクトを動かし結果が出始めると「アレ、ちょっとこれ面白いかもしんない」と。相変わらずプレッシャーはあったし体力的にはしんどかったけど、苦手だった仕事ができるようになったら途端に面白くなってランナーズハイみたいな状態に。気力が充実しているとさらなる成果に繋がって「あれ、これ天職だったかも」なんと思ってみたりして。
仕事ができなきゃ面白くない、できるようになるために時間をかけてがむしゃらに頑張る・・・のっけから昭和チックな話になっちゃいましたが、好きとか嫌いとかを忘れるほど没頭することで見つかる面白さもあるんだと知りました。
ちなみにこの時身に着けたプロマネスキルは後に家業で事業開発するときにめちゃくちゃ役に立つことに・・・そういう意味では配属ガチャ大当たりだったと言えるので人生分からないものです。
仕事に好きを探してみる
どんな仕事にもちょっとした楽しみはあるもの。私の場合、社内プレゼンの資料作りは比較的好きな部類の仕事でした。展開を工夫したりアニメーションに凝ってみたり・・・「どうやったら聞いてる人を唸らせることができるか」と考えながら資料作りをしてるうちにプレゼンスキルも向上し、今、事業をつくる上で大きな武器になっています。
あとは業務改善プロジェクトのために独学で習得したVBAが楽しくなったりもしました。好きこそものの上手なれ、数カ月もするとVBA職人として部署内のエクセルファイルを片っ端から自動化してました。メインは相変わらず生産管理だったので片手間にやってた仕事ですが、好きなことをやってる期間は頭が冴えてくるようで不思議とメインの仕事もうまく回っていて。
100%仕事を好きになれなくても、仕事の1割でも2割でも好きな要素を見つけられれば結構やりがいもって働ける、ってのがこのときの発見でした。
仕事に好きを足してみる
そんな造船所での7年間の勤務を終え、家業の鉄工所で鉄工職人が開発した商品を販売する新規事業をやるとなったときににぶち当たった問題が「どうやってこの商品のことを伝えたらいいんだろう・・・?」ということでした。お金もツテもなにもない。とりあえずやったことが自前のカメラで動画を撮って編集した動画を営業資料とする、というものでした。
写真も動画編集も趣味として10年近くやっていたので、ここぞとばかりに就業時間中に撮影・編集を行い、会社の成果物として意気揚々といろんな人に見せて回るとこれが結構好評で調子にのった私・・・このあたりから仕事と趣味の境目があいまいになってきます(笑)
その後、会社の公式YouTubeチャンネル「鉄工所な日々」を立ち上げ、自社の鉄工職人”メタルクリエイター”の仕事ぶりをアップしていくことに。自社商品を作るようになってからは商品の取説からECサイトの商品写真まですべて自分で撮影しています。
仕事で遊んでみる
2020年からは「ノリノリライフ」というブランドを立ち上げ、キャンプギアを作ることに。タフな環境で使用される道具であればメタルクリエイターの技量が生きるのでは、ということで始めた事業でしたが、当の私は大のインドア派。とはいえキャンプギアを売っている人間がキャンプ未経験というはまずかろう、ということでキャンプデビュー。
ほとんど義務感ではじめてみましたが、自分達が苦労して開発したギアを大自然の中で使う体験が楽しくないわけがなく・・・アウトドアショップの方やお客さまからアウトドアの楽しみ方を教えてもらい、最近の休日はキャンプ行くかアウトドアショップに行くかキャンプの動画編集しているかしています。
ちなみにキャンプしてたりショップにいるときはだいたい「次はこんなギア開発できないかな」とか考えていますが、こういう楽しみ方も仕事にしているから。また、仕事でやるということはその道のプロと日常的に接するということ。いろんな話を聞くことでさまざまな角度から楽しめるようになります。
「好きなことを仕事にしよう」的な話にも聞こえますが、遊びを仕事にしたわけじゃなく仕事の中から遊びを見つけたことがポイントだったんじゃないかと思います。
面白くならない仕事はない
100%面白い仕事が存在しないように100%つまらない仕事も存在しない、と私は思っています。どんなつまらないと思える仕事であっても、面白さの種はあるもの。たとえ単純作業であってもその作業を正確に素早くこなすゲームだと捉えてみれば、案外楽しめたりするものです。そういうことに気づいて面白がれるかどうか、それがとても大切なことだと思います。
社会人1年目の私は、仕事はつらくて苦しいものだと信じていました。だけど目の前の仕事の小さな「好き」を見つけて育てていくうちに、だんだん仕事が楽しくなって、いつからか仕事と遊びの境界がなくなってきました。
もし今、「仕事がつまらない」と感じている方がいれば、自分の仕事で好きになれそうな部分はないか考えてみてはいかがでしょう。
ありがとうございました。