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少女漫画から男が学べること

『海月姫』という漫画を読んだ。日曜日に家族でDVDレンタルに行ったGEOでレンタル落ちのコミックスが1冊50円で売っていたものを購入。産まれて初めて少女漫画を全巻衝動買いし、全17巻を平日の朝と夜に3日で読み切った。

コミックスを衝動買いした理由は以前に『海月姫』の映画を観ていたから。海月姫の映画には能年玲奈が出ている。あまちゃん以降、テレビへの露出があまりない能年ロスを埋めるために部屋のパソコンで一人こっそりとアマゾンプライムを観た。お恥ずかしながら僕は能年玲奈(現のん)のファンである。

正直、映画はイマイチだった。もちろん、ファンである能年は魅力的だったけれど、映画全体の演出が過剰でストーリーに無理があると感じた。漫画なら成立するのかもしれないが、実写映画にはそぐわない題材だと思った。

その映画を観て1年後、50円のレンタル落ちコミックスに出会った。映画はイマイチだったけど、漫画なら成立する話なのかもしれない。それを確認したくて、生まれて初めて少女漫画を購入した。全17巻買っても850円とコスパが良かったからだ。妻と2人の娘は怪訝な顔をしていた。買った理由の説明は「おもしろそうだから」とだけしておいた。家族にも能年ファンであることは内緒だし、「おもしろそう(かもしれない)」と思ったのは嘘じゃないし。

漫画は面白かった。とことん面白かった。日曜夜、ベッドに入ってから読み始めたが、手が止まらずに翌日仕事にも関わらず深夜2時まで17巻を一気読みしてしまった。

リアルな表現で観客にそれが現実だと信じさせなければならない実写映画と違い、少女漫画として映画とはまったく別の文法で描かれていた。

心理描写がすごく多い。書いてある文字の6割が台詞、1割が擬音、そして3割が心理だ。背景の絵も3割は現実ではなくも心の中が漏れたように抽象的だ。海月姫は漫画賞をとり、アニメ化、映画化、ドラマ化までされた人気少女漫画だ。これが現在の少女漫画を代表する一作であると言ってもそんなに間違いはないと思う。

初めて少女漫画を通読したいち男性の衝撃をつたえるため、海月姫を少女漫画の代表と仮定して論を進める。普段読んでいる少年漫画は違う。7割台詞2割擬音1割心理だ。割合にするとそんなに違いはないと感じるかもしれない。でも全然違うのだ。違う点は分量よりも心理描写の広さと深さ、そして鋭さである。

ほとんどの少年漫画に書かれている心理描写は「その人が思っていること」それだけだ。それを文字で書いてある。

でも少女漫画に書かれている心理描写はもっと深い。「思っていること」はもちろん書いてある。でもその先の「本心では思っているけれど本人も気づいていないこと」までが描かれているのだ。こんな心理描写を漫画の吹き出しの文字では書けない。書いてしまうと「本人が気づいていること」になってしまう。

そこでやっと抽象的な背景や差し込む光や花びらや正体不明のぽわぽわしたもの意味がわかった。これによって「本心では思っているけれど本人も気づいていないこと」というさらに一段深い心理までが表現されてるのだ。

文字だけなら心理描写は3割だけど、この抽象的な絵の表現を加えると海月姫の心理描写は全紙面の半分を超えるんじゃないか?

男性と女性では、この人間心理への理解の広さと深さと鋭さの点で大きな段差がある。それが男女コミュニケーションの難しさなのかもしれない。少女漫画は男性が女性の複雑さを知るための格好の教科書だ。

海月姫のストーリーはある意味王道。地味な少女が魔法使いに変身させられ、王子様に出会って幸せになる。シンデレラでおなじみの伝統的な少女ストーリーをなぞったもの。これを現代の現実社会を舞台に17巻もかけて語ってくれる。

男性からすればくどく感じる心理描写をふんだんに盛り込みながら、ストーリーは進んで大団円を迎える。

恥ずかしながら最終刊ラストで僕は涙ぐんだのだ。これは17巻かけて語られた心理描写の積み重ねがあったから。主人公の月海(つきみ)の葛藤をずっと追いかけてきたからだ。主人公の内面の葛藤の積み重ねでラストの涙を誘われたことは少年漫画では記憶がない。

少女漫画を読んで涙ぐむ40男。人には決して見られたくない姿だ。家族が寝静まった深夜2時でよかった。

『海月姫』は面白い。漫画も面白いし、漫画を読んだ後に再度観た映画も面白かった。初見の3倍くらいは。初見ではわからなかった心理描写、特に本人も気づいていない深層心理を能年玲奈の演技から感じ取ることができた。と同時に映画で心理描写をしきれない理由もわかった。少女漫画の技法としての心理描写が広くて深くて鋭すぎるのだ。映画で表現できないくらいに。

少女漫画原作の映画を見るときは副読本としての原作漫画は必須。少女漫画恐るべし。

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和田のりあき/マジックパパ
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