カタールW杯7日目。メッシの活躍で勝利もアルゼンチンのサッカーはまだ甘い
C組、D組の第2節の試合が行なわれたカタールW杯7日目。この2つの組のうち、試合前どちらのグループが注目を集めていたかと言えば、C組の方になる。初戦でアルゼンチンに逆転勝ちしたサウジアラビアの出来も気になったが、それ以上に目が離せなかったのは、アルゼンチンの行方だ。この日の最後に行われたアルゼンチン対メキシコは、アルゼンチンにとっては負ければその時点でグループリーグ落ちが決まる、文字通りの大一番と言えた。
結果を先に言ってしまえば2-0。勝利を収めたアルゼンチンは、グループリーグの成績を1勝1敗とし、ベスト16進出の可能性を残した。得失点差でもポーランドに敗れたサウジアラビアを上回りグループ2位に浮上。3戦目に勝利すれば、自力でのグループ突破を決めることができる状況まで持ち直した。
リオネル・メッシも大活躍した。後半19分、アルゼンチンになんとなく不穏なムードが流れそうになった時間帯だった。ペナルティエリア外から放ったその地を這うようなシュートは、メキシコDFの足元をすり抜けゴールネット右隅に綺麗に吸い込まれていった。アルゼンチンに待望の先制点が生まれた瞬間だった。
前半は両チームともチャンスらしいチャンスはなかったが、後半に入ると徐々にペースはアルゼンチン側に傾いていった。メッシのゴールが決まったのも、そんなアルゼンチンの攻勢が目立ち始めた頃だった。試合はそこから俄然、動き出すことになる。それまでは慎重だったメキシコも同点を狙いに前に出てきたので、試合はここから一気に面白くなった。自然とオープンな展開になっていった感じだ。
1-0となった後は、メキシコが攻め、アルゼンチンがそのカウンターを狙うという展開。メキシコにそれなりに攻め込まれてはいたが、アルゼンチンも、ボールを奪うたびにメキシコを慌てさせる有効な攻撃ができていた。後半42分、ショートコーナーからではあるが、アルゼンチンの追加点には必然性があった。よい流れで試合を運ぶことができていたからだ。
メッシの活躍でなんとか踏みとどまったアルゼンチンだが、決してこの先の戦いに太鼓判が押せるというわけでは全くない。アルゼンチンがよかったというより、メキシコがよくなかったというのがこちらの率直な感想になる。メキシコはなぜ、5バックになりやすい3バックでこの試合に挑んでしまったのか。ディフェンスラインに5人が並ぶ時間がそれなりに多かったので、メキシコの攻撃は常にアタッカーの個人能力頼みだった。メキシコに決定的なチャンスが少なかった理由でもある。初戦のポーランド戦のように4-3-3で戦っていれば、メキシコはもっといい戦いができた。アルゼンチンはもう少し苦戦していた。僕はそう思う。アルゼンチンを怖がり慎重に入ってしまったことが、結果的に相手を勢いづかせてしまった。
アルゼンチンで光ったのは、中盤のロドリゴ・デ・パウルだ。彼がいるといないでは、アルゼンチンの出来は大きく違う。豊富な運動量で、いたるところに進出。想起するのはかつてのマスチェラーノだ。そのプレイスタイルにアルゼンチン魂を感じるのは僕だけではないと思う。ここまでの2試合、アルゼンチンの中盤より上のポジションでフル出場を続けたのは、メッシを除けばこのデ・パウルだけだ。そこに監督の信頼の高さがうかがえる。アルゼンチンの鍵を握る存在だと僕は思う。
この日のアルゼンチンのゴールは、メッシの個人技とセットプレー。どちらも相手をキチンと崩して奪ったゴールとは言えない。引いて守ったメキシコを大いに慌てさせたという感じではなかった。
メキシコが最初から攻撃的にきていれば、アルゼンチンは危なかった。メキシコにも技術の高い選手はそれなりにいたからだ。メキシコの弱気に救われた。ひと言で言えばそうなる。そうした相手にはもう少し多く効果的な攻撃ができないと、この先も苦戦は続くと思う。またその点においては、この試合の前に登場したフランスの方が上だ。フランスの方が理詰めで組織的な攻撃からゴールを奪うことができている。同じ優勝候補でも、先行きが明るそうなのはフランスに見える。
アルゼンチンの3戦目の相手は、この日サウジアラビアを2-0で下したポーランド。アルゼンチンは引き分けではグループ突破は難しい。もう一方のサウジアラビア対メキシコ戦の結果に委ねられる。メキシコ戦に続き、アルゼンチンにとってはこれまた絶対に勝利が必要な試合になる。
アルゼンチンのエースが活躍したように、ポーランドもこの日はエースが大活躍した。ロベルト・レバンドフスキ。この両チームの対戦はバルセロナの新旧エース対決と言えるが、個人的には2021年のバロンドール(世界年間最優秀選手)の決着をつける試合だと思っている。この時はメッシが通算7度目の受賞を獲得。レバンドフスキは惜しくも2位となりバロンドールを撮り損ねたが、いまでもその結果に懐疑的な目を向ける人はけっして少なくない。筆者もそのひとりだが、この試合はその決着をつけるには相応しい。活躍した方が文句なし。勝てばチームは決勝トーナメントに進むことができるが、敗れればその時点で大会から去ることになる。世界中のサッカーファンが目を凝らすであろう試合。レバンドフスキは相当燃えているものと推察するが、チームを決勝トーナメントに導くのははたしてどちらのエースか。好勝負必至のゲームだと思う。
この日もう一つ、個人的に触れたい試合は、オーストラリア対チュニジア戦になる。結果は1-0でオーストラリアが勝利した試合だが、僕的には少々感慨深い試合だった。というのも、この試合唯一のゴールでもある決勝点を決めたのが、何を隠そう、筆者が在住している岡山のクラブチーム、J2で今季3位に入ったファジアーノ岡山に所属するFW、ミッチェル・デュークだったからに他ならない。見慣れている地元クラブの身近な選手が、実際に現場でプレーを見たその1ヶ月後に、まさかW杯でチームを救うゴールを決めるとは、正直想像さえしなかった。デュークはもちろんのこと、気がつけば彼の母国オーストラリア代表に肩入れしている自分がいた。デュークとオーストラリア代表を無性に応援したくなったのだった。
この文章を書いている数時間後には、日本代表の2戦目、コスタリカ戦が始まる。僕が望むものは、そこで面白い試合を披露してもらうことだ。日本人なので、日本を応援し、日本の勝利を願っていることはもちろんだが、それ以上に見たいのは面白い試合だ。もう少し詳しく言えば、応援したくなるようなよいサッカーだ。日本の優勢が予想されるコスタリカ戦だが、そこでキチンとした攻撃をすることができるか。たとえ勝利しても内容が悪ければ、筆者は諸手を挙げで喜ぶつもりはない。逆に敗れたとしても、そこでよいサッカーが披露できれば、こちらはある程度満足はできる。世界のファンが応援したくなるようないいサッカーが披露できるか否か。結果や成績よりも大事なものがサッカーにはある。森保監督には他のどの国よりもよいサッカーを見せてほしいものである。
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