カタールW杯5日目。アフリカ勢が勝てない理由
グループステージの初戦をひと通り終え、ひとまず全32チームが姿を見せたカタールW杯。これまで僕が見た試合の中で面白かったのは、アルゼンチン対サウジアラビア(1-2)、ドイツ対日本(1-2)の試合になる。優勝経験のある誰もが知る強国を相手に、アジアの弱小国がそれぞれ逆転勝ちを収めたその光景は、まさに痛快そのもの。これ以上の番狂わせはそうそうない。大会序盤から早くもご馳走をいただいたという感じだ。
開幕戦で開催国カタールがエクアドル相手にあっさり敗戦。その翌日にはイランがイングランドに2対6で大敗し、さらにはオーストラリアも1対4でフランスに大敗を喫するなど、今大会もアジア勢の不振が心配されたが、サウジアラビアと日本によって、その不安は少なからず軽減された。初戦を勝利したこの2カ国は、最低でも3戦目までは希望を持って戦うことができる。そして昨日は、アジア勢最後に登場した韓国も、南米の強豪ウルグアイを相手に健闘した。試合をトータルで見ればウルグアイの方がやや優勢ではあったが、前評判やその実力差を踏まえれば、韓国を素直に讃えたくなる試合内容だったと言えるだろう。試合開始からウルグアイを相手に一歩も引かず真っ向勝負を挑むその姿は、僕の目にはサウジアラビアや日本よりも力強く勇敢に映ったものだ。結果は0-0に終わったが、少なくともスコアレスドローにありがちな凡戦では全くなかった。両チームの今後に期待を抱かせる試合だった。
そんなウルグアイと韓国が属するH組で本命に推されているのは、ポルトガルだ。大会前にも記したが、今回のこのチームの選手層は、間違いなく過去最高クラス。優勝しても全くおかしくないレベルの顔ぶれが各ポジションに揃っている。ウルグアイ対韓国戦の直後に行なわれたポルトガル対ガーナ戦は、筆者が密かに推している優勝候補の出来映えにとりわけ注目が集まっていた。
結果は3-2。ポルトガルが順当に勝利したとなるが、他の優勝候補に比べると、少なからずバタついた試合だった。
後半20分にクリスティアーノ・ロナウドのPKで先制した後、一時はガーナに同点に追いつかれたものの、ジョアン・フェリックスと途中出場のラファエル・レオンのゴールにより3-1で突き放したところまではよかった。だが後半44分、ガーナのオスマン・ブカリに1点差に詰め寄られるゴールを決められると、ポルトガルの楽勝ムードは一変。なんとなく不穏なムードが流れることになった。そして事件が起きたのは、試合終了間際の後半55分。ポルトガルのGKディオゴ・コスタのミスを見逃さなかったガーナのFWイニャキ・ウィリアムスが背後からボールを奪いかけたその時、まさか足を滑らせて転倒するとは。コスタのプレーはトップレベルの試合では滅多に遭遇しない凡ミスであることは確かだが、それ以上にウィリアムスが転倒したことには驚いた。ガーナにとってはこれ以上ない不運。逆にポルトガルはこの上ないラッキーに恵まれた。そう言ってもいい。あれがなければ、試合は引き分けだった。
2002年の日韓共催大会以降、6大会連続で本大会に出場しているポルトガルだが、これまで初戦で勝利したのは、4位に輝いた2006年のドイツ大会だけだった。それだけに、この初戦の勝利は大きい。今大会は期待が持てる。残る2戦も苦戦しそうなだけになおさらに、だ。ウルグアイ対韓国戦を見る限り、ポルトガルがそう簡単にこの両チームに勝てるとは思わないが、運良く勝ち点3を得たことで、精神的には少なからず余裕はあるはずだ。
ポルトガルは次戦のウルグアイに勝てば、3戦目の韓国戦を待たずに突破が決まる。ウルグアイ同様に激しいプレーを仕掛けてくる韓国と突破を懸けた状況で戦うことは、ポルトガルにとっても相当嫌なはずだ。そうした意味でも、ポルトガル対ウルグアイは必見だと思う。このグループを2位で通過すれば、決勝トーナメント1回戦の相手はG組の1位、おそらくブラジルだろう。優勝を目指すポルトガルにとってはできれば避けたい相手だ。この組を確実に1位で通過するためには、ウルグアイに勝つ必要がある。初戦を引き分けたウルグアイももちろん負けられないため、この試合は好勝負になりそうな匂いがプンプンする。スペイン対ドイツ戦など、こうしたハイレベルな試合を地上波で放送しないことは、僕的には残念でならない。
各ブックメーカーから優勝候補の本命に推されているブラジルは、セルビア相手に2-0で勝利。内容的にも3-0以上でもおかしくない、強さを感じさせる戦いぶりだった。2002年の日韓共催大会以来の優勝を目指すブラジルだが、それ以降で言えば、今回のメンバーが最も優れている。2006年ドイツ大会時にはロナウド、ロナウジーニョ、カカー、ロベルト・カルロス、カフー、ジュニーニョ・ペルナンブカーノなど、大会ダントツの顔ぶれを揃えていたが、サッカーのバランスが悪く、準々決勝でフランスに敗れた。だが今回のブラジルは、よいメンバーに加え、そう悪くないサッカーをする。ネイマールが少し自由に動きすぎな気もするが、目につくのはそれくらいだ。少なくともポルトガルより試合内容は遥かに良かった。
ブラジルが強かったことは確かだが、試合前、筆者はセルビアにも密かに期待を寄せていた。欧州予選ではポルトガルを抑え首位で本大会出場を決めたチーム。少なからずブラジルを苦しめるのではないかと読んでいたが、こちらの予想は大きく外れた。ブラジルを怖がり最初から引き気味に構えてしまったことが、その完敗の要因だと僕は思う。それなりのメンバーを揃えているのだがら、もっと攻撃的に行って欲しかった。ブラジルにパンチを浴びせて欲しかったというのが正直な感想だ。
同じことは、ポルトガルに敗れたガーナにも言いたい。先制点を奪われるまではガーナもポルトガルを恐れたのか、明らかに後ろに引いて構えていた。先制許した直後から一気に攻勢に出たわけだが、だったらなぜ最初からそうしなかったのかとは率直な意見になる。格上のポルトガルにとっては、立ち上がりから向かって来られる方が嫌だっただろう。ブラジルも同様。技術のあるセルビアにガンガン前に来られる方が少なからず困ったはずだ。
ポルトガルに先制されたもの、同点に追いつくことに成功したガーナだったが、その直後立て続けに失点を許したことが結果的には重くのしかかることになった。同点に追いついたその時、試合は明らかにガーナの流れにあった。そこでもう少し試合をコントロールできていればとは、悪いボールの奪われ方から2失点を喫した光景を見ていて思ったことだ。リズムが単調というか、自分達のペースで試合を運ぶことができないのだ。良くも悪くも出たとこ勝負という感じか。ポルトガルと比べればその違いはよくわかる。ガーナの試合運びの拙さが、僕にはもったいなく見えた。ガーナのチャンスはアヤックス所属のアタッカー、モハメド・クドゥスが良い感じでボールを持ったときくらいに限られていた。
ガーナに対して抱いた思いは、この日のスイス対カメルーン戦を見ていても思ったことだ。スイスとカメルーン、それぞれの選手の力量に決してそれほど差があったとは思わない。ボール支配率では46%対54%でカメルーンが上回っていた。チャンスの数もほぼ同じ。カメルーンにも惜しいチャンスは何度かあった。にもかかわらず1-0でスイスに敗れたその要因を考えれば、ゲームをコントロールする力が不足していた、となる。
スイスとカメルーン、どちらが落ち着いてプレーしていたかと言えば、明らかに前者だ。スイスはボールを失っても常に平常心というか、慌てることはなかった。攻撃に関しても、ゴールまでのルートを想像しながらパスを回しているという感じで、カメルーンと比較すれば、パス回しの安定感に大きな差があった。先制点の場面はまさにそれ。シンプルなボールタッチを軸とした展開力に優れたそのパスワークは、サイド攻撃とはこういうものだという、まさにお手本のような崩し方だった。一方のカメルーンに、ゴールまでの道筋を計算しているようなプレーはそれほど見られなかった。身体能力が発揮されたよほどのプレーが出ないと、ゴールが生まれそうな気配は感じなかった。1-0で危なげなく逃げ切ったスイスも褒められるべきだが、それと同じくらいカメルーンの試合運びの拙さにもひと言いいたくなった次第だ。
ガーナ、カメルーン。そして2日目にオランダに敗れたセネガルにも言えることだが、こうしたブラックアフリカ系のチームは概して試合のリズムが単調で、試合の流れに変化をつけることができない。相手にゲームをコントロールされてしまう理由だ。身体能力や選手の力量では互角でも、抑揚の効いたパス回しや潤いがないので、うまく試合を運ぶことができにくい。アフリカ勢がW杯でベスト4の壁を破ることができない理由に他ならない。
一方で同じアフリカ勢でもヨーロッパに程近い、北アフリカ系のチームは少し違う。前回大会で言えばエジプト、今大会で言えばモロッコとチュニジアになるが、これらのチームは少なからず欧州的だ。粘りがあるというか、技巧的な選手が多いので、リズムが単調になることはあまりない。チュニジアがデンマーク、モロッコがクロアチアと、格上相手にも上手く引き分けることができた理由だと考える。
前回グループステージを突破した国はゼロ。そして今回、初戦で勝ち点3を得たチームが一つもなかったアフリカ勢だが、チュニジアとモロッコにはまだ突破の可能性はある。このどちらかが決勝トーナメントに進出する可能性は40%。少なくとも僕はそう見ている。
アフリカ勢は今回も伸び悩んでしまうのか。そして番狂わせを起こしたサウジアラビアと日本を含む、アジア勢はどうなのか。日本だけを見ていてもW杯は楽しめない。各大陸、各地区それぞれのサッカーが交錯するのがW杯の醍醐味だ。世界を見るからこそ、日本のサッカーが見えてくる。世界のサッカーから目を離すな、である。
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