「虎吉の交流部屋プチ企画」生まれ変わったらなりたいものor職業
この企画に向けて書いたエッセイです
わたしが生まれ変わったらなりたいものは
猫と迷いに迷い やはりこちらだと思います
その日
教育免許取得のための説明会を聞くために
1号館の大教室に座っていた
文学部に属する女子学生は、たいていこの免許を取るために
大学に通っているようなものだ
苗字が近いということで、語学や体育などの教養科目が
同じ組になり、仲良くなった友人ふたりもその場にいた
教員免許取得に必要な科目目録が前の席から回ってきた
学生部の方がマイクを片手に
「三年生までにここに書かれた教育に関する科目を習得し
4年生の前期のうちに教育自習をすませ、免許が取得できれば
それぞれの都道府県の実施する採用試験を受けるという流れですが、
何か質問はありますか?」
と、教室全体を見渡した。
あたしは勇気を絞って手をあげた
マイクが回ってきた
「あの、教育実習を受けなければどうしても単位はもらえませんか?」
声がいつものように震える。人前で話すときはいつもそうだ。
学生部の人は呆れた顔をして
「うちの大学では教育実習は必須科目です。だいたい実習ができないのに
どうやって教師になるんですか!!」
少しきつい口調だった。
おそらく何年も同じ説明をして、
こんなバカな質問は初めてだったのだろう
「分かりましたと」
と消え入るような声で言ってうつむいた
でも、その時はまだ大丈夫!きっと出来るだろうと思っていた
わたしは中学生の時の
国語教師に憧れの気持ちを抱いていて
小学校まではあんなに休んでいた学校を
国語の授業がある日は
すこし熱があっても休まなくなっていた
たぶん初恋だったのだと思う
中学の三年間で
小説も戯曲も評論も
現代時も短歌も俳句も古典も漢詩までも
浅いけれど
日本文学のすべての知識を教えてもらった
それは高校でもきちんと生かされており
高校の現代国語の詩作の時間に書いた
「片思い」という詩を
授業中に良くできていると読み上げてもらった
高校に入って初めて皆が羨望の目で見てくれた
それくらい国語にのめり込んでいた
まわりは受験のため
英語や数学の勉強に必死だったのに
わたしは本ばかり読み
国語と日本史の勉強しかしなかった
だから大学は国文学科に行くと決めていた
両親は
「文学をしても、仕事がないじゃないか!
栄養士や臨床検査技師のような
余り人と接することのない資格が取れる学部をめざしなさい」
と何度も忠告したが、そもそもそれは理系じゃないか!
理系の点数を見れば無理だと分かるだろうに・・・
時はすでに遅いのだ
両親もそのことに気づき最後は諦めてくれた
そしてわたしは文学部の単位と並行して
教員免許と図書館司書の免許をとれる単位も
すべて三年生までに習得し4年生の春を迎えた
4月の半ばに
再び教員免許取得のための説明会が開かれた
はじめに開かれた時の3分のⅠほどの数になっていた
その説明会の概要は
5月までにどこで教育自習を受けるか決めて
提出してくださいというものだった
わが校系列の中学校・高校でも良いし
母校で受けるのも可とのことだった
2年間などあっという間だった
知らぬ土地にひとりで来たけれど
1年後には妹が大阪の大学に入学し
2人で石橋のボロポアートに住んだので
ホームシックにもならなかった
実習先を書く用紙を見つめながら
とうとうこの時が来たのかと心が急に重くなった
2週間のことである
それも自分が教壇に立つのはわずか45分
そのうちの5分は担当教諭がああだこうだと時間を潰してくれる
あんなになりたかったのに
なぜここに来て足がすくむのだ
悔しい 悲しい つらい 馬鹿だ 親の言ったとおりだ
などと自分を責めたが
ついに締め切り日が過ぎてしまった
わたしは教員免許を取得せず
図書館司書の免許と
修士課程を修了したという卒業証書をもらい
大学を後にした
卒業前に自力で簿記3級の資格を取った
そして親のコネで瓦斯会社の経理事務員となり
そこで出会った夫と結婚し、わずか2年で仕事も辞めた
寿退社は昭和では暗黙の了解事項だった
子供から手が離れて8年間ほど図書館でパートとして
書庫整理の仕事をしたことがある
どちらにしても免許は強いのだと実感した
障害があるのに
手帳は持っていないという面倒な労働者も
すんなり受け入れてくれた
人生は選択の連続だ
だが
それらすべてを自分で決められたのは
とても幸せなことだ
両親はおそらくわたしに負い目があったのだと思う
最後はいつも折れてくれた
確かに不便ではあったが
決して不幸ではなかった
裕福でもないし
何者でもない
保護猫の譲渡会に何度行っても
年齢を聞いて毎回やんわりと断られる
それでも
先生に褒めてもらった
大好きな作文を書きながら
毎日呑気に暮らしている
今のところ
もし生まれ変わったとしても
うっとうしいくらいおせっかいで
たまに若者を傷つけているかもしれないけれど
やはり今の自分に生まれ変わりたい
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