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スウェーデン文学翻訳者セミナーで体験した絵本と児童書の世界
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今回の執筆者 中村冬美
専門言語 スウェーデン語
居住地 日本
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今回のNOTEは中村冬美が担当します。
同じセミナーについて羽根由さんと久山葉子さんも書いてらっしゃいますが、私のはどちらかというと旅行記です。どうぞお気楽に読んでくださいね。
2024年8月21日から25日にかけて、ストックホルムでスウェーデン語-日本語翻訳者のセミナーがありました。スウェーデンの文化庁が招いてくださったのです。またヘレンハルメ美穂さんが文化庁と連絡を取り合って、プログラムや日本人同士でおこなう勉強会の詳細をつめてくださいました。
参加者はヘレンハルメ美穂さん、枇谷玲子さん、羽根由さん、高橋麻里子さん、久山葉子さん、喜多代恵理子さん、よこのななさん(都合によりオンライン)、そして中村です。
文化庁が用意してくださったホテルはScandic No. 53 です。
部屋はこんな感じです。
https://www.scandichotels.se/hotelreservation/select-rate?hotel=211#modal
ベッドが広いので、のんびり過ごしました(デスクがなくてパソコンをあまりいじる気にならないので、よけいに)
2024年8月20日
ホテルに着いてまもなく、ノックの音が。開けるとそこにいたのは枇谷玲子さんとヘレンハルメ美穂さん。久しぶりの再会を祝って、3人でビーガンレストランHermansへごはんを食べに行きました。
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Hermansはアジア系メニューのレストランです。メーラレン湖沿いにあり、すばらしい景色が楽しめます。
8月21日
まずは文化庁のマリア・アンタースさんとスサンネ・ベリィストレム・ラーションさんにご挨拶です。
ランチをいただいた後にストックホルム大学の児童文学研究者の、リディア・ヴィスティセン准教授が、『スウェーデンの児童及びYA文学の最新トレンド』というテーマで講演をしてくださいました。
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今スウェーデンで注目されている絵本や読み物をたくさん紹介してくださいました。そのなかには高橋麻里子さんの訳した『ごきげんななめ』(エンマ・ヴィルケ作)というくだものが出てくる穴あき絵本やよこのななさんの訳した『シーリと氷の海の海賊たち』(フリーダ・ニルソン作)もあり、そのたびに「訳したのはこの人でーす」とリディア先生にお伝えし、盛り上がりました。石井登志子さんの訳した『長くつ下のピッピの本』や、昨年の11月にTokyo アートフェスティバルに参加されたエーヴァ・リンドストロムさんの絵本も紹介されていました。
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リディア先生が紹介されたなかに、本当に美しい絵本がありました。ロッタ・ガッフェンブラッド作"Blå ugglan"
『あおフクロウ』です。
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大きな森の小さな小屋に、グランルンドとステンベリィという夫婦が住んでいます。ふたりは静かに仲良く暮らしていましたが、ある日夫のステンベリィが死んでしまいます。泣き暮らすグランルンドの前にとてつもなく大きな青いフクロウがあらわれます。グランルンドは最初は怖がって、ふとんに頭をつっこんでブルブルふるえていましたが、だんだんに青いフクロウを受け入れていきます。青いフクロウはしゃべることはできませんが、ステンベリィがしていたようにコーヒーを作ってくれます。ふしぎなことに、青いフクロウは、グランルンドが青いフクロウに親しんだり、隣の家の人と仲良くなったりするにつれ、どんどん小さくなっていくのです。
子どもたちにはちょっと難しいかもしれない本ですが、昨年母を亡くした私には、なんだかこの絵本が、愛する人の死を受け入れ、やがてはその悲しみと共存していくことによる、癒やしを教えてくれたように思えました。
このページから1枚挿絵を見ることができます。フクロウ、大きすぎやしませんか?
私は栄誉ある(?)マリアさんとスサンネさんへのお土産係でした。
この最初のセミナーの後、マリアさんとスサンネさん、講師のリディア先生に日本のお菓子の詰め合わせをお渡ししました。
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午後はKulturhuset(文化の家)という建物の中にある図書館の児童書コーナーを見学しました。
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子どもたちが思い思いに読書を楽しめるように、すてきないすやクッションがあります。
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TioTretton という部屋は10歳~13歳の子どもたちのための場所で、それ以外の年齢の人は入ることはできません。窓際には寝ころがってくつろげるコーナーもあるんですよ。
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その夜は、文化庁の方々が、私たち翻訳者をユールゴーデン島のレストラン、Villa Godthem(ヴィラ・ゴットヘム)にご招待してくださいました。
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©Yoko Kuyama
お料理が美味しいだけじゃなく、とても美しいんです! ベジタリアンの人にはちゃんとベジタリアン料理を用意してくれます。
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実は私はこの時点で飛行機疲れがどっと出て、うつらうつら。前にいたヘレンハルメさんに「中村さーん、起きてくださーい」と声をかけられました。 帰り道、この日はユールゴーデン島でコンサートか何かがあったらしく、道が人で溢れていました。とてもバスなど捕まらず、みんなで40分かけてホテルまで歩きました💦
8月22日
この日のワークショップが今回のセミナーのメインだったのではないかと思います。ヘレンハルメさんが課題図書を決めてくれて、みんなでその箇所を訳していき、読み比べながら話し合ったのです。
課題図書はアンドレア・ルンドグレン作のNordisk fauna(北方の動物たち)という短編集のひとつ、Det som sker med en、直訳すると「誰かに起こること」という感じです。
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なかの一節をご紹介しますね。
– Man ser mycket i de där skogarna, sa han. Under alla
år man körde genom mörkret, i vinterstormar och hällregn.
Träd som fallit över spåret. Hur man pulsade och
fick hacka is. Allt var svart. Utom stjärnorna då.
参加者の訳。
「北方の森の中じゃあ、いろんなものが見える。長い年月、暗闇や冬の嵐やどしゃぶりの雨の中を運転してたらな。線路の上にゃ倒木もあるし。どれだけ深い雪の中を歩き、氷を割るはめになったか。何もかもが闇の中だ。星だけが光っとる」
「その森では、色々なものが見えんだよ」と老人は言った。「何年もの間、暗闇で、冬の嵐や土砂降りの中、列車を走らせてきた。線路に倒れた木。一体どうやって豪雪を分け入り、氷を砕かなければならなかった。何もかもが黒かった。星以外は」
「あのあたりの森ではね、いろんなものを見ますよ」と老人は言った。「何年もずっと、吹雪の日も土砂降りの日も、暗い中を走っているとね。線路に木が倒れたり。深い雪をかき分けて歩いたり、氷を砕くはめになったり。なにもかもが真っ黒なんですよ。星だけが光っている」
「あの森には、ひとが見るべきものがたくさんある」と彼は言った。「何年ものあいだ、暗闇の中を運転していた、冬の吹雪や大雨の中を。線路に倒れた木。どんなふうにして雪の中を歩いて、氷を割らなくちゃいけないはめになったか。真っ暗だった。星以外は」
「北の森ではいろいろ見るなあ。何十年も暗闇の中を運転した。雪嵐に大雨。線路に倒れた木。深い雪を押しのけて進み、凍った部分を砕き。何もかもが黒かった。まあ星以外は」
同じ原文なのに、これだけ訳が違うなんて面白いですね。ですます調か否かによって話し手の老人のキャラクターも変わります。訳しながらひとりひとりが頭に思い浮かべている景色も、老人の顔や声も、線路に倒れた木の形すらも違うのでしょうね。訳文もその翻訳者が歩んできた人生の道のりや積み重ねてきた知識によって、できているんだと改めて思いました。それと同時に他の人の訳を見て、自分ももっと勉強して研鑽しなければと強く思わされました!
午後はドロットニングガータンという通りにある、Författarförbundet( 作家組合)を訪問しました。
こちらの建物、外観もお庭もすてきですが、内装もとても美しいんです。見てください、この美しいシャンデリアにタイルストーブ!
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そこでスウェーデンの翻訳者たちの労働条件に伺いました。詳しいお話は久山葉子さんの『翻訳者の労働条件』のNoteを読んでくださいね。
そのお話の後にはライツ&ブランズ、オパールエージェンシー、コヤ・エージェンシー、サロモンソンエージェンシー、ボニエルライツ、グランドエージェンシー、アルファベータのエージェントの方々がいらして、各社で取り扱っている絵本や児童書を紹介してくださいました。
エージェントの皆さんとの集団見合い(?)については羽根由さんのNote『スウェーデン語-日本語翻訳者 seminarium の思い出』にも書かれています。
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解散後、参加者の枇谷玲子さんと羽根由さんと一緒にトランストレーメル図書館に行きました。
そこで見つけたのがこちらです!
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このセミナーはまだこれで前半ですので、来週も続けてご報告したいと思います。
文責
中村冬美(今井冬美):東海大学北欧文学科を卒業の後、スウェーデンのヴェクシェー大学(現在のリンネ大学)北欧言語学科に留学。主な訳書にインゲル・スコーテ作『私を置いていかないで』、アストリッド・リンドグレーン作『おうしのアダムがおこりだすと』、オーレ・トシュテンセン作『あるノルウェーの大工の日記』、ヒルデ&イルヴァ・オストビー作『海馬を求めて潜水を』、ミカエル・ダレーン作『幸福についての小さな書』、エンマ・カーリンスドッテル作『おばあちゃんがヤバすぎる!』などがある。みすず書房から出版された『きのこのなぐさめ』(枇谷玲子氏と共訳)は第六回日本翻訳大賞の二次選考対象作品になる。2021年に発売されたエミリー・メルゴー・ヤコブセン作『よるくまシュッカ』はテレビやラジオなどメディアで注目され、発売日と同時に絵本カテゴリーでアマゾンの1位になった。