【書評】未来を変えるために立ち上がって「ノー」と言う、その方法はいくらでもある――スウェーデンの社会運動ハンドブック(よこのなな)
タイトル(原語): Motstånd
タイトル(仮): 抵抗
著者名(原語): Jennie Dielemans & Fredrik Quistbergh
著者名(仮): イェニー・ディーレマンス
&フレードリク・クヴィストベリ
言語: スウェーデン語
発表年: 2001年
ページ数: 265ページ
出版社: Bokförlaget DN
「抵抗」と題された本書は、何かを変えようとするひとたち、変えたいと思うひとたちのための本だ。
民主主義は死んだ、投票率は下がっている、若者は政治に無関心だ。でも本当にそうだろうか? もちろんそんなことはない。若者は社会に存在する問題に目を向け、さまざまな形で反応している。デモや街頭での活動だけでなく、肉を食べない、ポルノ反対キャンペーンをする、ファンジンを作る、といった活動方法だってある。それなのに、若い世代が何かをすると、「若くて怒っている」という言葉でひとまとめにされてしまう。そのことについても、若い世代はフラストレーションをためている。
こういった状況を打破したい、若い世代が自ら語る、その声を聞きたい。それが、本書の著者である二人のフリージャーナリストたちが本書を執筆した理由である。
前半部分は、さまざまな分野で活動するアクティビストたちへのインタビューを中心に構成されている。後半部分は、活動のために知っておくべき実践的な事柄をまとめたハンドブック形式となっている。
本の形としては大判で余白も広く、特に後半部分は図版も多いが、内容はかなり硬派である。活動の内容は、性差別、環境問題、人種差別、政治参加、障害者差別など、広い分野を網羅している。かなりラディカルな活動も多く、逮捕されたという人物も登場するが、なぜその行動に至ったのかという想いを自身に語らせるだけでなく、家族の気持ちまでもすくいあげている章もある。
後半は、「アクション、インターネット、キャンペーン、メディア、始動、権利、資料、連絡先」と実際的な見出しが並ぶ。活動に関する法律や、必要となる届け出なども具体的に示されている。
さて、本書が出版されたのは2001年1月。まえがきには「2000年11月」とある。2001年前半、ほぼ20年近く前に世に出た本である、ということを軸に、書いてみたいことがある。
まずは、2001年という年について。2001年6月、スウェーデン第2の都市イェーテボリでEU首脳会談が開かれ、それに対する大きな反対運動も計画された。そして結果的には、警備隊とデモ参加者の大きな衝突が起き、路上での警官による発砲で、ひとりの少年が重傷を負った。街のあちこちで、高校生を含む、多くの若者が拘束、逮捕された。大混乱の中、宿泊所としてデモ参加者に開放されていた学校で拘束された者もいる。その後の裁判では有罪判決も下された。
それまでの反グローバリゼーション運動の中で最悪の事態が、よりによってスウェーデンという国で起こったことは、国際社会にもスウェーデン社会にも、大きな衝撃を与えた。また、本書で紹介されているような、社会を変えようとするさまざまな活動をどう捉えるのか、逆からいえば、どう捉えられてしまうのか、その分水嶺となった事件でもある。わたしも当時、この一連の出来事に大きなショックを受け、調べたり考えたりしたが、20年経ってもまだ宙ぶらりんな気持ちでいる。
ちなみに、本書は2002年に、イェーテボリのことを取り上げた章を追加した増補版でペーパーバック化された。残念ながら絶版で、わたしは未読のままである。
そして、20年前と20年後について。本書の内容は時代を感じさせるところもあるが、本質的には現在も有効である。たとえば「民主主義は死んだ、若者は無関心」といったフレーズは、残念ながら今でもよく目にする。若い世代を「若い、怒っている」と揶揄する状況も変わっていない。そして、自分のやりかたで社会を変えようとする若者がいることも、変わらない。
顕著なところでは、ひとりで学校ストライキを始めたグレタ・トゥーンベリさん。彼女の活動は一年足らずで世界中に広がり、多くのひとびとのこころとからだを動かしている。ここに20年という時間の大きさが感じられる。20年前にはまだそこまで力にはならなかったツール、SNSが、活動を大きくバックアップしている。世界中の若者が活動を共有し、連帯感を高めている。
この本を取り上げようと思ったころ、アメリカで出版された若い女性向けハンドブック”Girls Resist!”の日本語版が出ると知った。『世界の半分、女子アクティビストになる』(ケイリン・リッチ著、寺西のぶ子訳、晶文社)という日本語題だが、「抵抗せよ!」と叫ぶ本が翻訳されるなんて、2019年は最高じゃないか。わたしたちは進歩しているのかもしれない。
本書のまえがきにはこうある。「こんなふうに考えるべきだとか、ここに出てくる人たちが絶対正しいのだとか、そうは言わない。わたしたちが言おうとしているのは、あなたがなにかをやらなければなんにも起こらない、ということ。変えることはできるのだ」そう、これは勇気の書なのだ。
こうした本が日本語で著される、そういう日が近い将来に来ることを、わたしは強く願っている。
追記:
品切れとなっていると書いた増補版だが、著者のウェブサイトでもう十年以上前から無償配布されていることを、本稿を書き上げた後に知った。自分のまぬけさを呪いつつ、無償配布を決めた著者の心意気に心打たれたことを記しておきたい。
(Nana Yokono)
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来週水曜日は、種田麻矢さんがデンマークの本を紹介します。どうぞお楽しみに!
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