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ノルウェー文学普及協会(NORLA)主催の翻訳者ホテルに参加して

    こんにちは! 私はスウェーデン語、ノルウェー語、デンマーク語から日本語への翻訳をしております中村冬美と申します。
 今年の5月9日から22日まで私はNORLA(ノルウェー文学普及協会)が主催してくださった、翻訳者ホテルというプログラムに参加していました。
    今回のNOTEではこの翻訳者ホテルについて報告したいと思います。

    この「翻訳者ホテル」とは、ノルウェー文学を翻訳している翻訳者が2週間オスロに滞在して、その間に翻訳の仕事を進めたり、オスロのエージェンシーを訪問したり、作家さんや色々な言語からノルウェー語へ翻訳している翻訳者の皆さんと会ったりするというイベントです。翻訳者向けの短期研修といえば分かりやすいでしょうか。
     

     こちらから申し込みます。
NORLA’s translators hotel
 申請が通る基準としては、ノルウェーで調査をしたりNORLAのオフィスで専門辞書を使用したりする必要がある書籍を手がけていることです。

   私自身はヒルデ&イルヴァ・オストビー作『海馬を求めて潜水を』の翻訳や神経心理学に関する調査をオスロでしようと考えて申請しました。けれどもコロナ禍で2年間、このプログラムを開くことができなくなり、先に翻訳が終わってしまいました。ですので私はこの2週間、主に作家さんやエージェンシーの方々に会ったり、本屋さんめぐりをしたりして、何か面白い作品がないかどうか探していました。

ではこのオスロ滞在2週間をご紹介します。
 
まず宿泊は、このホテル ボンデハイメンです。3つ星ホテルだそうです。オスロ駅から歩いて15分くらい。ところが私は22時50分くらいにオスロ駅につき、そのとたんモバイルWi-Fiの電源が切れてしまって、いきなり夜の街をさまようことになりました。あちらこちらで街を歩いている人々に道を聞いて、45分かけてホテルにたどり着きました。

ホテル ボンデハイメン(この写真は到着とは別の日に撮影)
ホテルのレストラン。ここで毎日、朝ごはんを食べていました。

 部屋の中はこんな感じです。ベッドが大きくて気持ちがいいです。ホテルにランドリーがないのでどうしようかと思いましたが、部屋にアイロンとアイロン台があったので、服を手洗いした後半日くらいシャワールームで干して仕上げアイロンをしていました。

ホテル ボンデハイメンの客室

 5月9日、いよいよ翻訳者ホテルプログラムの始まりです。最初にNORLAの方々にご招待を受けて、NORLAの皆さんと、翻訳者ホテルに参加する他の翻訳者さんと昼食をご一緒しました。

NORLAのオフィスにあるランチスペースで。
 左からNorla職員エレン・トラウトマン・オーレルードさん、ドイツ人翻訳者のシルヴィア・カルさん、Norla職員アンドリーネ・ポレンさん、オリヴェル・モイステッドさん、
マーギット・ヴァルソーさん、メッテ・ボルヤさん、トリル・ヨハンセンさん、
スペイン人翻訳者アナ・フレッシャさん。

 このプログラムでは、翻訳者はオフィスに各自のワーキングスペースを与えられます。そこで自前のパソコンを使って翻訳や調査を進めます。

オフィスの中のワーキングスペースを使うこともできますが、
こんなすてきなソファで読書もできます。

  私はこのソファに陣取って、NORLAの選書リストから『Litt som oss (私たちと近いもの)』という本を読んでいたのですが、いつのまにかウトウトしていました。

Litt som oss. En fortelling om grisen(私たちに似たもの。ブタの物語)

 NORLAのオフィスに必ず行って、作業をするという義務はないのでホテルの自室やオスロのどこかのカフェなど、どこで仕事をしたり本を読んだりするのも自由です。私はかなり本屋さんめぐりをして、目立つ場所に置いてある本をメモしたりしていました。

トロムソブックショップ
一番手前には日本の『うつわ かたち』という本がありますね。
グラフィックノベル『ドラゴンのひとみ』

 この翻訳者ホテルのプログラムの中でも重要なのは、オスロにあるエージェンシーを訪問することです。

 私が最初に訪ねたのはカペレンダムエージェンシーです。カペレンダム社は出版社の中に版権エージェンシーを持っています。
 カペレンダム社のビルの1階はブックカフェになっていて、本を読みながらお茶をすることができます。エージェンシーの方々とのミーティングもここでします。

カペレンダムエージェンシーのブックカフェ

 カペレンダムエージェンシーは今、絵本やYAに力を入れてらっしゃるそうで、今回ご紹介いただいたのもほとんど児童書でした。

左:ココバナナとキャンディーすいこみマシン 右:有名人クラッシュ。 有名人クラッシュは、芸能人の彼氏ができた少女の物語。ちょっと映画の『午前0時にキスしに来てよ』みたいですね。

 次に訪問したのはオスロ・リテラリー・エージェンシーです。オスロ・リテラリー・エージェンシーの廊下にはシグリ・ウンセットの肖像が飾られています。

ノルウェーの小説家で1928年ノーベル文学賞受賞者のシグリ・ウンセット
こちらはオスロ・リテラリー・エージェンシーで見せていただいた児童書です。 左手前の『どうぶつたちがねているよ』は、ボローニャブックフェアでBologna Raggazzi賞を授与されています。
こちらはオスロ・リテラリー・エージェンシーで見せていただいた小説や料理本です。
一番右のラーシュ・エリング作『フィン池の王子たち』はふたりの少年たちが森で暮らすお話です。エージェントのヘンリクさん(Henrik Francke)の一押しです。

 今回の旅では拙訳『地図の進化史』(青土社)の作家、トーマス・レイネルセン・ベルグさんともお会いしました。トーマスさんによると、『地図の進化史』は主にノルウェーの海洋史について書いたので、13カ国にも版権が売れるとはまったく思っていらっしゃらなかったそうです。この本を翻訳している間は、時空を超えて旅をしているようで本当に楽しかったです。トーマスさんは本書の後は、『世界の果てへ』というタイトルの香辛料の歴史についての本を出版され、現在は天文学の本を書いてらっしゃるそうです。

トーマス・レイネルセン・ベルグさんと。トロムソブックショップで
『世界の果てへ』 こちらの本は2022年春の、NORLA選書リストに入っています。

 『海馬を求めて潜水を』(みすず書房)の作家、イルヴァ・オストビーさんとヒルデ・オストビーさんにもお会いできました! 『海馬を求めて潜水を』は、記憶と海馬について書かれている本です。学術的に記憶について考察しながら、とても美しい文学的なスタイルで書かれています。
 神経心理学者と作家が組んで著作をすると、こんなにすごい本ができあがるのか、と思います。自分がこんなに内容の深い美しい本の翻訳をさせていただけたなんて、今でも信じられないほどです。

イルヴァ・オストビーさんのお家で
ヒルデさんとはノルウェー人日本語翻訳者のイーカ・カミンカさんのお家でお会いしました

 さて今回の旅でとても楽しかったのが、一緒にプログラムに参加した翻訳者の皆さんとのおつき合いでした。今回の参加者をご紹介しますね。
 ドイツ人のシルヴィア・カルさんはモルテン・ストロークネス作『海について、あるいは巨大サメを追った一年:ニシオンデンザメに魅せられて』を、スペイン人のアナ・フレッシャさんはヒルデ&イルヴァ・オストビー作『海馬を求めて潜水を』を、オランダ人のアンジェリーク・デ・クルーンさんはカーヤ・ノーデンゲン作『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』を、ウーセル・アレンステインさんはマヤ・ルンデ作『蜜蜂』を翻訳されています。
 みんなで18時にホテルの入口で待ち合わせして、毎晩ご飯を食べに行きました。話す内容は、本やノルウェーの作家さんのことはもちろん、家族のこと、料理のことetc. まさに大人の修学旅行という感じでした。

左からウーセル・アレンステインさん、アナ・フレッシャさん、中村冬美、
シルヴィア・カルさん、アンジェリーク・デ・クルーンさん
Kafe Celsius(カフェ・セルシウス)で
Kafe Celsiusのそばにある建物は1626年からあるそうです。
オスロで一番古い建物だとか。
魚介のパスタをいただきました。
日本にも支店のあるカフェ・フグレン

 アナ・フレッシャさんとウーセル・アレンステインさんとはフィヨルドサウナKOKというサウナにも一緒に行きました。
 フィヨルドに浮かんだボートの中にあるサウナに入って身体を温めた後、フィヨルドで泳ぐのです。1グループにつきボートひとつというわけではなく、他のグループもいます。私たちは高校生のグループと、一人旅で来ていたスペイン人の若者と一緒でした。
 2点ご注意です。このフィヨルドサウナKOK、日本だったら必ずありそうなライフベストも浮き輪もないのです。溺れても自己責任なのか、ノルウェー人は頑健だから溺れないという前提なのか😅 ですのでもしこのフィヨルドサウナに行こうと思う人は、ご自分で用意していくことをお勧めします。さらに更衣室もありません。サウナの前にある小部屋で着替えます。異性や他のグループが着替える時はサウナに入ったり2階に行ったりして鉢合わせしないようにするのですが、気になる人は巻きタオル(筒になっていて、被るとテルテル坊主みたいになるバスタオルですね)を持っていった方がよいかも。

 私たちが乗った時は、残念ながらずっとボートは岸辺に停泊していました。

サウナボートの中。奥にサウナがある。
こちらはサウナボートの2階です。一緒にボートに乗っていた高校生達は、この板から 大喜びでフィヨルドに飛びこんでいました。
フィヨルドの景色はすばらしいのですが、水温はアイスバスかというくらい冷たかった・・・

 この旅はまだまだ続きます。ですから次週も後半をお伝えしようと思います。続き→
 とても知的刺激に満ちていて楽しいプログラムですので、ノルウェー語の翻訳を手がけている翻訳者さんはぜひとも応募してくださいね。さらに出版社やエージェンシーの方々が仕事でノルウェーに行く時には、旅費の助成金に応募できますのでぜひこちらをご参考ください。
Travel grants for publishers, the press and translators

文責 中村冬美(今井冬美):東海大学北欧文学科を卒業の後、スウェーデンのヴェクシェー大学(現在のリンネ大学)北欧言語学科に留学。主な訳書に『私を置いていかないで』『おうしのアダムがおこりだすと』『あるノルウェーの大工の日記』『海馬を求めて潜水を』『幸福についての小さな書』など。2021年に発売された『よるくまシュッカ』はテレビやラジオなどメディアで注目され、発売日と同時に絵本カテゴリーでアマゾンの1位になった。


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