北極圏ミステリーはいかが?
以前、グリーンランド人をヒロインとする冒険小説『スミラの雪の感覚』について書きました。
この小説の舞台はほとんどコペンハーゲンで、氷に覆われたグリーンランドは少し出てくるだけです。今回はグリーンランドの普通の生活を描いた小説をご紹介したいと思います。
グリーンランドというと南極のようなイメージを持っていた私ですが、2016年7月に研究集会でグリーンランドのイルリサットを訪れる機会があり、それまでのイメージが塗り替えられました。
イルリサットの町中を歩く人々はアジア系の顔立ちが目立ち、みなさんよく日焼けしています。イルリサットの7月は快適で、Tシャツだけの人もいますし、ジャケットを着ている人もいます。(ただ、海上にでると真冬の寒さでダウンジャケット、帽子、手袋が必需品です。)
ここでは木は生えず草しかありませんから、家々は岩の上に直接建てられています。犬ぞりを引く犬たちも夏はお休みです。犬たちの写真の背景にみえるのは氷山です。何気なくそこらへんに氷山が浮いているところが面白いです。トップ画像も宿舎から研究集会の会場へ行く道で見えた氷山です。
さて、町にただ1軒Penal Huset という書店があります。
このときに手に入れた本から、グリーンランドの普通の生活を表す本を2冊ご紹介しましょう。
『ホモ・サピエンヌ』 (HOMO Sapienne) Nivaq Korneliussen (英題:Last Night in Nuuk)
グリーンランド人の若い作家が書いた小説です。ちょうど、この会の前回のnote「北欧理事会/会議文学賞の日本での認知を広めたい!②」でも紹介された作家です。
この本はグリーンランドに住む5人の若者グループのひとりひとりを主人公とした短編からなり、LGBT,SNS、DV,アルコール依存症など現代的な話題を取り上げています。チャットのやりとりもところどころ入ります。日本の若者が共感するところも多いのではないでしょうか。
著者はまずグリーンランド語でこの本を書き、自分でデンマーク語にも訳しました。 グリーンランド人は母語としてグリーンランド語を話しますが、デンマーク語も習います。デンマーク語の流暢さは人によるそうですが、著者はかなり流暢なようです(前回のnoteにインタビューの動画があります)。
この本はこれまでに8か国語に翻訳されているそうです。下はレイキャビクで見かけたアイスランド語版です。
実は、この作家は、note 「Books from Denmark(前編 フィクション)」でも紹介されています。
「デンマーク領であるグリーンランドを舞台にしたレズビアン小説『花の谷』は、文学作品としての質の高さと、これまでのデンマークの小説では例を見ないほどリアルに描かれた女性同士のベッドシーンなどが大変話題になっています。」(上記note より)
話題になったデビュー作の後もしっかり作家活動を続けているんですね。
『凍った証拠』(Frosne Beviser) Nina von Staffeldt
中心人物のシカはグリーンランドのヌークの町で生まれ育ち、16歳のとき両親とコペンハーゲンに移りました。彼女は30代でグリーンランドの観光振興の仕事で、故郷に戻ることになります。グリーンランドでは謎のウイルスの感染が広がっていました。
この本で著者はデンマークにミステリー新人賞に選ばれました。シカがヒロインのグリーンランド・ミステリーはその後2冊出ています。下はイルリサットの Penal Huset にあったポスターです。
(litteratursiden.dk の Nina von Staffeldt のページより)
この2人の作家の本もぜひ日本語訳が出てほしいです。
北欧ミステリーはすっかり日本に定着した感がありますが、さらに北極圏ミステリーはいかがでしょう。
(文責:服部久美子)
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