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ゆめが教えてくれたこと その4

リビングで外を眺めながらさっき入れたばかりの紅茶を一口。
ホッと一息つく昼下がりだ。
庭の植木たちが太陽の光を浴びてツヤツヤと光っている。


“私たちの声、聞こえてる?”

うん…
今日もまただ…

私は大学を卒業して教員になった。
実家から離れた場所に勤務が決まり、一人暮らしを始めることになった。
ひっそりこっそり育てていた多肉はもちろん相棒として持って行くからね…。

仕事が始まると日々の目まぐるしさに驚いた。
子供たちをまとめることがどれだけ大変なことか。
でも、何かに一生懸命になることが私は好き。
だから、他の先生方と一緒になって朝早くから夜遅くまで仕事にあけくれるのが好き。
子供もやんちゃだけど頼ってくれてかわいい。

家に帰ると1人だけど、学校に行けば誰か必ずいる。
このみんなと頑張ってる感が心地いい。
誰もいなくても仕事は山のようにあるから、学校で1人仕事していても1人なことが全然気にならない。
そういえば、この感覚ラクロス部に入部を決めた感覚と似ているかも。
もちろん、ふとした瞬間に独りを感じることもある。
その時は荷物をさっとまとめて帰ればいいもんね。


仕事が忙しくて相棒として持ってきた多肉を世話する時間はなく、いつの間にか部屋の片隅でオブジェと化していた。
その存在に気付いてはいたが、触れる気持ちにはなれないでいた。
多肉を触れるとどこかへ引き戻されてしまう感覚を知っていたからだ。


ある頃から今の学校教育に疑問を持ち始めた。
様々な角度から調べてみよう。研究者魂が湧き上がる。
これはいい方向に行くためのサインだ。
…ちょっと待てよ、息苦しさを感じるような。
今の日本の教育が自分の想いと反することをしているような気持になってきた。
この気持ちを相談できる人は…。周囲を見渡すが見つからない。
どうせ相談しても仕事だからと丸め込まれるイメージしかない。
先生という仕事を否定するような考えをもつ私はこの業界では必要ない。

これはいつかの感覚?

頭の奥の方でこびりついている気がする。
この息苦しさを仕事以外でもみ消せばいいのかな。
ジムに行く、カメラを買ってみる、音楽をしてみる…。
なんでだろう、虚しい、淋しい…。
この頃、多肉の世話は自分の興味から外れ、面倒なことになっていた。


こんな日常が続き、しばらくして体調が思わしくなくなった。
そんなことさえ誰にも相談できず、ただ1人で抱えていた。

気分転換に音楽でも聞こう。このままだと本当に病気になっちゃいそうだ。
本屋と併設されたCDショップをぶらぶらと歩く。
あれ、この本。どうせやることないし本でも読もう。


この本をきっかけに日記をつけることにした。
それがとてもおもしろかった。
私の奥深くを見つめさせてくれ、私の中にあった世界を教えてくれた。
だけど、私を知れば知るほど奥の私と実際の私のギャップに息苦しさを覚えた。
ギャップに耐えられなくなった私は、いよいよ仕事を辞め、実家に帰ることにした。
部屋の片隅で干からびた多肉は躊躇なくゴミ箱に捨てられてしまっていた。


“私たちの声、聞こえてる?”

少し開けていた窓の隙間から“風邪ひくよ”って風が入ってきて目が覚めた。

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