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ゆめが教えてくれたこと その5

空気の流れる寝室で、たくさんの呼吸を感じながら横たわる。
いつかの窮屈さはどこかへいってしまっていた。
今夜はまん丸お月様がいてくれるので、部屋の電気はお休みしている。


“私たちのこと分かる?”

実家に帰ったら歓迎されると思っていたが、そうでもなかった。
親に直接は言われないけど、同じ空間にいてもいい気分ではない。
でも、1人で暮らしていたらあの時のなんとも言えない感覚を思い出して、本当に病気になってしまいそう。
あの時に戻ってしまうのが怖い。だから今はここにしがみついていたい。

転職先は我武者羅に働かなくていい所を選んだ。
私はここでも以前とは違う状況を作れていることにホッとしている。
望んだ状況を結構手に入れることができている。
でも、なぜか自分がいい状態ではない。
それが黒い光となって親に伝わっている感覚もある。
ここにいつまでいられるんだろうか。心はどきどきしている。


 “ねぇ、そろそろ1人暮らしはじめたらどう?”

母からだった。
私は最後の悪あがきをしたが検討虚しく再び家を出ることになった。

1人暮らしを始めた最初のうちは寂しかったが、すぐに慣れた。
いつ寝てもいい、何を食べてもいい、人や時間を気にしなくていい…。
やっぱり1人でも楽しんで生活できるじゃん!嬉しい、私変わったんだ。

ところが、今度は退屈がやってきた。
転職先の仕事は残業もなく、教員時代のように仕事に打ち込むことはない。
職場以外の時間に人との交流もないし、だからといって交流の場に出ていく勇気もない。
仕事をしていた時間、親と過ごしていた時間にぽっかり穴が開き、暇になった。
せっかくなら、この際できなかったことを色々とやってみよう。
You Tubeを見る、マンガを読む、本を読む…。でも、なんとなく違う。
すぐ飽きてる笑。これって時間をただ浪費しているだけな気が。
あれ、これってデジャヴでは?

ただ、日記をつけるのは忘れなかった。
自分の心の動きを書いて気づきを得たり、自分を変化させたりすることは楽しかった。
仕事の人間関係の悩みもそこにぶつけた。
書くことで自分自身に問い続けていた。
でも、そこにはどこか我慢があり、自分だけの世界に閉じこもっていくようでもあった。


職場でお昼ごはんを食べ終わり、お茶を一口。

“ねぇねぇ、今うちのお庭こんな感じなのよ!
きれいでしょ。”

いつもと変わらない休憩時間。隣の人のスマホをのぞき込む。
お庭は狭いけど、手入れが行き届いている。
季節のお花がたくさん咲いている。

“ガーデニングが趣味でねぇ。
主人にはよくやるなぁって言われるんだけど、これがないと私の人生やっていけないわ。
子供のようにかわいがってやるとお花は答えてくれるのよ。
植物も人間と一緒で生きてるのよね。”

この人、お花とお話するんだ。

“今度、お庭見に行ってもいいですか。”

“えぇ、もちろん!うちの花たちも喜ぶわ。”

もしかして、声の正体って…。

“ようやくわかってくれた?”


あまりのまぶしさに目が覚めた。え!今何時?跳び起きて隣を見る。
下からいい匂い。今日は休日か…。
ようやく出会えた。ようやく思い出した。
随分待たせちゃったね。
軽やかな足取りで階段を下りてリビングに向かう。

“おはよう!”

“おはよう、随分と上機嫌じゃないか”

“えぇ、いい夢を見たの”

“どんな夢だ??”

“え…、素敵な夢”

それ答えになってないだろ、お前はいつもそうだ…
と言わんばかりの顔でこっちを見てくる。

“私ね、植物の声が聞こえるの。
そんなことを思い出させてくれる夢だった。”

気恥ずかしくてうつむき気味に答える。

爽やかな朝の風がカーテンをなびかせながらコーヒーの香りを運んできた。
ひきつった私の笑顔は自然と緩み、ふと顔を上げる。
そこにはあたたかな笑顔が迎えてくれていた。

♪おしまい♪

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