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北京入院物語(62)

 周さん騒動が一段落ついたと思っていたら、葉先生の助手の徐先生から、すこし困ったような声で電話がかかってきました。
「葉先生がなぜ突然フーゴンを変えたのか心配している」というのです。

 私はそのとき初めて、葉先生が単身で北京までやってくる私のために、「特別優れた」フーゴンを用意してくれていたことを知りました。
私は知らないとはいえ、葉先生の立場も承知しないままに、一方的にフーゴンを首にしていたことを悟りました。

 こうなっては、いかに周さんがひどいフーゴンであったかを正直に告白し、仕方なく首にしたのだという話をするしかありませんでした。
葉先生も面子(めんつ)がありますし、自信満々で用意したフーゴンが、とんでもない人物だと聞かされて、カンカンに怒り、私に聞いた内容を徐さんに翻訳させて、フーゴン管理事務所にたたきつけたようです。

 ところが、まったくなにも変わりませんでした。
周さんは相変わらず、職場で同じように働いているというのです。
この周さんという人物は、仲間うちでは評判はよくありませんでしたが、管理事務所の上司には腰も低く、従順で有名らしいことを、後任の包さんから聞きました。
それは多くの夫にとって、妻が姑と話すときの声の違いに、唖然となるほど変わっていたのでしょう。
(私には結婚歴はありませんが・・・。)

 私はいっそ、例のお金の話をしようかと思いましたが、思いとどまりました。
なにぶん証拠がありませんでしたし、彼が首にでもなったら私も寝覚めがよくありません。

 彼が消えたと同時に私の手元から消えたものがあります。
それは私のパソコンに保存されていた彼の写真です。
とにかく1月1000枚のペースで写真を撮り保存してたので、探し出すのは大変だったと思います。
賢い彼は、瞬時に自分の写真を消し、ゴミ箱の写真を抹消するときの「カシャッ」という音をさせただけで、あっという間にパソコンを返却し、姿を消したのです。
北京入院物語(63)


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