北京入院物語(86)
国際医療部の喫茶店は、めったに客の来ない私の憩いの場でした。
ここでパソコンをいじり、喫茶店のお嬢さんとお話をすることをこよなく愛していたのです。
ある日、その静かな喫茶店に10人くらいなんとなく薄暗い表情の、くすんだ色の衣服を着た30代から40代の男性がいきなり押しかけました。
明るい色でデザインされた喫茶店が、この男性軍の影響であっという間に野暮ったく、暗くどよんだ印象になりました。
皆さんはご存じないでしょうが、中国人の話す声は、一般的に大声です。
大声で話すというより、普段が大声です。
その大声で10人がいっせいに話し始めたのです。
喫茶店は床がフローリングのせいもあり、もう向かい側の人と話せない状況になり、私は引き上げました。
いったい何事が起こったのかさっぱりわかりません。
どうも彼らは同じグループのようです。
タバコをすい、お茶を飲み、代金は払っているそぶりがありませんでした。
まぁ・・・今日は特別と思っていたら、大間違いです。
次の日に喫茶店に行くと、もう例の男性集団が喫茶店を独占しています。
喫茶店のお嬢さんに聞くと、朝9時にやってきて、昼ごはんのために出て行き、その後また戻ってきて、夕方4時までいるそうです。
つまり昼の一時期を除くと朝から晩までいることになります。
私はまた早めに喫茶店を去りました。
次の日も、次の日も、彼らは喫茶店を独占しています。
私はイヤホンジャックをパソコンに差込み、音楽を聞いて時間を過ごすことにしました。
ところが、なんと、イヤホンをしても音が聞こえないのです。
それぐらい彼らの声は大きかったのです。
この集団はいったい何者なのか?気になったので喫茶店のお嬢さんたちに聞いてみました。
お嬢さんたちの説明によると、ある省の省長がこの国際医療部に入院したんだそうです。
そうすると彼に可愛がられていた部下たちが、集団になって仕事を休んで、病院のすぐ近くのホテルに泊まり込み、朝と夕方に上司の見舞いに駆けつけ、それ以外は喫茶店で時間を過ごしているということを聞きました。
結局このカラスの大群のような集団は、一ヶ月間ホテルと病院の間を往復し、省長の退院とともに故郷に戻って行ったということです。
北京入院物語(87)