真夜中にお菓子を焼く
2020年、思うようにならない10ヵ月程を過ごす中で、真夜中に沈みきってしまった自分の気持ちを少し、ふわっと浮かび上がらせてくれたのが、お菓子を焼くことだった。
別に真夜中でなくてもいいんだけれど、日中は授業があったり働いていたりする関係で、どうしても真夜中にお菓子を焼くことの方が多かった。深夜、キッチンで何かをせっせと作っていても文句をひとつも言わなかった家族には感謝しなきゃいけない。許してもらえてなかったら、けっこうしんどかった。
去年つくったのは
・パウンドケーキ(プレーン、バナナ、チョコレート、ゆず)
・ベイクドチーズケーキ
・キャロットケーキ
・プリン(本当に得意になった)
・さつまいものプリン
・かぼちゃケーキ
・ショートブレッド
・クッキー(紅茶、チャイ風、黒ごまきなこ)
・チョコレートムース
・スコーン
・カスタードアップルパイ
何度かレシピを変えて作り直したり、リピートしたお菓子もあるので、結構な夜をお菓子を焼きながら過ごしたことになる。
真夜中、静かなキッチンで計ったり捏ねたり混ぜたり濾したり、そういう余計なことを考えなくていい単純な作業を重ねていくことは、私のなかの鬱々とした淀みのなかに少しずつ綺麗な空気を送り込むような、そんな感覚をもたらしてくれた。
たまに音楽を流しながら作業をする。アップテンポとまではいかなくとも、軽やかな跳ねるような曲がいい。耳元で流れる曲のテンポをなんとなく追いかけながら作業をしていると、私は、いつかの真夜中に自転車で駆け抜けた、川沿いのあの真っ直ぐな街道のことを思い出す。街道沿いに間隔を等しくして並ぶ街灯が、街路樹の根を乗り越える度にバウンドする自転車に合わせて上下に揺れると、それはなんだか音符みたいだった。テンポはなるべく一定に、街灯の音符を追いかけながら無心で自転車を漕いだあの夜。
私のレパートリーにあるのは簡単なものばかりだけれど、簡単に作れるそれらも出来上がる頃にはキッチンと、私の鼻腔とをいい匂いでいっぱいにして、いい匂いがもたらすちょっとした達成感は私の気持ちを軽くする。気持ちが軽くなると、自然と眠たくなってきて、私は片付けを終えるとそのまま自分の部屋に戻って、すこやかに眠りにつけたりする。翌朝、自分を甘やかすためのお菓子があるというたったそれだけのことで、簡単に安心してしまう人間で良かったな、と思う。
時たま、出来上がったお菓子を友人に渡す。
渡した時の嬉しそうな笑顔や、後に送られてきた美味しかった!というメッセージが、私の沈みそうな気持ちをまたぞろ軽く浮かび上がらせる。
2021年になってしまった。今年もやっぱり思うようにはならない1年になってしまうかもしれないけれど、辛くて悲しかったり、やるせなくて泣き出しそうな夜が訪れた時にどうすれば良いのか私は知っている。
それはなんの解決にもならないけれど、夜をひとつひとつ明かしていったその積み重ねが、私を少し強くするかもしれない。
今年も騙し騙し、けれども確実に、
夜と昼とを積み重ねていこうと思う。
できたら、レパートリーを少し増やせたらいいな、と思う。シフォンケーキとか、シュークリームとか。
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