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課題で出された通りのテーマで書いたつもりなのに微妙な反応を貰った短篇をここで消化します。

タイトルが長いんだわ。
以下、本文です。

『無題』
①目を開けると、少し遠くに天井が見えた。真っ白いそれは、氷が張ったかのようにひどく冷たく硬そうだった。私はぎこちなく布団から出ると、素足にスリッパを履き、その白い部屋から外に出た。空気が、乾燥している。廊下に出た瞬間に私の輪郭を撫でた風が、頬の水分を攫っていった。私のことを冷やかすようだった。廊下の突き当たり、体当たりをするように重たい扉を開けるとそこから外に出られる。扉もひどく冷たかった。
扉から出て、外階段を下る。かさかさに水分の抜けた落ち葉が、北側の隅に重なり合って溜まっている。枯葉の隙間に、重たい冷気が淀んでいるのが分かる。さっき私のことを冷やかした風が、また私の肌を撫でてけらけら笑っているような気がする。けらけら、けらけら。
私はふらふら歩き出した、次第に足は地面を蹴ることに慣れて早足になった。
素足にスリッパを履いたものだから、足の甲が1番はじめに冷えた。冷気が染み込んできて薄い膜を張ったようだった。歩みを止めて足の甲を見ると、それは天井のように真っ白く、冷えて、硬そうだった。
②まったく、寒くはなかった。冷えた空気がどんどん体に染み込んで、薄く硬い膜が、氷のようなそれが、足の甲だけでなく体の至る所に張るようになっても、私は寒いとは思わなかった。五感が鈍っていく。それは、食べること、健やかな寝息をたてること、誰かと気を許し合い語らうこと、笑うこと、声をあげて泣くこと、すべての瑞瑞しい瞬間の彼岸にいるような感覚。その感覚を自覚した途端、私が今まで手のひらで握っていたものはぬるりと消え、手には何も、無くなった。私の大切なものはなんだっけ、私は一体誰なんだっけ。
③泣き出しそうになってふと顔をあげた。そこは狭い路地だった。にわかに強い風が吹いて、隣の木からすうっと甘い匂いが香ってきて、曇っていた空から日が差した。私の体に張っていた硬い膜が、溶けるようなあたたかい心地がした。隣の木は、つやつやとした葉をつけ、陽の光をぎゅっと固めたような色の花を咲かせた、大きな金木犀だった。
気が付くと路地の向こうから、誰かがやってくる。真っ白でシワの無い、形の綺麗な服を着た女の人だった。彼女は、私をいたわるような優しい目で私を見て、あたたかい微笑みを浮かべ、手を差し伸べながら「さあ、帰りましょうね」と言った。その優しさに私は全てを委ねて、素直に、彼女のあたたかく柔らかい手に引かれる。
④目を開けると、少し遠くに天井が見えた。真っ白いそれは、氷が張ったかのようにひどく冷たく硬そうだった。私はあの時、あの人に手を引かれ、そのあと、どうしたんだっけ。靄のかかったような頭の中を手探りしても、なにも思い出せなかった。覚えていない、何も覚えていない。覚えていないということは、こんなにも恐ろしいものなのか、意識がすーっと遠のくような心地がしたその時、部屋の扉が静かに開いて、誰かが入ってくる足音がした。それは、白い服を着たあの人だった。「ほら、手を出して」と言うので、私は素直に手をさし出す。
今回は、私の手を握ってはくれなかった。彼女は淡々と、私の腕に刺さっていた針を取り替え、私はそこで思い出した。
ああ、ここは、そうか、私は連れ戻されたのだ、真っ白で清潔でひどく冷たい病室に。

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