見出し画像

鬱/循環

目が覚めるとひだりの手の甲にものすごい掻き傷があって、何本もの赤い線が表面でひりついていた。
生理2日目だか3日目だか、身体が重い。気持ちは本当に死んでしまいたいのに、身体は排卵してそれを血とともに体外に出して次の卵子の準備をしているというその事実が心底気持ち悪いと思う。
手の甲がひりついている。

世界の何が面白かったのか、過去の私が何を求めて本を読んでいたのか、何に笑っていたのか、なんにも分からない時に、肉体は本当に気持ち悪いなと思う。
何故勝手に胸が脈打つのだろうか。赤い血が身体を駆け巡り、循環していること。汗、尿、皮膚片、新陳代謝。飲食。 経血。剥がれた傷をめくってみたら、パンと張りつめた桃色の真皮が皮膚の下で控えていたこと。手の甲のひりつき。気持ち悪い。

生活のなかのリズムを失ってから久しい。明け方、昼間、夕方、変なタイミングで眠り、変な時間に起きている。生活リズムが変拍子。その変拍子のなかで、新しいメロディが生まれたらなあと馬鹿みたいなことを思う。新しいメロディ。私はそのメロディに乗って、あの川を渡ってしまえるかもしれない。

私の変拍子の外側では規則正しく、太陽が昇っては沈み、朝が来れば夜が来て、冬を越せば春が来て、葉が色づいて枯れおちて、そうやって地球が回っている。
循環。
この社会にも目に見えない力があるのなら、多分それも、円を描くように作用する。それに凭れかかるようにして、かろうじて生活している。靄のかかった頭では新しいメロディは生まれてこないし、多分私自身に川を渡れるほどの勇気は無いから、円の中に身を委ねている。

何もしていないのにお腹がすく。空腹感に嫌悪感と吐き気を覚えながら、吐き出すものもないので妥協で齧ったカロリーメイトが私のなかを巡る。
循環。
私は私を何とか保てるだろうか、私のままで生きていけるだろうか、そして、今を掴んで居られるだろうか。

そろそろ日が昇る。

2021/0130/05:15







いいなと思ったら応援しよう!