夏が砕ける音・悲しい匂い
8月になった瞬間に蝉がわんわんミンミンぎゃんぎゃん鳴いている。2歳くらいの小さな子供はこういう泣き方をするような気がする。ひたすらに泣くことに専念しているような。
その日の昼下がり、酷暑のなか、バイト先に出勤するために自転車にまたがり漕ぎ出した瞬間に、前輪のところでパリッと音がした。夏が砕ける音。タイヤには蝉の抜け殻がくっついていたらしくて、少し後退させたタイヤの下からは、小金色の破片がぱらぱらとアスファルトにこぼれていった。それをもう一度轢いて、自転車を走らせる。出勤する