【レポート】テレビノーク#13 「100年前の絵を読み解く」
月に一度、カロクリサイクルの活動として、話を聞きたい人をお招きしておしゃべりしている配信「テレビノーク」。
#13は8月18日(金)にお届けしました。
アーカイブはこちらからご覧いただけます👇
1923年に起きた関東大震災から今年で100年。
ニュースや検証番組、各地で開かれている展覧会や映画などを、みなさまもご覧になったのではないかなと思います。
関東大震災の記録や表現を扱う展覧会がこんなにも開かれるんだと調べながら思い、残そうと続けられてきた歩みを想像しました。
8月配信のテーマは「100年前の絵を読み解く」。
東京国立近代美術館研究員の横山由季子さんをゲストにお迎えし、MOMATコレクション「関東大震災から100年」展の内容を伺い、美術作品が描いた関東大震災にまつわるおしゃべりをしました。
会期終了後で大変申し訳ないのですが、振り返っていきたいと思います。
美術館をどんな場所として使う?
ゲストの横山由季子さんは、世田谷美術館学芸員、国立新美術館、金沢21世紀美術館学芸員などを経て、現職となる東京国立近代美術館の研究員をされています。
金沢21世紀美術館の学芸員時代には、小森はるか+瀬尾夏美が参加した2021年の「日常のあわい」展を担当されていました。
コロナ禍の只中に開催された「日常のあわい」展、見に行けなかった方もいらっしゃるだろうということで、まずは「日常のあわい」のお話から。
小森はるか+瀬尾夏美のゾーンでは、コロナ禍の日常を綴った記録が言葉や絵、対話の映像、年表などで構成されていて、訪れた人もセルフチェックシートやふせんを使ってそれぞれのコロナ禍の日常を書き残していける場になっていました。
人にはなかなか言えないこと、でも誰かに言いたかったこと。さまざまな声が会場に日々蓄積していく様子から、美術館ってこういうことができる場だったんだ、と話す瀬尾さん。
今回の配信後半では、横山さんと瀬尾さんによるMOMATコレクション「関東大震災から100年」関連イベントの感想振り返りがあるのですが、美術館という場をどう他者と使っていくか、試みが似ているなとも思います。
「日常のあわい」展覧会カタログはこちらから👇
美術作品から見る関東大震災
そして本題の、MOMATコレクション「関東大震災から100年」👇
1952年に日本で最初の国立美術館として開館した東京国立近代美術館。当初あった京橋から竹橋へと移り、度々のリニューアルを経て、所蔵展も現在の12の部屋を持つMOMATコレクションへ。
「美術が社会的な出来事と関連して展開していると見せることもコレクション展のひとつの役割」と横山さんから冒頭で触れられていました。
たとえば、2011年開催の「東北を思う」では、東北出身の作家や東北の風景を描いた作品を構成するなど、今社会的に起きている出来事へ呼応するようにコレクション展も組まれています。
「関東大震災から100年」も、所蔵作品から、関東大震災の被災、復興、社会のひずみなどをトピックに、震災と美術の関係を振り返る内容になっています。
横山さんがスライドで作品画像を多く添えて、詳しく解説してくださっています。ぜひアーカイブでご覧ください!
MOMATコレクション「関東大震災から100年」で出た話題
・〈1923年の美術〉、〈被災と復興〉、〈社会のひずみ〉
→直後の被害だけを取り上げるんじゃなく、美術や作品がどう変わっていったか、変遷を辿る3章の構成
・発災した9月1日当日の、美術館の出来事
第10回再興院展と第10回二科展。展覧会初日に被災した作家たち
寄稿された記事で読む当日の様子
・発災直後のスケッチを見て、いま思うこと
・それぞれの体系と、災禍との相性/日本画家と洋画家との違い
日本画と「なつかしさ」
震災前の風景を思い出す、よすがとしての絵
以前の風景を後々想起して描く行為
江戸、明治、大正……移り変わる風景の記録との連続性
洋画と「あたらしさ」
海外の表現の吸収と、関東大震災発災の時代とのクロス
今の状況をどう表象していくか、時代に即して応答の方法を変えていく
・表現から読み解く、被災当時の世代のよるちがい
震災当時20代だった作家が同時代的に表現を出すこと
まだこどもだった作家が10年後に被災を表現をすること
(被災体験を幼少期の原体験に持つこと)
・震災後の運動体、 バラック装飾社
荒廃した暮らしの中で、生活の中の彩りや豊さをつくって楽しむこと
・美術雑誌『みづゑ』が持っていた機能
報道性
寄稿による、作り手側を内側から啓発する行為
(当時も災禍に直面しなかった作家たちは後ろめたさを持っていたし、美術なんか……という社会的な風潮は相変わらずあった?)
・復興再建とアールデコの、ビジュアルでの親和性
・プロレタリア美術運動への変遷
とりのこされ、大きな勢力に反発したものたち
工場や労働者をモチーフにすること
・実際に美術作品と対面して知ること
・絵として描かれていないもの、抽象化の過程でこぼれ落ちるものをどう拾っていくか
美術館に収蔵される、というハードルでは残らない作品
他の表現の領域や他分野が記録し、残されていくもの
・どのメディアが何を残すのが得意なのかを自覚する、それらを網羅的に巡ること
などなど、とても大雑把にすると、このようなキーワードが出ていました。
私は宮城で絵を描いているので、東日本大震災とついついリンクさせてしまうのですが、肌感覚としてすごく納得、という気持ちで聞いていました。
「美術作品を見ただけではわからない、でも同時に美術でできることもある」との瀬尾さんの言葉に、今年の冬に岩手県立美術館で見た、萬鉄五郎の《地震の印象》を思い出しました。作品の良し悪しや価値よりまず先に、「この絵が今ここにあってよかったな」と思いながら、展示室でしばらく出来事を想像する時間が持てたなあ、と。
何らかの記録とはじめて出会う時も、「よく記録していたな」「この記録が残ってたの、すごいなあ」と触れていくような。
MOMATコレクションの関連イベント「模写と対話で考える関東大震災」も、美術でできることの試みでしょうし、かつての表現を掘りおこしながらも自分達がきちんと重なるように使われているように感じられて、とても興味深かったです。
瀬尾さんのテキストも公開されておりました!👇
最後に、横山さんのこれからのご活動としてお話しされていたコレクション展「女性と抽象」がスタートされています。
こちらも必見な展覧会ですね……!
関東大震災関連の、気になる展示
さて、関東大震災関連でトピックにあがっていた、他館の展覧会。
残念ながら神奈川県立歴史博物館の会期は終了してしまいましたが、まだ開催されている展示を含め、ご参考までにリンクを貼ってみます。
まだ間に合うものはぜひ!
関東大震災100年ー隠蔽された朝鮮人虐殺(高麗博物館)👇
関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ -未来へつなげる科学技術-」(国立科学博物館)
今後のテレビノーク配信予定!
次回直近のテレビノーク生配信は、10月23日(月)20時から。
#15のテーマは「東東京を歩く」。『東東京区区』など、葛飾区を中心に東東京の地理や歴史を漫画というメディアで発表する漫画家、かつしかけいたさんをゲストにお迎えします。
配信中のチャット欄でのコメント参加、大歓迎です!
ちなみに9月配信では、大地くんと瀬尾さんがフリートークであげていたワークショップ「記録と表現」を、ファシリテーターを担当してくださった小屋竜平さんと詳しく振り返りました。
丁寧な聞く行為、出来事を受け渡す時間の中でどんな化学反応が生まれていたか、
アーカイブでお確かめいただけたらと思います!👇
展覧会も絶賛開催中📖
そしてそして、裏話をしていた「とある窓」も、9月末から展覧会がオープンしました。
集まったリサーチャーたちによる聞き書きと、水俣在住の写真家・森田具海さんが今回のために撮りおろして下さった西大島の窓を介した風景。
連日さまざまな方にご来室いただいております。
オープン日をお確かめの上、ぜひ足をお運びください!
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マガジンの収益は、NOOKの活動継続の資金として大事に使わせていただきます。
《10号のラインナップ》はこちら👇
語らいの記録:「津波のおもしろい話はたくさんあるよ」(瀬尾夏美)
今月の絵手紙:「東京都江東区西大島 午後の広場」(瀬尾夏美)
今月のエッセイ:「エッセイ1 100年目のA」(細谷修平)
テレビノーク配信、スタジオ04での展覧会、マガジンのご購読。
だんだんと活動も増えてまいりました。
引き続き、気にかけていただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします!
レポート:佐竹真紀子(美術作家/NOOK)
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