9番目の席
つーさんに会ってきた。
今回は、ひと月半ぶりだ。
前回はふた月空いてしまったので、それよりは少し早く来ることができた。とはいえ本当は月に一度くらいは会いに来たいところなのだが。
わたしが現在、舌痛症やら鬱やらで休職中であることはつーさんには話していない。
心配性で友達思いのつーさんの要らぬ心配を高まらせてしまうだけだし、実際つーさんの方がわたしなんかよりずっと過酷な状況で日々を過ごしているのだから、と思う。
(つーさんは、ある事件を起こして確定死刑囚として収容施設にいる。詳しくはマガジン「つーさんの席」をご覧下さい)
東京拘置所へは小菅駅からてくてくと歩く。
新緑だ。
そしてシロツメクサがたくさん咲いていた。
今回は午後の面会だったので、つーさんは幾分元気だった。
眠剤と向精神薬をかなりの量処方されているので、午前中は意識が朦朧としているのである。
なので午前中に会いにいくと少し呂律が回っていなかったり、「えーっと……なんやったったかな」とキョロキョロしたりしている。
今回もとりとめのない話をする。
いつもそうだが、短い面会時間(15~20分)の中でもわたしたちは特に深刻な話や重大な伝達事項などは話さず、茶飲み友達と「よう、久しぶり」というような感じでどうでもいい話をしている。
こんなんでいいのかな、といつも思うのだが、こんなんでいいのだろう。
今回は、マイナンバーカードを作ることになって写真を撮影した話をしていた。死刑囚でもマイナンバーカードを作るというのはなんだか驚きだ。どの用途で必要になるのだろうか。
「カメラの距離が近すぎて、魚眼レンズで撮ったみたいな顔になった」
と不服そう。
カードが無事に発行されたらわたしに預けるから、と言っていた。わたしが持ってていいのだろうか。
「会えてよかったわ。今日はいい日や」
と、関西弁のつーさんはいつもいつも、面会のたびに必ずそう言う。それは本当に「今日はいい日だ」という顔をしながら、しみじみと言うのだ。
つーさんの今日がいい日になったのなら、それはわたしにとってもいい日なのだろう。
「また会えた」それがなにより大切なのだ。
面会の終わりに差し入れのリクエストを尋ねる。
・ミックスナッツ
・6Pチーズ
・ピザポテト
・カントリーマアム
あとはおまかせで、とのこと。
ちなみに東京拘置所の売店はすべて定価で売られているため、これらを2パックずつ買っただけでも3000円近くになる。高い!といつも思う。が、仕方がない。
さて、帰りにはいつものカフェへ。
今日は9番目の席。
お昼ごはんを食べ逃していたので、バナナケーキを注文した。すこしどっしりして固くて、甘くて、とても美味しい。
しみじみ美味しい。なんだかじっくりと味わってしまった。
次につーさんと会うときは、復職もして、もっと元気なわたしに戻っているといい。
そうでありますように。