幡ヶ谷、カレー、そして背もたれ
幡ヶ谷ってこれまで行ったことあったっけな?
と思いながら、電車に乗って友だちとの約束の場所に向かう日曜日。
あ、たぶんある、来たことある。ということに幡ヶ谷駅の改札を出て気づいた。
まず誰かのお葬式で「代々幡斎場」に何度か行っている。
(父の葬儀だったか…?いや、父は桐ヶ谷斎場だったかな。叔母かもしれない)
そして以前、社会人アンサンブルでマンドリンの演奏をしていたとき、幡ヶ谷にある区民会館的なところで練習をしていたことがあった。
でも、どちらも積極的に「幡ヶ谷に行こう」と思って行ってたわけではなかった(結果的に幡ヶ谷だっただけ)から、幡ヶ谷の街についてはなんの印象も残ってなかった。
そんなこんなで日曜日、友だちと幡ヶ谷を歩いた。
こっちだったかな、あっちだったかな?と言いながら歩いた幡ヶ谷の街は、駅を出ていきなり大きな高速道路の暗がりが広がり(それは赤坂の雰囲気に似ていた)、でもひとつ道を逸れたら八百屋さんや古い喫茶店もある昔ながらの明るい商店街が伸びている、不思議な雰囲気の街だった。
小さな横道にはおもしろいお店がたくさんありそう。
友だちのおすすめの「青い鳥」という小さなカレー屋さんと、レトロな喫茶店をはしごして、4時間くらいしゃべっていた。
「重ね煮」という野菜の陰陽を使った方法で煮込まれたカレーはとても滋味深くておいしく、
そして喫茶店ではわたしが座っていた椅子の背もたれが、いきなりなんの前触れもなくバコッと取れた。
友だちと楽しく話していたらとつぜん背もたれが「バコッ」と音を立てて折れ去ったのである。
店内にいた人々が一斉にそれに気づいた。
こちらを見る。
そしてじわじわと笑いが湧きあがる…という素敵な瞬間が訪れたのであった。
でもその喫茶店は接客も丁寧で、コーヒーも美味しく、とても良いお店だった。
歴史があるからこそ背もたれも折れようて。
友だちは「RRR」というインドの映画がとにかく素晴らしい、すごすぎて言葉では表現できない、もう5回も観た、それでもまだ観たい、と熱く語っていた。それはもうすごい熱量で。
「推し活」という言葉では陳腐になってしまうが、推しについて語る人というか、人が何かをすごく素敵だと思って恋に落ちる瞬間を見たようだった。
あと、自分がモヤモヤするこんな人あんな人、という話もずいぶん長々としていたのだが、要するに「自分に矢印が行っている人」が苦手なんだなという結論にスポッとはまった。
いやほんとそうだったんだ、それですべてが説明できそうだ。
それにしても、いきなり椅子の背もたれが取れたのは痛快だったな。
ドッキリ企画かと思った。
・・・
音楽教室から「レンタルバイオリンが届きました」との連絡があり、さっそく受け取ってきた。
レンタルとはいえ自分の楽器だ~と、しみじみ嬉しく思いながら、大切に抱き抱えて帰る。
楽器ケースを開けてみたらなかなか深みのある色のヴァイオリンが美しく収納されていた。
あらかじめ買っておいた消音器をつけて、ちょっとだけ弾いてみる。
思ったよりぜんぜん良い音が響いた。
なんか感動しちゃうな。
「楽器が届いたらクロスを2枚買ってください。なぜ2枚かというと、ひとつは普通に楽器を拭く用。もうひとつは弓で弾く部分の弦を拭く用です。松脂がついてしまうのでクロスを分けるんです」
とキャプテンが言っていたので、Amazonで調べてみたら、ちゃんと、こんなのがあった。
本体用と松脂用のクロスのセット。
バイオリン本体と、駒の絵がついていてかわいい。さっそく注文する。
これから長い付き合いになるといいねぇ、と、すりすりと楽器をなぜてから、またケースに大切にしまった。