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「僕があしながおじさんになろう」

昨夜のことである。

と、その前に。

なんときのう、娘は3週間ぶりに教室に入ることができた。
中間試験の二日目。
前の日から、自分で「明日行く」と心に決めて、なにか決意をしていたようだった。
腹を決めて、そこに向けて心身のコンディションを整えている様子が見て取れた。

前に、スクールカウンセラーの先生が、「教室に入ることを最終的に決めるのはあなたでいいんだよ。周りの人がなんと言おうと、あなた自身が、よし行こう、と思ったら行くのでいいの」と言っていた、まさにその時を迎えたようだった。

わたしも念の為学校まで同行したが、「お母さん、もう大丈夫だから仕事に行っていいよ」と言い、最終的には自分の決意と、学校の先生のご協力によって教室に入って試験を受けることができたのだった。

「お嬢さま(と、娘の学校では生徒のことを呼ぶ)は無事に教室で試験を受けられています」

との連絡のメールを見た時は、やはり涙がでてきてしまったな。
なんの涙かわからないけど、いちばんは娘に「よかったね」と言ってあげたかった。

支援の仕事をしている時にも感じることだけど、人は、最終的にはその人の強さによって立ち上がる。
支援というのは無理やりに立ち上がらせることでも、引っ張って力づくで助けることでもなく、その人の力を一番近くで信じて、エネルギーを養って力を出せるようにサポートすることなんだと思う。   

今回の件では本当に娘の精神力に目を見はるというか、なんというか、人ってすごいんだなと思う。
今日も朝から「ひとりで大丈夫」と言って、制服を着て試験を受けに行って帰ってきた。
よかった。ひとまず、よかったね。

また学校に行けなくなるときが来るかもしれないけど、落ち込むこともあるかもしれないけど、
どんな人生でもあなたが大好き。
それはいつでも変わらない。


…で、昨夜の話、に戻ります。

娘が無事に教室に入って試験を受けられ、しかも帰宅してとても元気であったことがか嬉しく、なんだか盛大に重たかった荷物を下ろせたような気持ちになったわたしは、夜ごはんに娘にリクエストされた「お母さんの豚汁」と、塩焼き秋刀魚、茄子の甘味噌炒め、かぽちゃ煮など「秋の祝い膳」(地味な…)を作り、食べ終えると同時にリビングで気を失うように寝てしまった。

片付けは娘と夫がしてくれたようである。

21時頃に担任の先生から今日の報告やねぎらいの電話がかかってきて、その時だけは起きた(夫に起こされた)。
で、「失礼いたしまぁす」と電話を切ったあと、またバタリと床に倒れて寝た。

しばらくして、お母さん起きて、風邪ひいちゃうよ、起きてちゃんとベッドで寝なきゃ、と娘に起こされた。
起こされているような気はしていたが、もうズッシリと深い眠りに入っていて、わたしはまったく夢の中にいた、ようである。

それでもあきらめずに起こし続けてくれる娘と、なんか、会話を交わしたような覚えはある。
でもよく分からないことを言って「何言ってるの?笑」と笑われたような記憶もある。

翌朝、つまり今朝になって、娘に「ねえ昨日の夜、お母さん変なこと言ってた?」と尋ねると、「うん言ってた」と娘。

以下、リビングの床で大の字になって寝ているわたしを必死で起こす娘との会話である。

↓↓↓

「お母さん、起きて~」

「んー」

「起きて起きて」

「…起きるだけでいいの?」 

「…え?起きるだけでいいんだよ。起きてベッドで寝るんだよ」

「だめでしょ」

「え?」

「起きるだけじゃなくて、となりの……」

「となりの?」

「会社…」

「会社?」

「となりの会社と連携して動かないといけないでしょ」

「何言ってるの?笑」

「ちゃんと連携してから動かないとだめでしょ」

「笑笑」

↑↑↑

いやはや、さすがに笑ってしまった。
起きるだけじゃだめ、連携してって、なにそれ!まったく仕事のことまで夢に見ていてやんなるね。

・・・

さて、1年ぶりのムロヤマさんの話である。

ムロヤマさんは、わたしより歳上で雪国で弁護士をしている人だが、つーさんの担当弁護士をしていたことから親しくなり、今では普通に友人だ。
年に1、2回会ってごはんをおごってもらう。
いまとなってはなんでかよく分からんが、わたしのことを「のっちゃん」と呼ぶ。

この世でわたしのことを「のっちゃん」と呼ぶのは、わたしの母、おじ、おば、そしてムロヤマさんだけである。
なぜそこにムロヤマさんが参入しているのかは謎だが、ちょっと親戚感がある感じの人ではあると感じている。

雪国から新幹線で出てくるムロヤマさんとはいつも東京駅の近くで会うことが多いのだが、今回は、

「どこか行きたいとこある?」

と事前に聞かれ、行きたいところ…まぁ無難に丸の内あたりかね、と考えていたら、

「横浜とか?気分を変えて、渋谷とか?」

とLINEが来た。
横浜!?遠いよ!あと渋谷はもうこの歳では行きたくないベスト3に入る街だ(ちなみにあとのふたつは新宿と池袋)。
そうですねぇ、やっぱりねぇ、なんて言いながら無難に丸の内におさまった。おさめた。

待ち合わせ場所で「おーい」と手を振るムロヤマさん。
多少白髪が増えたかな?とは思うものの、まだ若い雰囲気で、いつものややチャラい喋り方で「仕事はどう?」「こっちは相変わらず忙しいけど仕事は楽しいよ」などと言いながら、自分が頼んだパスタをせっせと取り分けてくれる。
「いいですいいです、いまあんまり食べられないんで」
と言ってるのに、
「いいからもう少しは食べなさい」
とお皿に綺麗に盛り付けて、はい!と渡してくる。

いまちょっと仕事を続けるか悩んでいること、来年の春くらいから転職も考えていることなど話すと(この時はまだ決定的に辞めようと思わされた例の事件は起きていなかったのである…!)、

「のっちゃんは、誰からも好かれる人だから大丈夫」

と自信満々にうなずきながら言う。

「そうでしょうか」

「そうそう。それが一番大事。どこでも大丈夫。自信持ちなさい」

そうですか。
そんならなんとかなるのかな。

ムロヤマさんの言葉には妙な説得力と、若干のチャラい不安があるが、まあ、そんな風に言われたってことをひとつのお守りとして転職に挑んでみようか。

以前、ムロヤマさんが自分の担当した被告が出所したときに自宅の洗濯機をあげてしまった話を書いたが、

今回もまた、わたしが仕事で担当している、家庭の愛情に恵まれず、生活困窮のなかでそれでも夢に向かって努力している女の子の話をしたら、

「よし、僕がその子のあしながおじさんになろう」

と言い出した。
えっ!なに?あしながおじさん?

「この名刺を渡して、困ったらなんでも言いなさいと伝えておいて」

と、名刺を差し出す。

「ごはんに困ったらなんでもご馳走するし、お金に困ったらお金を送るから」

ひえー。
ひ、ひえー!

「そりゃ駄目ですよ、わたしがそんなことしたら職域を超えてしまいます」

「だから、謎のあしながおじさんてことにして、のっちゃんじゃなくて僕がやるんだよ」

と、にんまり。

「その子は何が好きなの?」

とスマホをひょいひょい操作して、あっというまに彼女が好きなものの本と、グッズを注文してしまった。
こういう時の行動力というかフットワークの軽さには本当に目を見張るものがある。

でもまあ、謎のあしながおじさんだけど、雪国でちょっと遠いところに自分を応援してくれるよく分からんおじさん弁護士がいるってことは、彼女にとっては不思議でちょっとだけ勇気づけられることなのかもしれない。
なんか、少しだけ夢があっておもしろいし。

そんなわけで数日後、実際にムロヤマさんから届いたレターパックには、本と、グッズと、かなりの額のクオカードが入っていた。

おいおいクオカードのことは聞いてないぞ!! 

と思いつつ、本当に、目の前の困った人を助けられずにはいられない人なんだなと思う。
そういう人っているんだよねと。

しかしクオカードは困ったな。
どうしたものか。

・・・

🐹ふくちゃん🐹

健康とダイエットのためにブロッコリーを食べはじめました。
まったく食いつきはよろしくありませんが、朝になるとお皿はスッカラカンになっています。

スーパームーンは雲間からちょこっと見えた。
きれいな光だった。
秋の月。