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タベジールのゆうべ

昨夜、ちょっと印刷をする用事があったので夫の部屋に入った(プリンターが夫の部屋にあるので)。
すると、夫のデスクの上に「タベジール」という薬の錠剤があった。

なんだろ、タベジール。聞いたことない。
気になる名前だな。
錠剤をしげしげと見る。

「タベ」ってついてるくらいだからたべる関係、胃腸の薬か?
食べる前に飲む的なやつ?
腹部膨満感…胃部不快感…?

リビングにいる娘に、

「ねえねえ、お父さんの机にタベジールっていうのが置いてあるんだけど、なんだと思う~?」

と大きめの声で呼びかけたところ、

「魚肉ソーセージじゃない?」

という返答がかえってきた。

は?
魚肉ソーセージ?

どう見ても魚肉ソーセージではない

なんでよ、名前からしてどう考えたって魚肉ソーセージじゃないでしょうよ、と、娘の元までタベジールの錠剤を持って行って「これ」と見せた。

娘は、あ、なんだ薬かァと笑ってから、
「だってお父さん、いつも机の上に魚肉ソーセージ置いてあるし」とのこと。

たしかに夫は、出会った20年前からなぜかリュックのなかにいつも魚肉ソーセージを携帯している。一度不思議に思って「どうして魚肉ソーセージをいつも持ってるんですか?」と尋ねてみたことがあるが、「簡単にたんぱく質が得られるからです」とのシンプルな答えだった。

まだ独身の頃の一時期、夫は本当に毎日魚肉ソーセージとロールパンで生きていたときがあった。大学院を卒業して、研修医のような立場で動物医療に携わっていたド貧乏時代である。

それを横目で見ていて、あーこの人けっこうやばいな、早めに結婚した方がいいのかもしれない(もうちょっとマシな食事をしないと死ぬかも)と思ったのも事実である。

娘の言うとおり、たしかに今も夫のデスクの「タベジール」の隣には魚肉ソーセージの束が置かれていた。

不謹慎な話ではあるが、もし、夫が亡くなったら棺のなかには魚肉ソーセージを入れてあげた方がいいんだろう、とふと思う。
贅沢な食べものに興味がない人なので、他にどんな食べ物を入れたら喜ぶか考えても、ごく普通のカレーを流し込むくらいしか思いつかない。

自分の棺にはなにを入れてもらえるんだろう?

父が亡くなったときは、亡くなったのが急だったので前もってなんの準備もできず、毎年城之崎まで食べに遠征するくらい蟹がとにかく好きだったので蟹(実物)を入れようとしたら「甲羅が燃えないので…」とNGをくらった。

そこで、その頃まだ小学校低学年だった娘に立派な蟹の絵を描いてもらい、その絵と木製の「ホジホジ」を一緒に入れたのだった。

なるべく立派に!とリクエスト

父は年に一度の城之崎の蟹のほかには贅沢をしない質素な人だったので、他になにを……と考えて、唯一昔から好んでいたトップスのチョコレートケーキを買ってきて棺に入れた。あとは好きだった詩集とか、時代小説を入れたんじゃないかな。

また、3年前に亡くなった祖母はアメリカ生まれの帰国子女だったので、カルディとか成城石井をまわってアメリカのチョコレート(キスチョコ)を探して買ってきて棺に入れたのを覚えている。

この歳になるとさまざまなお葬式に参列させてもらってきたが、親しい人が棺のなかにいれてくれるものは、その人の人生や人となりをあらわすといつも感じる。
あ、この人はお酒が好きだったんだなとか、こんな本を読んでたんだななど、暖かい気持ちになる。

わたしのときは何が入るのだろう。
お刺身が大好物だけど、棺のなかに生魚はありなのか…?もし入れるとしたらそのときの旬のお刺身で、お醤油とわさびも添えてほしい。
あと、がんばって集めた横浜ベイスターズの伊勢大夢投手のプロ野球カードのコレクションだけは一緒に入れてもらいたい。メルカリで買い集めるの大変だったんだから。
あとできればヴァイオリンも…あ、あれはまだレンタルだから燃やしちゃダメじゃん…

などなど、タベジールから魚肉ソーセージ、そして自分の葬式のまで想像がふくらんで、けっこう楽しんでしまった夜だった。

ちなみに、結局、タベジールは抗ヒスタミン剤、アレルギーの薬でした。
なんで「タベ」なのかは分からずじまい。