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まちづくりと体感治安の話
まちづくりに関わっていると、しばしば治安が話題となる。まちづくりとは地域の公共財の運営に関わるもので、治安も、それを維持する運動も、公共財の性質を持つわけだから、まさにまちづくりで扱われる問題になる。なので地域活動ではしばしば夜間のパトロールや登下校時の見守り活動などが行われる。
この、地域の治安とまちづくりを考えていくと、奇妙な事態に出会うことがある。それは、客観的な治安の良しあしと、主観的な治安の良しあしが連動しないということである。例えばわが国の刑法犯認知件数は21世紀に入ってからずっと減少傾向を続けている。そこだけ見るとかつてなく治安のいい時代に私たちは生きている。しかし、なぜか人々は治安が悪くなっている、と感じている。
統計的に表れる治安とは別に、人々が感覚的に持っている治安イメージのことを、「体感治安」と言う。主に刑法犯認知件数を根拠に示される統計的な治安と体感治安は必ずしも連動しているわけではない。こんなニュースもある。
警察庁によると、刑法犯認知件数はピーク時の2002年(約285万件)から減少を続け、昨年は02年の5分の1以下となった。同庁は、防犯カメラの普及や市民の防犯意識の向上、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が影響しているとみている。
罪種別では、殺人が875件(前年比5・8%減)で、強盗は1138件(同18・5%減)。ひったくりなどの街頭犯罪は17万6308件(同11・5%減)、空き巣などの侵入犯罪は4万7325件(同14・8%減)で、いずれも減少幅が1割を超えた。
全体の検挙率も19・8%だった01年から大きく改善しており、昨年は前年比1・1ポイント増の46・6%。殺人や強盗などの重要犯罪では93・4%に上った。
一方、警察庁が昨年11月、インターネットを通じて5000人を対象に行ったアンケートで「ここ10年で治安は良くなったか」と聞いたところ、「どちらかと言えば」を合わせて64・1%が「悪くなった」と答えた。前年の類似調査では「(治安が)良くなっていない」「あまり良くなっていない」が計56・2%で、治安悪化を感じている人が増えている。
悪化を感じた時に思い浮かべた犯罪(複数回答可)は、「無差別殺傷」が最多の79・1%に上った。
上のニュースでは、警察は無差別殺傷事件に関する報道が体感治安を悪化させているかのように見える。そういう側面も確かにあるのだろうが、しかし、みんながみんなそういう事件を目にしても体感治安を悪化させるわけではないはずだ。実際のところ、体感治安を規定するものはなんだろうか。そう思って既往研究を調べてみたところ、面白い論文にいきあたった。
上田光明(2011)「体感治安を規定する要因の時系列変化に関する分析」は、2000年から2010年までに実施されたJGSS累積データを用いて、体感治安と因果関係のある変数を明らかにしようと試みている。
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