心を込めて歌うカラオケシリーズ aiko「青空」
色恋沙汰というのは、古今東西多くの人が興味を持つテーマでして。なので、私達が耳にするポップミュージックも多くが恋愛、それも片思いをテーマにしたものであるという分析をしている人もいたりします。
そんな色恋の中でも特にアダルトな響きを持つのが不倫とか浮気とかいったテーマで。私達の生きる社会は、一夫一妻の原則を建前としていますので、すでにパートナーが居るにも関わらず、その上で更に他の人の手を出しましたよ、みたいな話は格好のワイドショーネタとして人々の関心を惹くところでございます。
さて、今日私が歌いたいのは、aikoさんの「青空」です。
先日、疫病の影響で無観客ライブをされたんですね、aikoさん。You Tubeで放送されていて、私はそれを自宅で見ていまして。その中でこの曲を歌われていたんです。私、aikoさんは20代はよく聞いていたんですけど、ここしばらく聞いていなくて、久しぶりにお姿を拝見したわけです。だから最近の彼女の歌を知らなかったわけですけど、この曲を聞いたとき、ああー、聞きやすくて、いい曲だなあと思ったんですけど、聞き終えた後、一抹の苦味というか、あれ?こんなに飲みやすいのに、なんか引っかかるぞ、と思ったわけですね。で、じっくり歌詞を読んでみようと。
まず、語り手は速攻で「取り返しがつかないことをやっちまった・・・」というモイスチャーを出しています。何をやっちまったかというと「触れてはいけない手を、触れてはいけない唇を、知ってしまった」というんです。「知って”しまった”」んです。しかも、「ああ」という感嘆詞を間に入れて、もう一回「知ってしまったんだ」というんです。大事なことなので二回言っているんですね。明らかに、何か、取り返しのつかないことが起きたようすが伺えます。恋愛の歌で、触れてはいけない手や唇ですから、不倫ないし浮気をしてしまったということだ、ととりあえず理解できます。
しかしね、この「やっちまった」は、どうも単なる「後悔」ではないんです。その取り返しのつかない行為の結果、語り手は「あなたに会えないと思うと体を脱いでしまいたいほど苦しくて悲しい」です。しかし、「あなたに出会う前の何でもなかった自分に戻れるわけが」ない、というわけです。
ここでいう「あなた」とは「触れてはいけない手や唇」の持ち主であるかのように読めます。つまり、ここではその触れてはいけない相手に触れたことは、「やっちまった」だけど、それ以前は「何でもなかった自分」なんですね。つまり、語り手は、その触れてはいけないものに触れることで「何者かになった」と言いたげです。
だから語り手は、その「触れてはいけない」間違いを引き返せません。そのことは本人にとって「目の奥まで苦い」というような、そんな状況です。しかし語り手は、だけど、触れてはいけない手に触れたかったという欲望を、「なし」にはできないというんですね。そして、そのなかったことには出来ないという事実に、ずっと目を背けてきたっていうんです。
ここで、タイトルの「青空」が呼び出されます。語り手は、恋の相手に対し「ちょっと唇に力入れてなんにでも頷いて」いるという自分の姿を「今思い返すとバカみたいだな」と思い返します。そんな語り手には「ぼーっとした目の先に歪んだ青い空」が見えています。歪んでいるんですね。
青空って、本来ポジティブな未来を象徴する単語だと思うんですけど、それもいまの語り手には歪んで見えている。しかしここでは、その青空はただ歪んでいるだけです。ともすれば、もしかすると普通の青空よりもバロック的にきれいかもしれません。
ここまでを見ると、あたかも、不倫や浮気をやっちまった語り手が、そのことに罪悪感を持ちつつも、そこで得た体験を肯定的に捉えているという、二面性を語っているように見えます。
しかし、歌詞が二番に入ると、少し様子が変わってきます。
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