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青木真兵『手作りのアジール』を読んで、自分は資本主義の全体主義化から逃げ切れるかどうかを考えた話

 なんだかんだイレギュラーな仕事で伸び伸びになっていたけど、ようやく青木真兵『手作りのアジール』の感想を書ける。

 この世のあらゆる価値が経済的な価値で計られ、その尺度が支配的になる状況のことを本書では「資本主義の全体主義化」という。

 で、本書のいうアジールとは、その時々の支配的な権力からの避難所のことを指す。例えばかつては山や寺院や河原などがアジールであったし、20世紀の半ばまでは、大学なんかもアジールであったと本書ではいう。

 しかし、資本主義の全体主義化が大学内部の論理にまで浸透した結果、大学は教員に金になる研究成果を求め、学生には有名な企業への就職を推していくようになる。もはや資本主義という支配権力からのアジールたりえなくなったわけだ。

 青木氏は地中海史という本人曰くマイナーな研究者で、しかも大学内キャリア獲得競争に嫌気が差していく。さらに妻が心身を崩したことで、このままではまずいと考え、東吉野の山おくに、アサダワタルのいうところの「住み開き」の手法で私設図書館を構えることになる。それが「ルチャリブロ」である。氏はプロレスのファンでもあるそうで、ルチャ・リブレと本を意味するリブロからもじってつけた名前である。

 ここはそういった支配権力からのアジールとしてやってけるんじゃねえか、という一種の社会実験として彼はこれを始めていく。

 で、本書は氏の実験に感銘を受けたアカデミシャンなどを招いて対談したものの記録が主な中身となっている。

 彼のストーリーは、なんだか他人事とは感じられなかった。私も、いちおう博士号なんかはとりはしたものの、同じく資本主義化したアカデミアの競争の中ではようやっていかんなと思っている。そんな「亜カデミシャン」な自己認識を持つ私からすれば、憧れさえ感じるものがあった。

 なので、一度行ってみたいなと思って氏のウェブサイトを調べると、ルチャリブロには自宅から電車とバスを乗り継いで三時間ほどで位けることがわかった。そのうち行こうと思いながら氏のブログを見ていると、最近、青木氏に会いにルチャリブロを訪れる人が増えているが、青木史自身は不在のことが多いので、確実に会えるのはイベントの時なのでそこを狙ってほしい、と書いてあった。本書を読んで私と似たようなことを考えている人が一定いたのだろう。

 で、これを読んで、ああ、なるほど、と思ったことがあって。

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