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メモ用詩『気高きもの』

母はよく語った
亡き父の偉大さを
父親ゆずりの
体躯を得たとき
誇りに思ったが
もう母は亡く
住み慣れた家から
別の家へと
連れてゆかれ
強い憤りと
反骨心が
肉体を頑健にした
あの場所に立たされた時
仲間の血と
死の匂いがした
そして
父が死んだのは
此処だと
風砂が告げていた
地を蹴り
双角を振り
逆立てた黒き毛
地鳴りのような歓声
一人の人間
はためく紅が
打たれた銛
その痛みが
怒りを駆り立て
突進を繰り返させた
肉体伝う
赤き血が
しだいに冷たく
重たくなる
鋭い痛み
死が私を貫いた
地に倒れ
常闇が覆い尽くす
人間は見ただろうか
黒き瞳のなか
偉大な雄牛の姿を