都成竜馬七段【将棋のこと】
私は将棋を観るのが好きだ。
そして山崎八段ファンです。
山崎八段が将棋フォーカスを担当していたのは随分と前ですが、東西を代表する喋れる棋士が交替でアイドルと司会をするというのが番組の布陣。そろそろ卒業で後任は誰だろうという頃に、東は当時脚光を浴びていた高見叡王という予想がチラホラあったのですが、西が難しい。
「大穴だけど都成君が抜擢されたら、人選のセンスを感じるわぁ。」と、家だからこそ言える私の偉っそうな素人予想が見事的中。妻に「凄い!」と褒められたのも、その後しっかりと後任を務めた都成竜馬七段のおかげです。
なんせあの谷川十七世名人唯一のお弟子さんですし、しかも男前。
糸谷八段が「西のヒットメーカー」と称してプロ入り前の都成新手をニコ生番組で紹介するなど三段時代から名前は轟いていました。そのうえ、三段初の新人王戦の優勝も成し遂げて実力も申し分なし。いつプロになってもおかしくないと各所の期待が大きかった分、逆にリーグを抜けれないことが悪目立ちし年齢制限ギリギリで滑り込んだデビューの頃には苦労人のイメージが強くなっていました。そのせいで、本来は少し地黒の精悍な九州男児の都成七段を、少し暗い影のある優男のように私は錯覚していました。
そんな錯覚が思いっきり払拭されたのが、2018年に関ヶ原で開催された人間将棋でした。西の代表棋士として登場した都成当時五段が相対するは、明らかに格上の渡辺明当時棋王。イベントも大舞台も経験豊富な渡辺棋王が持ち前の舌鋒鋭く、序盤から都成五段を手加減なく口撃します。
「ところで都成殿。お主、昨日のトークショーの時にイケメン棋士とか言われてニヤニヤしておったなぁ。将棋は顔じゃないってとこをみせてやる!
4八銀!」
人間将棋特有の武士言葉を交えながらイケメン弄りをする渡辺棋王。
この時の都成五段の穏やかながら堂々とした切り返しが鮮やかでした。
「イケメン棋士・・・・、あまり自分ではそう思わないが皆がそう言うのであればそうなのだろう。6二玉。」
出たッ! イケメンと言われ慣れた者だけが言える台詞。
どうせ否定してもずっとイケメンと言われ続ける、謙遜したって誰も受け入れてはくれない。イケメンの顔で生まれた以上、認めて開き直った方が誰からも弄られなくなることを知っている人生の教訓から出る返し技。
この返しで先制し、その後の返しも秀逸続き。渡辺棋王も面白いと認めて、優秀な返し手に安心して、存分に口撃を楽しんでいました。
”都成君って大人しくしてるだけで、明るくて面白い人なのね”
勝手に抱いた暗いという印象が大きく変わり、心の中で先生にお詫びしたことを覚えています。
師弟をクローズアップした、第1回のアベマ師弟トーナメント。
その事前番組の師匠サミットで、あの冷静な永世名人が依頼が突然で云々としどろもどろしている。照れる気持ちを抑えて、ようやく開いた谷川師匠の扇子から飛び出した「竜馬」の直筆。あれは泣いちゃいますよね…
他の師匠方には申し訳ありませんが、あの破壊力が凄すぎて他の扇子のことは覚えていません。中田先生の「道」だけ、ちょっと覚えています。
谷川十七世名人唯一の弟子という十字架を背負い、重責に応えた都成七段。
自身唯一の弟子という十字架を背負わせたことの、自責に悩んだ谷川師匠。
急な依頼に対して、そんな師弟の歴史を筆に任せて書いてみたら弟子の名前を呼びかけるように筆が動いたということでしょうか。師匠の手から生まれ両手で優しく抱え上げられた竜馬。あの空間、あの瞬間、将棋には不似合いな言葉かもしれませんが、私が感じたのは「ピュア」でした。
弟子には試練ですが、谷川師匠には更に重責が増すような成績を残し続けていただきたい。そして都成七段には、そんな重責にも変わらず大きく応えていってもらいたい。
西のヒットメーカーだった愛弟子は、十七世名人の生涯で唯一手掛けた最高のヒット作なのですから。
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