「沖縄や原発は、危険と犠牲を『僻地』に押しつける、という差別構造で一致している」──鎌田慧『反国家のちから』
「本土の国会議員は、沖縄の問題を自分の問題としては考えてくれません。民主主義の名において沖縄が差別される構造ができている。「構造的差別」という言葉が、最近、沖縄の新聞ではキーワードとして使われています」
大田昌秀元沖縄県知事が鎌田さんに語った言葉です。さらに続けて
「沖縄ほど憲法と縁のない県はどこにもありません。大日本国憲法が作られた時も、今の平和憲法が作られた時も、沖縄代表の国会議員は一人も国会に出ていません。大日本国憲法の時代、沖縄代表が国会に出たのは、他府県よりも三○年も遅れ、今の憲法の場合は二四年遅れました」
大田さんは知事時代、足繁く「米軍基地を返してもらうためアメリカに行って交渉して」きました。その過程の中でダーウィン基地(オーストラリア)、ハワイ、グアムへの基地移転の話が出てきたといいます。少なくとも現地の知事、議員は賛成していたといいます。
「グアム知事や議会議長、商工労働部の頭取と会って話をしたら、みんな喜んで考えたいと言ってくれにた。ところが彼(グアム選出のアン・ナウド下院議員)がアメリカに帰ってそれを公表したら、とたんに政治的な干渉が入ったという連絡がありました。(略)はっきりは言わなかったけれども、日本政府外務省ということを匂わせていました」
なにがあったのでしょうか……。もはや探るべき方法もないかもしれませんが鎌田さんの言ったこの言葉は真実ではないでしょうか。
「沖縄や原発は、危険と犠牲を「僻地」に押しつける、という差別構造で一致している。わたしの故郷青森は、僻地ゆえに基地と核施設のすべてを押しつけられ、本土の中の沖縄といえる」
この本に収められた長短さまざまな文章に一貫しているのは、国家の強権、それは民主主義の名の下に行われている多数決至上主義、少数派排除に対する抗議だと思います。
今その典型的な姿が、沖縄の基地問題にあらわれています。国益(公益)の名でまず犠牲を強いられるのは僻地であり相対的な少数者です。そのことの認識から私たちは始めなければなりません。また、沖縄がどのような歴史をたどってきたのか、沖縄の人たちがどのような想い、希望を持ってきたのかも考えなければならないと思います。
日本の危機的な姿は基地問題だけではありません。非正規雇用の拡大によって、労働そのものが破壊されようとしているようにも思えます。そこにあるのは
「いまは少し不安定な方が支配が安定するという時代になったのかもしれません。安部政権や竹中平蔵がやってきたのは、不安をかきたてる支配です」
ここでも国益(公益)というものか持ち出されてくるのではないでしょうか。それによって弱者を生み出し、固定化していく……そして不安定さと不安はますます増大していくという悪循環。
相対的少数者、弱者、差別される側に立ち続けることはたやすいことではないと思います。『暮らしの手帖』の花森安治さんのこんな言葉が引用されています。
「ボクは、たしかに戦争犯罪をおかした。言訳させてもらうなら、当時は何も知らなかった。しかし、そんなことで免罪されるとは思わない。これからは絶対だまされない、だまされない人たちをふやしていく。その決意と使命に免じて、過去の罪はせめて執行猶予にしてもらっている、と思っている」
もちろん花森さんは戦争にだまされていたわけではありません。当時の日本政府(大日本帝国政府・軍部)のいう国益(公益)というものにだまされたのだということは忘れてはならないと思います。
この本は沖縄、派遣労働者の問題だけではなく、死刑、冤罪やハンセン氏病の差別、朝日新聞の誤報問題、安倍政権が曲解どころか自分の都合のいいように勝手に解釈している砂川判決と多岐にわたった長短の文章が収められています。そのどれもが私たちに、自分の足で立つとはどのようなものであるのか、そしてそれがいかに重要なものであるかを言っているように思えるのです。と同時に私たちが直面している現実がどのようなものであるのか、どのような課題が私たちの前にあるのかを示してもいるのだと思います。
書誌:
書 名 反国家のちから
著 者 鎌田慧
出版社 七つ森書館
初 版 2015年2月26日
レビュアー近況:コパアメリカ、ペルーとの予選リーグ第3戦をスコアレスドローで終え、試合後「全て自分の責任」とハメス・ロドリゲスが敗退を覚悟したコメントを出していましたが、直後の試合でブラジルが勝利した為、3位でコロンビアは決勝トーナメント進出。コンディションの上がらないエース・ファルカオに相対するメッシ擁するアルゼンチン。「得てして」を期待する野中でした。
[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.06.22
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=3669
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