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ICTの日常づかいが育む未来:小学1年生から始めるデジタルリテラシー教育

洗足学園小学校オープンデー

川崎市に位置する洗足学園小学校。その門をくぐると、子どもたちの元気な声が響き渡り、校内はいつも以上に活気に満ちていました。今日は年に一度の「オープンデー」。保護者や教育関係者、地域の方々が集い、学校の教育実践を体感できる特別な日です。今年のオープンデーでは、ICTを活用した授業が全学年で公開され、児童たちの主体的で協働的な学びの姿が披露されました。
特筆すべきは、洗足学園小学校においてICTが特別な存在ではなく、児童たちの日常に自然に溶け込んでいる点です。この日常性を基盤に、ICTを活用した教育がどのように「その先」の学びを実現しているのかを目の当たりにすることができました。ICTの普段使いを超えた「未来の教育」を目指す洗足学園小学校の実践を、4年生の社会科、1年生の道徳、そして6年生の国語の授業を通じてご紹介します。

4年生 社会科「日本の人口」

4年生の社会科授業では、「日本の人口」をテーマにした探究型学習が展開されました。授業の冒頭、教師は児童たちに「今日はデータ分析のプロフェッショナルになろう」と呼びかけ、彼らを引き込む工夫を見せました。教室内のプロジェクターには、選択肢として「総人口(65歳以上)」「人口ピラミッド(2000年)」「産業別就業者数」などのグラフが映し出されており、児童たちは興味を持ったグラフをチームごとに選び、分析に取り組むことになりました。
各チームはNumbersを使って、選んだグラフから読み取った情報をめぐって意見交換をする活動を開始しました。「総人口(65歳以上)」を選んだチームは、高齢化社会について、「人口ピラミッド(2000年)」を選んだチームは、少子化傾向を示すデータについて、具体的な事実や疑問を導き出していきます。教師は各グループを巡回しながら、「どうしてこの数字が増えていると思う?」「このグラフの変化が私たちの生活にどう影響しているかな?」といった問いかけを通じて、児童たちの思考を深めていきました。
また、生成AIを活用した学びもこの授業の特色の一つです。児童たちは、立てた疑問や仮説をAIに入力し、その回答を参考にしながら、データの背景や意味をさらに探究していきました。AIとのやりとりを手がかりに、自分たちなりの見方や考え方を働かせていきます。こうした活動を通じて、児童たちは、データと向き合いながら思考を深める楽しさを味わっていました。
授業の終盤には、考えをまとめたNumbersの画像をPadletの掲示板に提出。画面には児童たちのレポートが一覧表示され、それぞれが読み取った情報や立てた問いが共有されました。
次の時間以降、リアクションをしたりコメントをつけたりする活動ができるので、クラス全体で情報を共有しながら、さらに議論を深めることができるでしょう。
児童たちはチームで協力し、問いを立て、生成AIを活用しながら答えを探し出すプロセスを楽しんでいました。教師はその活動を支えつつ、子どもたちの主体性を引き出すファシリテーションに徹しており、洗足学園小学校が重視している「主体的・対話的で深い学び」が具体的な形を取りつつあることを実感することができました。

1年生 道徳「これはヒ・ミ・ツ」

1年生の道徳授業では、「これはヒ・ミ・ツ」と題して、デジタルシティズンシップ(DC)を学ぶ活動が行われました。この授業の目的は、まだICTに慣れていない低学年の児童に、デジタル社会における「情報の取り扱い」や「自己防衛」の意識を芽生えさせることです。
授業の冒頭、教師は児童たちに「秘密って何だろう?」と問いかけ、「伝えてよい情報」と「秘密にしておくべき情報」を考えさせました。この問いかけは、日常生活における情報の価値や重要性を見直す契機となります。次に、ロイロノートの同心円ツールが配布され、児童たちは「自分」「家族」「友だち」「知らない人」の4つのカテゴリに分けて、どの情報を共有すべきか、秘密にすべきかを整理しました。
具体的には、「住所」や「誕生日」といった情報がどの範囲まで共有可能かを考える一方、「好きな食べ物」などの情報は誰に伝えても問題ないかを議論しました。タブレットを操作しながらカードをドラッグして配置する中で、児童たちは、自分や友だちの情報の取り扱いに対する意識を高めました。また、教師は「その情報がメールやSNSで広がったらどうなるかな?」と問いかけ、情報拡散のリスクと責任について考えさせる時間も設けました。
授業の終盤には、各児童が作成した同心円の内容が共有され、発表や意見交換が行われました。「誰にでも伝えられる情報」と「秘密にすべき情報」の基準が個人によって異なることを学び、他者の価値観を尊重する姿勢が育まれました。児童たちからは「ゲームのレベルを教えるのはいいけど、住所はだめだよね」など、具体的で活発な意見が出されました。
授業の終盤で教師は、「インターネットは便利だけれど、使い方を間違えると危険もあるよね。自分や友だちの情報を守るために、今日のことをおうちでも話してみてね」と呼びかけていました。
この授業を通じて、小学1年生の児童たちはデジタル社会で必要な基本的リテラシーである「情報の扱い方」について考え、他者と意見を共有する貴重な体験を得ました。こうした取り組みは、児童にデジタル時代を生き抜く力を育むものであり、情報化社会の中で責任ある行動を促す教育の一例として注目に値します。

6年生 国語「住みやすい家を考えよう」

6年生の国語の授業では、「住みやすい家を考えよう」というテーマで、生成AIを活用したプレゼンテーションが行われました。この授業は、児童一人ひとりが未来の家について考え、グループでアイデアをまとめることで、思考力や表現力を育むことを目的としています。
授業の冒頭、教師は「みんなにとって住みやすい家ってどんな家かな?」と投げかけ、児童たちに個人でアイデアを出す時間を与えました。その後、各自がロイロノートを使い、自分の考えを整理していきます。児童たちは、自分が考える「住みやすい家」の条件を、生成AIの提案を参考にしながらアイデアを深めていきました。例えば、ある児童は「災害に強い家」をテーマに、防災設備やエコロジーの観点を取り入れたアイデアを提案。一方で、「家族が集まりやすい家」というテーマを選んだグループでは、リビングを広く取る設計やペット用のスペースを盛り込むなど、個性豊かなアイデアが生まれました。
グループ活動が進む中で、児童たちはPadletを利用して意見を共有し、他のグループの考えを参考にする場面も見られました。生成AIの提案を取り入れる際には、単にAIが出した情報を鵜呑みにするのではなく、「このアイデアはどんな人にとって良い家になるだろう?」といった問いを立て、批判的に検討する姿勢が強調されていました。こうしたプロセスを通じて、生成AIを「補助的なツール」として活用しながら、自分たちのアイデアを主体的に構築する様子が印象的でした。
授業の最後には、グループごとのプレゼンテーションが行われ、児童たちは自分たちの「住みやすい家」をクラス全員に向けて発表しました。あるグループは、未来の技術を活用して「空中に浮かぶ家」を提案し、参加者を驚かせました。一方で、あるグループは「高齢者が住みやすい家」をテーマに、バリアフリー設計や健康管理システムの導入を提案し、社会的課題に目を向けたアイデアを披露しました。発表後には児童同士で意見を交換し合い、「こうすればもっとよくなるんじゃない?」といった建設的なコメントが飛び交い、学びを深めていました。
この授業を通じて、6年生はただ言葉で表現するだけでなく、具体的な提案を形にしていく過程を体験しました。生成AIという最新のツールを活用しつつも、そこに頼りすぎることなく、自ら考える力を大切にする姿勢が見られた点は、洗足学園小学校の教育理念を象徴するものでした。このような先進的な授業が、児童たちの未来への可能性を広げていることを感じさせる場面でした。

Bace_Cの片隅で憩うLOVOTたち

その先にあるもの

洗足学園小学校の教育が目指すのは、ICTを特別なものとして扱う段階を超え、日常的に活用しながら、それを通じて児童たちの探究力や創造力を育むことにあります。「わざわざICTという言葉を使う必要がない」という教育の在り方は、日常使いを基盤としながら、未来の学びを切り拓く先進的な取り組みそのものです。このアプローチが、児童たち一人ひとりの成長を支える教育環境を実現しています。
オープンデーを通じて、洗足学園小学校のICTを活用した教育が、児童たちの可能性を広げ、未来への扉を開く重要な鍵となっていることを実感しました。「ICTの日常づかい その先にあるもの」というこのイベントの問いかけは、多くの参加者の心に刺さったはずです。オープニングで予告されていた来年11月21日(金)のOpen Day 2025 でさらに鮮明な姿で披露されることになるはずの「その先にあるもの」が楽しみです。

Nona.G with ChatGPT


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