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GQuuuuuuXに「アレ」を見た話
「ウチの工場で作ってる部品、アレっていったい、何の部品?」
「あ?ありゃあ・・・電化製品の、何かだな、多分。」
「スペース☆ダンディ」は、宇宙のダンディ・・・ではなくて2014年BONES制作のTVアニメーション作品。その中でちらりと登場する「アレ」が、今回のお題。
「アレ」の元ネタは遡ること1980年、「機動戦士ガンダム」のワンシーンだ。
物語の終盤、主人公のアムロは戦火で生き別れた父、テム・レイと再会する。漂流の末に酸素欠乏による脳の機能障害を負った父は、ガラクタを寄せ集めた組込ユニットをアムロに渡し、「これをガンダムの記憶回路に取り付けろ」と促すのだ。
父の変わり果てた姿に、遣り場のない怒りと悲しみを覚えたアムロは、母艦への帰途、「アレ」を地面に叩きつけるのだった。
「機動戦士ガンダム」という作品は、東映動画の下請けだった日本サンライズというアニメ制作会社が、独立経営を目指して制作したものだ。結果は放映打ち切りと冴えないものだったが、熱烈なファンによる草の根活動が功を奏して劇場版の制作にまで発展した。テレビの放映終了後に発売されたバンダイのプラモデルは、社会現象とまで評されたほどの売り上げを記録し、これが「ガンプラ」と呼ばれ今日に至るまで売り上げを伸ばしている。
こうしたガンダムの人気を支えているのは、徹底したリアリティを追求した「世界背景の設定」にあるとも言える。「機動戦士ガンダム」の世界観は、実に緻密で説得力のある細やかな設定が成されている。ロボットアニメのカテゴリにおいて「戦争」を取り入れた、最初のアニメ作品だった。
その中のひとつが、ガンダムの中枢となる「教育型コンピュータ」の設定だ。
「教育型コンピュータ」というのは現代のAIのようなシステムで、戦闘記録を学習して最適な操縦をパイロットに促すというもの。初戦でアムロがいきなりガンダムを操縦しザクを撃破できたのも、ひとえに教育型コンピュータの性能によるものだ。
人間の機械操作のアシストにコンピュータが使われたのは、恐らくNASAのアポロ計画が最初ではないか。月面着陸を行う際、複数のスラスターを使い分けて軟着陸を行うのだが、地上での降下訓練で何度も失敗を重ねてしまう。
日本ならパイロットの練度を問題にしそうな処だが、米国は合理的に考え人間ではムリ、と結論した。そこで当時最新技術であったマイクロコンピュータの採用に踏み切ったのだ。
旅客機のオートパイロットを例にとれば解り易いだろう。なんなら自動車のカーナビなんてのも、運転をアシストするコンピュータだ。
ガンダムは敵対する反乱軍「ジオン公国」の主力兵器:ザクに対抗して連邦が開発した新兵器であるが、こうした基幹技術に至るまで細かな設定が配慮されていた。対するザクは「操縦者によって性能が変わる」とされ、マニュアル操作による処が大きい様子が途中で描かれていた。小さなエピソードだが、「通常の3倍」の性能を発揮する「シャア専用機」のリアリティを浮き彫りにした。
これが、監督:富野由悠季という人物の凄腕である。
そして2025年。機動戦士ガンダムの新シリーズとなる「GQuuuuuuX」に、「アレ」が姿を見せたのだ。
ジークアクスの舞台はかつて、中立コロニーとして戦争を回避したサイド6。終戦から5年が経過し、民間に払い出されたモビルスーツが経済活動にも使われ始めた時期。
民間への払い出しの際、モビルスーツは武器の使用など制限されロールアウトされる。この制限、つまりはリミッターを解除するために違法ソフトが闇に出回っているという設定だ。
この違法ソフトが記憶されているのが、「アレ」に酷似したストレージ・ユニットなのだ。このユニットが鍵となり、主人公は主要キャラと繋がっていく。徐々に物語が動き出すのだ。
「GQuuuuuuX」のガンダムは、スタジオカラーの山下いくと氏が担当している。かつて大河原邦男氏がデザインした初代からは、随分とかけ離れたものになって見える。
しかし新型のガンダムと言えど、基幹システムには「アレ」が使われているのだ。これは監督:鶴巻和哉氏の示す「ガンダムへのオマージュ」であるように私は感じる。
打ち切り決定によりプロットが大幅改変され、急遽追加された「父との再会」から誕生した「アレ」ではあるが、デザインはきちんと大河原邦男氏が起こしたもの。当時の制作事情なら、現場のアニメーターがちゃっちゃと書き入れたかもしれない小物を、「世界観の統一」のためにわざわざ大河原氏に任されたのだろう。これが「ガンダムの世界」を強く支える大きなファクターなのだ。
赤かろうが白かろうが、「アレ」が根っこにある限りガンダムはガンダムなのだ。
それは「魂」であって、電化製品とは違うんだゾ。