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いつかの時にまた

その連絡は、躊躇いにためらた
しかしもう彼女しかいない......
僕はダメ元なんてかわいいくらいもっとダメで当たり前くらいの気持ちで

3年ぶりに連絡した


話は三時間前に戻る

僕らはいつも通りオールナイトカラオケをしようと、高校時代の親友とずっと通っていたカラオケに集合と連絡して、僕は彼より先にカラオケに入って、いつも通りのナイトプランで部屋に入っていた

最近変わったことと言えば、彼がついに学生を卒業して、就職し、今までは一緒に入っていたカラオケに、僕が先に入って、先に少しヒトカラをするぐらいだ

それからいつも通り、ヒトカラ独特の人前では歌いたくない歌、まだ練習中の歌を歌って時間を過ごしていた

カラオケ開始から二時間後のこと
後で集合するはずの彼から連絡がきた
着いた報告だと思い、画面を開くとそこには、思いもよらない内容が書いてあった

「ごめん、今日行けない
今から福島の取引先に直接謝りに行くからしばらく帰れない」と

うそ......だろ......

帰れない......

この連絡が今日でなければ、ただ単に今からオールナイト一人カラオケが始まるだけだが、あいにく僕は今財布に千円札一枚しかない......

僕は急いで、カウンターに向かった

事情を全部話して、今すぐ出るから、この二時間分の代金にしてくれと

答えは非情だった

最初のプラン通り払ってもらう
変更はできないと

僕は冷や汗を滝のようにかきながら、自分の部屋に帰った

どうするどうするどうする!!!

僕の頭はショート寸前のまま必死に思考を回した
そして、一つの答えに辿り着いた
片っ端に連絡しようと

惨めとか、カッコ悪いとか関係ない、今の僕には後がない。人生でお代が払えないなんてしたことないからよく知らないけど、多分大変なことになる

僕は必死でスマホにかぶりついた


それから一時間、僕は必死に連絡をした
しかし、誰か来るはずもなかった
それもそう、今の時間は二十四時を回っている
僕らの世代はみんな就職している歳だし、こんな時間にこんなとこに来る奴なんているはずない

僕は放心状態だった
連絡先の欄は既に送って未読のままのリストで埋まっていて、残ったのは高校卒業以来連絡してないくせに、急に訳わからない連絡を送った後悔だけだった

「あ〜〜終わった〜〜」

完全に力尽き、天を見つめるしかできない僕に、一つのひらめきが思いついた

しかしその思考は、思いついた途端、同時に流石にそれはダメだと、止める自分がいた

しかしこれだけ既読無視された僕だ、どうせ彼女も寝てるとダメ元で連絡した



既読がついてしまった......


目を疑った、ついに幻覚を見出したのかと

とっくにブロックされてると思ってた

でも彼女は連絡を返してきた

「何それ、バカだね」と

この際だから、彼女に連絡することを止めた僕を振り切って連絡を続けた

それから三十分後
僕のカラオケボックスの扉を彼女が開けた

「......」

「あっ、来てくれてありがとう! とりあえず座ってください!」

彼女の顔を見た途端、僕の脳裏を淡い青春の思い出が過った

彼女はこんな顔で、こんな雰囲気だったと、あれから三年で彼女があまり変に変わっていなくて安心した


それからしばらく、長いような短いようなよくわからない、沈黙が流れた

そして彼女は、口を開いた

「カラオケする?」と

僕は度肝を抜かれた

それは彼女のトンチンカンな話の内容にではなく、彼女のその声にだった

だって僕が彼女と過ごしたあの三年間で、僕は彼女の色々な表情を見たけど、彼女の声を聴いたのはこれが初めてだったから

最初は静かな子だと思っていたが、彼女と仲良くなるにつれ、彼女は声を出せない何か、理由があるのだと考えた。

考えたが、人には誰しも知られたくない秘密ぐらいあるだろうから、僕は結局その真相を知らずに、彼女と別れた

「しっ、しないよ......」

「でも終電ないよ? 帰れなくない?」

「まぁ、ね〜」

「災難だったね〜」

「ちょっ、ちょっと待って? 声......」

当たり前のように続く彼女との会話が僕には不思議で、聞かずにいられなかった

「ん?」

案の定、彼女は昔から少し抜けた性格で、きっと僕が彼女の声に驚いていることなんて、気づいてないだろう

「声......綺麗だね......」

「ん?......やっぱり、カラオケしたいの?」

彼女のこんな抜けたとこが好きだったなと、思い出した

「しないよ、少し話したいかな」

「うん?......」

「今何してるの?」

「ん? フリーのイラストレーター」

「フリー......だからこんな時間に起きてたのか......」

「君は?」

「ふふ、実家ニート、たまにイベント派遣に行くくらい」

「ふーん」

彼女はあまり興味なさそうだった。大体の人はニートと聞くと、苦笑いするものなのに

「なんかあったの?」

「まぁ、鬱?」

「大変だね〜」

それからまた少し沈黙が続いた


そして彼女がおもむろに、カラオケのタッチパネルを操作しだして、マイクを握った

「カラオケ、初めてなんだ」

どうやら彼女はカラオケがしたかったようだ。しかし彼女が言う通り、初めてのようで、採点も入れてなければ、よく知ってるアニメの曲なのにまるで別の曲かのように聞こえるほど彼女は音痴だった

歌い終わった彼女はマイクを置いて僕の方を見た

「どうだった?」

「まっ、まぁ〜慣れって大切だよね......」

苦笑いで僕が答えると彼女は少し落ち込んだように見えた

「おまえ、歌えよ」

彼女は少し怒り気味に僕にマイクを突き出した

「いや、そんな気分じゃない......」

「ふ〜ん、じゃあ帰る! 警察のお世話になってろ!」

「ちょっと待って、歌うから、帰らないで、なんでも言うこと聞くから!」

そう言うと、彼女は少し喜んだように見えた

それから僕は渋々、彼女が昔好きだった曲を選んで歌った

「うまいね〜」

彼女は呆れ顔で手を叩きながら、そう言った

「歌えって言ったのあなたですよ? ちょっとは興味持ってよ」

「ねぇ? さっきなんでも言うこと聞くって言ったよね?」

「ん? うん......」

なんだか嫌な予感がした

「この三年間の話、してよ!」

嫌だった

思い出したくもないし、そもそも思い出せないくらい、平凡で、退屈な三年間を過ごしてきたから。
でもこんな顔をする彼女を見たのは初めてだし、今断ったら、また彼女が帰ろうとしそうで、僕に拒否権はなかった

「わかったよ......高校卒業して、僕は東京に出たけどさ? なんか学校合わなくて、コ○ナで友達もできなかったし......兄貴と一緒に東京出たのにあいつクビになったから、一人暮らしになって、途端に病んじゃって、一年で学校辞めた。それから実家帰ってバイトしてみたけど体おかしくなってるせいか、続かなくて、今はニートって感じ......」

話し終えると、彼女はちょっと引き気味だった

「うわ〜重いね」

「聞いたのはそっちだからね!?」

「ねぇ? 素朴な疑問なんだけどさ? なんでわざわざ東京の、高校の延長みたいな学校行ったの? 君向いてなかったよね?」

「君から逃げるため......」

思考が回る前に言葉にしていた、自分口から溢れた、まごうことない本音に吐きそうだった

「ん?」

必死に言い訳を考えたが、何も思いつかなかった

「俺さ? 高二で別れてからずっと君を追いかけてた、未練らたらたらで。それでこのまんまじゃずっと君を探しちゃうから、絶対君のいない東京に逃げた」

「もしかして私悪い?」

話した言葉を思い返して、自分がまた人のせいにしてるのに気づいて、自分を嫌いになった。でもやっぱり彼女から逃げたのも本心で、嘘はつけなかった

「君は悪くないよ、俺がただめちゃくちゃキモいだけ」

「じゃあもしかしてあれ以来彼女は......」

「生涯彼女は君だけ、まぁ一ヶ月しか付き合ってないし、彼女って呼べるか怪しいけどね?」

「私もね? あれから別の人と付き合ったんだ。でも、ダメだった......彼が求めたのは何も知らないバカな女で、私じゃなかった......そのショックで大学辞めちゃったし......」

なんだか似てるような気がして、少し落ち着いた気持ちと、彼女を捨てた彼女の元彼に対する怒りで感情がぐちゃぐちゃになった

「君も重いじゃないか......」

「ニートはしてないもん!」

「君の場合できなかっただけだろ?」

彼女の家庭環境が複雑で、卒業式前に苗字が変わっていたことは知っていた

「うちら、不幸だね〜」

「不幸かもね〜」

「ねぇ? うちら付き合わない?」

急なその言葉に、心臓が飛び出るかと思った
願ってもないその言葉、三年前の僕なら泣いていただらう。でも今の僕は

「やめとく、今付き合っても幸せになれない」

「そっか」

「いつか、君を幸せにできるようになったら連絡するから、まだフリーだったら連絡返して?」

「わかった、覚えとく」

それから彼女と僕は朝な時間までカラオケをバカみたいに楽しんだ

時間が来て、寂しい思いがありながら、彼女に代金を払ってもらい外に出た


「私、駅と反対だから、じゃあね」

「またね!」

「今日のお代はつけにしとくから、そのいつかの時に迎えに来てね! 待ってるから」

彼女はそう言うと僕に背を向けて歩き出した

僕もまたいつかの彼女に会うために、一歩踏み出した

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