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ジャズギターアドリブ入門:アルペジオ奏法
はじめに
みなさんはじめまして。ジャズギタリストの野村宗督です。ジャズギター演奏を多くのかたに楽しんでいただきたく、誰でも簡単にジャズのアドリブ演奏ができるようになる練習方法をまとめることにしました。
「ジャズのアドリブで音を外してしまう」「スイング感が出せない」というお悩みを解決できると思いますので、一緒に練習していきましょう。
アルペジオは音が外れないという鉄則
「ペンタトニックで途中までアドリブできるが、途中で音が外れてしまう」といった経験はないでしょうか?残念ながらジャズは一つのスケールでアドリブが取れるほど単純ではないです。
そこでまず、アルペジオです。和音を構成している音を使えばその瞬間音が外れることはありません。地道なアルペジオの運指練習はジャズでとても重要です。構成音の流れを把握し、その上で好きなようにメロディーを弾くと良いと思います。
また、アルペジオの練習をすることは結果的にビバップに通じていくので、そういった意味でもおすすめ致します。詳しくは後述します。
基本練習のTAB譜
では、実際にやってみましょう。この練習方法では以下のステップでアドリブの練習をしていきます。
テーマを弾く
8分音符でアルペジオを弾く
1音毎の響きを確認する
自然につなげる練習をする
実際にやってみると感覚がつかめると思いますので、次の参考動画とTAB譜を使って練習してみましょう。今回は「Fly Me To The Moon」の最初の4小節を題材にしてアドリブの練習をしていきます。まず、見やすいようにすべてのTAB譜を載せます。
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解説:テーマの練習
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ここからは一つ一つ解説していきます。まず最初はテーマの練習です。実際のジャムセッションでは、フロント奏者の誰かがテーマを弾いてからアドリブを順番に回していきます。そういった意味でテーマを含めて練習しておく必要があります。
また、このテーマは必ずコード進行とあっているメロディなので、このメロディを変化させることで印象的なアドリブ演奏を作ることもできます。
解説:5弦から始まるマイナーコード 8分音符のアルペジオ
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8分音符で上下するAm7のアルペジオです。Am7のコードをギターで弾くときに抑えるポジションを中心に、なぞるように行き来しています。この練習のポイントは「形で覚える」と「スイング感を出す」ことです。
ギターは同じ押さえ方をスライドさせれば簡単に同じ種類の和音が弾けてしまう楽器です。この特性を活かしてまず和音を形で覚えてしまいます。この形をなぞれば、Am7のときに音を外すことはありません。
また、8分音符で埋め尽くす練習は非常に大事です。ジャズ特有の4ビートのスイング感を出すには「4分音符で刻む」と「スイングした8分音符で埋め尽くす」という方法があります。8分音符で埋め尽くせるようになるとギター単体でスイング感を出すことができるようになるので、少人数構成のバンドでもジャズを楽しめるようになると思います。
さまざまなアドリブ演奏をするための基礎技術として、瞬時にコード構成音の位置を把握するトレーニングでもあるので、地味な練習ですがコツコツ取り組みましょう。
コラム:ビバップはアルペジオ
モダンジャズの基礎を作ったサックスのチャーリー・パーカーはビ・バップというスタイルを確立しました。チャーリー・パーカー以後はモダンジャズ、以前はオールドジャズと呼ばれています。
映画「バード」を観るとよく分かるのですが、チャーリー・パーカーはかなり速いテンポで高速のアドリブフレーズを延々と続けるというスタイルで演奏し、一気にジャズの世界を変えてしまいました。
セッションに行くと「BILLIE'S BOUNCE」などビバップらしいコード進行の曲を管楽器のミュージシャンたちが速いテンポで演奏を楽しんでいる場面をよくみかけます。ギタリストからするとどうアドリブを演奏して良いかわからなかったので、その場にいた有名なプロサックス奏者の方に「ビバップをうまく弾けないんですがどうすればいいですか?」と質問したところ「ビバップはアルペジオだ。アルペジオなら音は外れない。遅いテンポから練習しなさい」と教えてもらいました。
チャーリー・パーカーやビバップのテーマを改めて見直すと、実は多くの部分がコードの構成和音をたどるようなラインを取りつつ、クロマチックや3連符の表現でつなげていることに気づきます。高速で目まぐるしく変化するターンアラウンドのコード進行に対応するには、まず瞬時にアルペジオをたどる演奏ができないといけなかったというわけです。
コラム:スイングジャズはシャバダバダ
ジャズ未経験のときにロックギター風のアドリブをしていたのですが、どうもスイングジャズっぽくならないと悩んでいました。そんなとき、あるベテランのプロジャズミュージシャンに「シャバ・ダバ・ディバ・ドゥヴァと歌うように弾いてみなさい」と言われました。昭和の歌謡曲で「シャバダバダ」という言い回しを聴いたことがある人もいるかも知れませんが、この意味は「少し跳ねるような8分音符を延々と続けて、スイング感を持続させること」です。
「シャバ・ダバ・ディバ・ドゥヴァ・ドゥバ・ディバ・ダバ、、、」と心のなかで歌いながら8分音符で埋め尽くしてみましょう。自然とスイングになります。
解説:6弦から始まるマイナーコード 8分音符のアルペジオ
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今度は6弦から始まるDm7のアルペジオです。5弦から始まるマイナーコードとは違う形です。この運指も基本形なので練習しておきましょう。
解説:5弦から始まる7thコードの8分音符のアルペジオ
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次はG7のアルペジオです。マイナーコードより指の使い方に工夫が必要です。7thコードはジャズ・ブルースでよく出てくる形なのでこのポジションもしっかりマスターしておきましょう。
解説:6弦から始まるメジャー7thコードの8分音符のアルペジオ
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最後はCメジャー7chのアルペジオです。この6弦から始まるメジャー7thの形はそのままスウィープピッキングしやすい形なので、8分音符だけでなくスイープの練習もしておきましょう。
解説:1音毎の響きを確認する
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コード構成音だけで埋め尽くす奏法はそれはそれでかっこいいですが、機械のような演奏になってしまいます。印象的なアドリブにするために、「どの音がどんな響きをするか確かめる」ことも大事です。
この例では短三度と長3度の響きを確認する練習です。3度の音はメジャーかマイナーのどちらかを決める音なので、この音を選ぶとコード進行の特徴を表現しやすいというメリットがあります。
これ以外にも13, b13, 9th, b9thなどのテンションノートがどういう響きをするか確認しておくと良いと思います。
解説:自然につなげる練習をする
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この例は各コードの3度の音に対して半音上からつなげる練習です。アルペジオ中心にアドリブをすると機械的な演奏になりがちなので、自然につなげるためにクロマチック (半音階)でのアプローチを意識しておきましょう。
応用練習のTAB譜
基本がある程度できるようになったら実際のアドリブ例を見ていきましょう。まず応用練習のTAB譜を載せていきます。
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解説:アルペジオのみの機械的なアドリブ
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では応用練習として1つ目のフレーズを見ていきましょう。このフレーズはコード構成音のみで埋め尽くされています。この運指が速いテンポでもできるようになると、あとはどうやって音を変えていくか、メロディーにしていくかという話になっていきます。テンポ180ぐらいで弾けるようになるとどんな曲でも対応できるようになると思います。また速いテンポで弾くと、アルペジオだけのフレーズもかっこよく聞こえるので、アルペジオだけで弾くことはそんなに悪いことではないと思います。
解説:テーマをアルペジオで崩した例
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この例ではFly Me To The Moonのテーマを混ぜたアルペジオとなっています。演奏を聴く側からすると知っているメロディが流れると反応するものなので、セッションのときにはこういう気の利いた演奏をすると高感度が上がります
解説:アルペジオとテンションノート、クロマチックを組み合わせた例
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この例ではアルペジオの中にクロマチックのフレーズや、テンションノートの9th、b9thを入れてあり、より自然なメロディに聴こえると思います。
アルペジオの隙間をうまくつなげていくと、より情緒的なサウンドになっていきます。
解説: ピッキングを安定させるためのトレーニング
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これは単純なドレミファソラシドですが、アルペジオトレーニングではこれも非常に重要です。
毎日の基礎練習として、こういった単純なスケールをテンポ200以上で毎日やると8分音符のピッキングが安定します。ジャズのセッションでは160〜200という速いテンポで演奏することが多いですし、特にビバップは音で埋め尽くす音楽です。ですので、そもそも右手のピッキングを長時間安定させるトレーニングを別途行う必要があるので、毎日3分間だけ8分音符のドレミファソラシドをテンポ200〜220で練習する習慣をつけましょう。
さいごに
ジャズのアドリブ入門として、アルペジオをベースに考える「アルペジオ奏法」の入門編でした。いかがだったでしょうか?
アルペジオの運指を練習しておくと様々な演奏に応用しやすいので、一つの基礎練習としては取り入れていただけたら幸いです。
もしこの記事が評判がよろしければ、続編も書いてみようと思いますのでぜひご感想のコメントお待ちいたします。