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昭和の会社が令和の会社になろうとした日

これまで僕は家業のタイ子会社代表という立場でnoteを書いてきました。
ただ社長(父)も70歳を超えてそろそろ本社も完全承継という時期が近づいているのもあり、最近は専務代表取締役という肩書を持ち毎月一週間から二週間を埼玉の本社ノムラ化成で過ごすようになっています。
既存のお客さんや取引先さんへ挨拶に行ったりタイでやっている AppSheetの仕組みを移植するという試みをやる中、日本のメンバーとの個人面談を始めました。
タイでは自分が代表になるタイミングで350人くらいいるスタッフの中から中枢の25人くらいと個人面談をして、皆が会社をどう考えているのかというのを聞いていったのですが、それがタイで組織のあり方を考えるにあたって根幹となったという感覚があり、本社でもやるべきということで少しずつ話をしていきました。

就職活動中の甥っ子に『うちの会社どう?』と誘えない

面談はこちらから質問を投げかけて回答してもらい相手の話を聞く側に徹するというやり方なのですが、最後に「仮に自分に甥っ子がいるとします。その彼は仕事ができると親戚中でも評判です。その甥っ子が転職活動をしており、ノムラ化成でも同じポジションを募集しています。『うちの会社来れば?』と誘えますか?」と全員に同じ質問をしました。
結果は社員の75%が「無理」というものでした。ノムラ化成は岩槻の本社以外に栃木と群馬、大阪にも拠点があるのですが、特に本社では9割以上が「無理」というもので、この原因となっている要因として大きく以下のようなものがありました。

  • 心理的安全性が低く言いたいことがあっても言えない雰囲気

  • たとえ問題に対して声を上げても解決策が提示されない。提示されない理由の説明もない

  • 自分のところだけやればいい。協力し合う空気がない

  • 何も管理されておらず現場に丸投げ

  • 高齢化が進んでいる一方(なんと平均年齢58歳)で若い人が入ってこない。数年後には主要メンバーが皆いなくなるのではという不安

  • 評価制度がないので頑張る人が損をする仕組み

  • 謎な出勤日が多く休みが少ない

  • そもそもボーナスがない。寸志のみ

  • 昭和のまんま

このnoteは採用にも影響するので書くべきかどうかかなり悩みました。でも正直に書きます。ノムラ化成はボーナスが支給されず一律お小遣い程度の寸志だけ出るというのが長年の慣習なのです。それ以外にも上記のように様々な問題があるTHE昭和な組織の中で皆我慢しながら今に至っているという現実を改めて突き付けられました。

本社を昭和から令和へ

今回のヒアリングで本社の問題が高い解像度で理解でき、タイでやったように変革していくことを決意、パートさんや遠方の事業所を含む全員にリアルとオンラインでヒアリング結果のまとめを共有し今後の方針を発表する会を開催しました。
使ったスライドの中で肝の部分は以下です。

失われた平成をすっ飛ばして令和の会社へ
高齢化が進む現場に変化の象徴となる若い人材が来ている姿を想像してもらう(AI生成)
甥っ子に「ウチ良い会社だから来てみれば?」と言える会社に(AI生成)
とにかくボーナスを

この三つのいわば短期的な「ビジョン」を実現するためのアクションアイテムも同時に提案しました。

人事評価制度はタイで作ったものをベースに本社仕様に作り込んでいくこと、まず最低でも一か月分のボーナスを支給するために一か月分の人件費を公表、この金額の「利益」を一年で稼ぐために収入を増やす、支出を減らす方法を議論していこうとなりました。またその動きを定期的なものとして維持・継続するために「令和会議」という会議体を持つことにしました。

令和会議の説明

とにかく自由闊達な意見交換がしづらい会社の雰囲気だったので、この会議の中ではとにかく自由に発言ができるというのをグランドルールとして打ち立てました。
またこんな風に動きを立ち上げたところで「結局そう言ってもすぐ本社抜けてタイ戻っちゃうんでしょ?」と思われてしまう懸念があったので、タイ法人の歴史と役割、収支状況、既存事業や新事業の状況や活動を可能な限り説明、今後僕は1:1の割合で本社とタイに注力していくという意思表明をしたり質疑応答をして一連の発表会が終わりました。
ただ聞きっぱなしで終わるよりも実際に皆に参加してもらう場を設けようと思い、そのまま早速ブレストのワークショップに移りました。お題は「ボーナスの原資となる一か月分の人件費を稼ぐためのアイデア」というもので、個人の考えを付せんに書き出してからグループ、そして全体に共有してもらったところ、説明会直後に冷え込んでいた雰囲気がワイガヤになりました。

付せんにアイデアを各自書いてもらいグループの中で説明してもらう
「収入を増やす」「支出を減らす」に分類して最後に各グループ代表者が全体に発表

有志メンバーの令和会議が始動

令和会議の参加メンバーは有志としました。業務の負荷が増えても会社を良くしていく活動に加わりたいと思う人が手を挙げてくれ、最終的に10人強での開始になりました。ただ上司が参加しない会議に部下が参加しづらかったり、あるいは令和会議で決まったことを後から上司にあたる人が反対して逆回転するのを防ぐため、「一定以上の役職者は原則参加、不参加の場合は令和会議での決定事項に従う」というルールも決めました。

そうして今日までに二回の会議が行われました。第一回目は思うように話が進まず正直結構オチたのですが、その反省も踏まえて臨んだ第二回目では闊達な意見交換が行われ、数々の決定事項が生まれました。例えば以下です。

  • 年間休日を大幅に増やす:現在は年間休日110日でお盆や正月以外の祝日はほとんどが出勤日に設定されており、土曜出勤もたまにあります。多くの人がここで有給消化をするため、出勤日なのに会社に出ている人は数人、生産はほぼ止まっているというのが常です。ならば休みにしようと思ったのですが、念のため2024年中は翌月と翌々月の土曜祝日の出勤日を休みにできるか毎月検討していき、問題がなければ2025年度のカレンダーで土日祝日全部休みにしてしまおうという計画です。とりあえず直近で8月の土曜出勤日一日と9月の祝日出勤日二日の合計三日が晴れて休みになりました。

  • 人事制度策定分科会:ボーナスを支給するだけでなくそれを貢献度合いに応じて分配するために人事制度策定に動き出しました。さすがに令和会議の10人以上で人事制度を話し合うと前に進まなくなる可能性があるため、少人数の分科会を設定し、タイで作ったように会社の行動指針(バリュー)を定め、パフォーマンスと同じように評価するという制度作りが始まっています。

  • 呼び方を「さん付け」にしよう:本社は皆役職名で呼び合う文化でした。僕自身は「さん付け」文化の会社に最初入ったため、個人的にだけ「専務と呼ばないで」とか言っているのですが、令和会議メンバーから「『さん付け』のほうがもっとオープンな雰囲気になる」という意見があり、これを全社で適用することにしました。最初はちょっと戸惑うと思いますがすぐに慣れるはずです。

他にもカイゼン活動を始めようとか原価低減策について次は話そうとか、あるいはタイで導入したGoogle Workspaceを日本でも導入しようなど、この会議体抜きでは出てこなかったであろう意見が生まれてきており、超昭和だった会社が生まれ変わる機運が芽生えてきています。

問題は山積、でもやるしかない

このように新しい動きをはじめましたが全員が同じベクトルを向いているわけではありません。決してポジティブでない意見も色々聞こえてきますし、早速「令和会議なんてやめちまえ」という超ダイレクトなことも言われました。でも令和会議の中で僕は「この活動がコケたら会社はもう終わりだと思っている」と心からの本音を伝えました。ネガティブな意見が出ても「私へこたれへん!」と辻本清美氏の気持ちです。(ただたまに折れそうです)。また真剣にこの動きに賛同してくれるメンバーの存在は本当に心の救いになっており、令和会議が良き方向に進むためのエンジンであるという実績を積み重ねていけば賛同者も増えると信じています。

若手人材の採用も開始

平均年齢58歳のノムラ化成において人材の高齢化は喫緊の課題で、事業存続のためにはとにかく若い人に入ってもらわないといけません。これまでの状態で入ってくれる若い人はどう考えても皆無なわけですが、現在は少なくとも「変わり始めている」という事実を伝えることができるようになりました。ここまで書いたように「ボーナス出ない」をはじめとして待遇はかなり厳しいものの、これからどんな風に変わるか、タイでやっていることなどを前面に押し出して攻めの採用を開始することにしました。決して簡単でないのは間違いありませんがどんな人に出会えるか楽しみです。

「今オレ生きてる」感がヤバい

僕自身はタイでストリートスマートという別の会社に事業参画し、Googleのビジネスが本格的に始まりました(今度別note書こうと思います)。そちらの忙しさや仕事の難易度は半端ではなく、自分のリソースのかなりの部分を費やしている状態なのですが、自己成長と将来への期待が今までとは別次元だと感じており、本社滞在中はもっと本社のことをするべきなのにという気持ちと日々葛藤しながらタイやシンガポールとウェブ会議をしたり様々な仕事をしています。週末も仕事ばかり、自分がもう一人欲しいと思う今日この頃ですし、しょっちゅうキャパオーバーになって頭を抱えていますが、本社の変革、タイでの新事業と既存事業の構造改革など全部ひっくるめて「あ、オレ今生きてるわあ」としみじみ思います。
しかしこんな風にレッドゾーンで張り詰めた状態を長くは維持できないのは間違いなく、折れる前に回転数を落としながら未来のために今を生きていこうと思う次第です。


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