小宇宙、下諏訪
下諏訪に、マスヤゲストハウスという宿がある。ゲストハウス界隈で有名な宿である。
この度、積年の夢が叶い一泊できた。
大袈裟な話だが、「特急あずさは高い」という妄想が作り出した壁により、マスヤゲストハウスは長い間、僕を遠ざけていた。
フタを開けてみればそんなことはなかったわけだけど。
下諏訪駅からマスヤゲストハウスへは徒歩で5分ほどだが、その道中から既に「下諏訪」というエリアの特異性を感じることができた。
日本の田舎を代表するような駅舎とそこから伸びる道には既視感を覚えるが、予想に反してそこには多くの個人店が軒を連ねていた。その雰囲気は、旅の始まりから僕に「いい予感」を感じさせていた。
駄菓子屋兼バー、ジャズ喫茶、古着屋、まぜそば発祥の中華料理屋、スタイリッシュなお惣菜屋、昔ながらのスナックなどありとあらゆる店が徒歩圏内で元気よく営業している。それらに紛れて下諏訪温泉の公衆浴場が点在していて、それは全て280円で利用できて、おまけに朝5時から夜22時までやっている。諏訪大社という由緒正しき寺が春宮と秋宮に分かれてそんな街を守るように囲っている。下諏訪という小宇宙が完結していた。
その中心に、築100年の旅館を改装したゲストハウスがあるのだから、その有機的な機能の美しさは目を見張るものがある。
父親の実家がこの下諏訪から近いところであったため、実は小さい頃からよく来ていたエリアであった。しかし当時の感覚では、来てもなにも面白いことはなく退屈な場所だと思っていた。一家で数時間かけてきては、特になにをすることもなく不機嫌になりながら帰る、あまりいい思い出のない土地であった。
当時からこの土地の魅力に気が付けていたらどうだったのだろう。
来るたびに一軒ずつお店を開拓し、中にはリピートする店もできたりして、いつの間にかゲストハウスの常連になり、帰省が楽しくなっていたかもしれない。第二の故郷となっていたかもしれない。
みんながみんな好きになるわけではなくても、どこかの誰かは下諏訪のなにかに引っかかって好きになるかもしれなくて、そうやって土地の価値と自分の好きが繋がっていけば予想もしなかった救いが生まれることだってある。
ここは美しく完結しているように僕には思えたけれど、他の小宇宙を探してまた旅をしたいと思った。
旅が好きな自分を再発見できる場所だった。
あとの言いたいことは写真(iphone)に任せたい。